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孤高の凡人

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幸先坂

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「あー結婚したい、幸せになりたい」
ファミレスでミックスグリルのハンバーグをお箸で一口サイズに切り分けながら彼女はそう呟いた。その言葉はじゅうっと鉄板にあたり、不自由に消えた。

バブル時代を経験してきた彼女は若き頃より仕事をブイブイ頑張ってこられた。部下を従え、モーゼのように海を割って、この世知辛い社会を歩んでこられた。結果、オニオンソースが付着した血色の悪い唇のその向こう側から放たれた言葉は、『幸せになりてぇ』という叫びにも似た吐息であった。

私はなんとなく彼女をグーで殴りたかったが、やめた。
手にオニオンソースが付くかもしれないと思ったからだ。
 
私は彼女から幾度もなくそのような悩みを聞かされてきた。そして本日も「幸せになりてぇ」と言う彼女に対して私なりの哲学を雄弁に語ることにした。
 
まず、はじめに我々男性サイドはおっぱいが好きである。
大きなおっぱい、小さなおっぱいに関わらず、おっぱいが大好きである。
そしてそれは決して下世話な話ではなく、我々が男性サイドがおっぱいが大好きな理由、これはなぜかと説明すると、我々男性サイドは彼女、嫁に関わらず、レディにただただ『母性』を求めているからである。
幼き頃、母のその血に似た成分の乳を自身の栄養に変換して我々は成長してきた。その記憶、命の記憶こそがおっぱいが好きということに由来し、我々はそこに無意識に母性を感じているのだ。聖母マリア、マザーメアリーを求めているのだ。
結婚を望むにはまず男性と出会わなければならない。
そしてそれをお付き合いへ発展させなければならない。
その最も簡単な方法は、おっぱいをこれでもかと強調するような洋服を着て、ガンガン露出していけば誰でもその溢れる母性を剥き出しにすることが可能であり、わざわざ合コン、街コン、相席屋などに行かなくても、男の方から蝿のように群がってくる。
 
しかし、彼女は年齢的にも顔面的にも、この強力な武器は武器になり得ない。というかむしろそのたれパンダは減点要素となり、お付き合いはおろか結婚なんて到底無理なのである。
更に私は『母性』そのもので勝負するという提案をした。
我々男性サイドは『お母さん』を求めているのであり、お母さんと言えば家事、それがバシッとこなせれば、母性を感じてもらえるだろう。
しかし彼女には『家事』という概念が欠落しており、日々コンビニエンスストアーでたまごサンドとカップ式ポタージュスープを購入して、これを食事としていた。
彼女はこの情報時代にWindows98程度のスペックしか持ち合わせておらず、インテルが入ってなかった。
私が彼女の方を見ると、ゴマアザラシのような表情で鼻息荒くし、目の前のチキンにまぶされたパセリを吹き飛ばし、フンフンと聞き耳を立てていた。その姿は私の想像する母性とはかけ離れていて、強い嫌悪感と吐き気を伴った。
私は私の浅はかな哲学が間違っていたと猛烈に反省して私の方に飛んできたパセリを手で払い、その手をグーにしてなんとなく彼女を殴った。
 
口からオニオンソースが飛び散り、その動物性由来の油分がキラキラと空中を舞った。
 
キラキラキラキラと舞った。

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