全体印象
新海誠監督作品「秒速5センチメートル」(2007年)を視聴しました。この方の作品を見るのは「言の葉の庭」、「ほしのこえ」に続いて3本目です。
映画で一番驚いたのは主題歌「One more time, One more chance」(歌:山崎まさよし、1996年)の歌詞があまりにも作品にマッチしていた事でした。まず曲が先にあって、それに合わせて映画がつくられたような、そんな印象を持ちました。
早朝の出勤前に映画を見て、すかさず主題歌をダウンロードし、出勤退勤時の車内と仕事の合間にリピート視聴し、帰宅後にまた映画を再視聴し、最後の主題歌には号泣するという……
これ、なんなんでしょうね。
この作品は一種の麻薬ですか?!
そう思いたくなるぐらい、向精神薬に中毒症状でも起こしたような、そんな気分を味わいました。
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概要
あまりネタバレ無しで作品や監督についての概要を。
新海誠監督のおもな劇場公開作品です。
01.「ほしのこえ」(2002、25分)
02.「雲の向こう、約束の場所」(2004年、91分)
03.「秒速5センチメートル」(2007年、63分)
04.「星を追う子供」(2011年、116分)
05.「言の葉の庭」(2013年、46分)
私が見た新海監督の3本はいずれもレンタル視聴で、「ほしのこえ」には「彼女と彼女の猫 Their standing points」(2000年、4分46秒)が一緒に収録されていました。
「彼女と彼女の猫」は原作・新海誠のクレジットで「彼女と彼女の猫 -Everything Flows-」(彼女と彼女の猫 EF)として今年(2016年)の3月に全4話で放送されていました。
(各話約8分、放送は「ULTRA SUPER ANIME TIME」⦅ウルトラスーパーアニメタイム⦆枠、BS11及び東京MX)
第1話を見逃がしてしまったのが痛かったんですけど、「彼女と彼女の猫 EF」もしみじみと味わいのあるとても良い作品でした。
「秒速5センチメートル」を視聴された方には説明不要ですが。
作品タイトルの意味は最初に語られたように「桜の花びらが舞い落ちる速度」になります。
「ねえ、秒速5センチなんだって。桜の花の落ちるスピード。秒速5センチメートル」
(篠原明里、cv:近藤好美)
また秒速5センチは桜だけでなく、雪の舞い落ちるスピードにもかけてありますね。
桜や雪が舞い落ちるスピードは決して速くないけど、そんな速度でも人に長い時間が経過してしまえば、心はずいぶん変化してしまうもの。その心の変わりようを批判するわけでなく、懐かしさをともないながら慈しむような、そういう作品かなぁと思いました。甘さと痛さとが同居した作品ですね。
映画のおもなスタッフとキャスト
「秒速5センチメートル」のおもなスタッフとキャストです。
(スタッフ)
監督・脚本・原作・絵コンテ・演出・キャラクター原案・美術監督・色彩設計・撮影・編集・3DCGワーク・音響監督:新海誠
作画監督・キャラクターデザイン:西村貴世
美術:丹治匠・馬島亮子
音楽:天門
アフレコ演出:三ツ矢雄二
主題歌:「One more time, One more chance」(歌;山崎まさよし)
挿入歌:「君のいちばんに…」(第2話、歌:LINDBERG)
挿入歌:「あなたのための世界」(第2話、歌:みずさわゆうき)
(キャスト)
- 遠野 貴樹(とおの たかき、cv:水橋研二)
- 篠原 明里(しのはら あかり)
cv:近藤 好美(第1話「桜花抄」)、 尾上綾華(第3話「秒速5センチメートル」) - 澄田 花苗(すみだ かなえ、cv:花村怜美)
- 水野 理紗(みずの りさ、cv: 水野理紗)
DVDに付随していた監督のインタビューによると、「秒速5センチメートル」は元々10本前後あった短編の中から3本を選んだ形になるようです。その3本が、
第一話:「桜花抄」(おうかしょう、約28分)
第二話:「コスモナウト」(約22分)
第三話:「秒速5センチメートル」(約15分)
登場人物たちの年齢は、「桜花抄」が小学校から中1、「コスモナウト」が高校3年、また「秒速5センチメートル」は20代後半ぐらいの設定になるようです。
1話ごとの感想
ここからはネタバレありで。
1話ごとに感想を書いてみます。
第一話「桜花抄」
激しさを増してゆく雪が印象的でした。
電車は遅延したり停車したりしつつも、貴樹(たかき)は明里(あかり)の待つ両毛線「岩舟駅」に少しずつ近づいているハズ。しかし待ち合わせの19時を過ぎれば過ぎるほど、明里がどんどんどんどん遠ざかってゆくような、そんな不思議な錯覚を味わいました。近づいているのに遠ざかっていく感覚というのか。
大事な待ち合わせの日、3月4日金曜日の空もよう。
天候が雨から雪へと変わった段階で、嫌な予感が胸をよぎりました。これはヤバそう…… 貴樹のルートは雪で停車中の野木駅から、小山で乗り換え岩舟へ ―
岩舟駅が絶望的なほどに遠い……
激しさを増す雪に進まない電車、刻々と過ぎてゆく待ち合わせの時間、不安が募り続ける時間帯でした。
(明里はもう…… 待っていないのでは?)
そんな気分で、一回目の視聴はとてもやきもきさせられました。
キスをした瞬間のこと。
これは貴樹と明里の2人が最も近づいた瞬間で、かつ遠ざかり始めた瞬間でもあったんでしょう。最も近づいた瞬間を過ぎてしまえば遠ざかりはじめていく。ある意味2人の距離は、惑星同士の接近にも似た距離感を辿っていたのかもしれない。
第二話:「コスモナウト」
花苗(かなえ)が犬みたいで可愛かったです。
もちろん彼女が犬を飼っていて、もしも自分に尻尾があったら貴樹と一緒のあいだ、嬉しさで尻尾を振っているだろうという彼女の想像が理由のひとつでしょうけど。時間を合わせ、校舎の壁からちらちら様子をうかがう花苗の様子が可愛かったです。
そして同時に、花苗がとても悲しい。
ようやく告白の決意をしたのに彼女のセリフは一回目が「……しくしないで」、二回目では「優しくしないで」。貴樹がまるで自分を見ていないことをハッキリと自覚し、「優しくしないで、辛いから」とつながってしまうのがね、悲しい片思いでした。
第二話はそんな2人の様子を二度ほど、パック飲料の容器とストローで表現していると感じました。
一回目は「種子島コーヒー」と「デイリィ ヨーグルッペ」
ヨーグルッペ(花苗)が種子島コーヒー(貴樹)に一生懸命寄り添おうとしてしています。
ニ回目は「種子島コーヒー(大)」と「種子島コーヒー(小)」
こちらでも小(花苗)が大(貴樹)に寄り添うように置かれているのですが……
しかし一回目・ニ回目ともに貴樹の「種子島コーヒー」は、口を開けた状態にストローが刺されています。
ストローの先端部分は上空を向いており、貴樹の気持ちが花苗に向いていないことを表現していると感じました。いっぽう花苗のストロー先端は、ニ回とも貴樹の方を向いているんですよね。
作中、貴樹はメールを打っていました。
送信することの無いメール。出せばいいのに、と思いましたが……
しかし二度目の視聴でメールのあて先が未入力だか未登録になっていることに気づいたので、もしかすると貴樹は明里のメールアドレス自体を知らないのかもしれないですね。いったい2人に何があったんだろう。
第三話:「秒速5センチメートル」
けっきょく貴樹(たかき)と明里(あかり)はどうなったのか?
それが初視聴時最大の関心事でしたが、残念ながら2人のあいだにその後の進展は何も無かったようです。
貴樹は3年ほど付き合ったメガネの女性(水野 理紗)と別れ、明里の左薬指には婚約指輪が光り別の男性との結婚が控えている状態。ううむ、そうだったのか……
貴樹は夜の街を険しい顔つきで足早に歩き、タバコを吸い、部屋には空き缶が転がっている荒んだ生活の様子。なかなかにつらい精神状態の日々のようです。以下、貴樹のモノローグを要約した文章です。
ただ、生活しているだけで悲しみは積もる ―
気づけば日々、弾力を失っていく心がひたすらツラかった……
かつてあれほど真剣だった想いがキレイに失われていることに僕は気づき、もう限界だと知ったとき、会社を辞めた ―
「秒速5センチメートル」における貴樹の「真剣だった想い」は、おもに明里に対する想いになっていますが、人によってその想いはさまざまなものに置きかえが可能だと思います。初恋でもいいし、仕事でもいいし、夢中になった趣味でもいい。
誰にでも何かに真剣になる時期ってのはあって、時間が経過してふとふり返ってみると、いつの間にか当時の夢中な気持ちが失われていることに気づいてしまうもの。視聴後しばらくしてそんなことを思いました。
新海誠監督はインタビューで、この映画は驚くほど中身が少ないと答えていました。
おそらく中身が少ないがゆえに、誰にとってもそれぞれの想いを置きかえ可能にする “余白” が大きいんでしょう。誰にとっても、それぞれ好きなもの当てはまる余地が大きいというか。
私の場合だと、小学生の頃とても仲良くなったけど、結局周囲にからかわれて気まずくなり疎遠になった女の子を思い出しました。そういえば10年以上経ったあと、人づてにその人が結婚したってのを聞いたなぁ……
ははっ、古い話だ (=´σー`)
またそれ以外だと、かつてあれほどバンドに夢中になった時期や、マンガ頭文字Dの影響で毎週のように峠に出かけた時期もそれに近いような気がします。もしかすると将来……
ブログもそうなる時がくるのかなぁ
なんというか新海誠さんの作品は、大ベテランの作家がつくるようなノリがありますね。
青春を振り返り、甘さと苦さを同時に感じるような雰囲気がどこかにある気がします。3本しか見てないですけど「秒速5センチメートル」は、とくにその傾向が顕著だと感じました。
主題歌の歌詞と動画
最初に書いたとおり、映画と主題歌がピタリ合っていることに驚きました。
以下、「秒速5センチメートル」の主題歌「One more time, One more chance」の歌詞と、主題歌のかかる動画を貼ってみます。
「One more time, One more chance」の歌詞
作詞・作曲・歌:山崎将義
これ以上何を失えば 心は許されるの
どれ程の痛みならば もういちど君に会える
One more time 季節よ うつろわないで
One more time ふざけあった 時間よ
くいちがう時はいつも 僕が先に折れたね
わがままな性格が なおさら愛しくさせた
One more chance 記憶に足を取られて
One more chance 次の場所を選べない
いつでも捜しているよ どっかに君の姿を
向いのホーム 路地裏の窓
こんなとこにいるはずもないのに
願いがもしも叶うなら 今すぐ君のもとへ
できないことは もう何もない
すべてかけて抱きしめてみせるよ
寂しさ紛らすだけなら 誰でもいいはずなのに
星が落ちそうな夜だから 自分をいつわれない
One more time 季節よ うつろわないで
One more time ふざけあった 時間よ
いつでも捜しているよ どっかに君の姿を
交差点でも 夢の中でも
こんなとこにいるはずもないのに
奇跡がもしも起こるなら 今すぐ君に見せたい
新しい朝 これからの僕
言えなかった「好き」という言葉も
夏の思い出がまわる
ふいに消えた鼓動
いつでも捜しているよ どっかに君の姿を
明け方の街 桜木町で
こんなとこに来るはずもないのに
願いがもしも叶うなら 今すぐ君のもとへ
できないことは もう何もない
すべてかけて抱きしめてみせるよ
いつでも捜しているよ どっかに君の破片を
旅先の店 新聞の隅
こんなとこにあるはずもないのに
奇跡がもしも起こるなら 今すぐ君に見せたい
新しい朝 これからの僕
言えなかった「好き」という言葉も
いつでも捜してしまう どっかに君の笑顔を
急行待ちの 踏切あたり
こんなとこにいるはずもないのに
命が繰り返すならば 何度も君のもとへ
欲しいものなど もう何もない
君のほかに大切なものなど
動画
本編動画
映画本編でかかる主題歌の動画です。
下に貼ったDVD特典よりも、こちらの動画の方がロケーションはあっていますね。
「交差点」「桜木町」「急行待ちの踏切」などなど。
初めて見たとき、ロケーションと歌詞の一致ぶりにビックリしました。
DVD特典動画
こちらの動画は映画の進行に沿っていますね。おおよそ1話、2話、3話と。映像が話の順番に沿っていると思います。
映画を見て主題歌「One more time, One more chance」を聞いたり動画を見るのは、至福なひとときですね。映画本編の主題歌動画は、貴樹と明里の足がホームをまたぎ、高速PANアップでタイトルコールのシーンに毎度毎度鳥肌が立ってしまいます。
はぁぁ、
いつでも捜しているよ、こんなとこにいるはずもないのに、
かぁ……
最後に
「秒速5センチメートル」は結局、青春の話な気がします。
誰にでもある熱い想いの時代を振りかえるような話ってイメージ。現実の場所をロケーションにしているので、余計に当てはまりやすいのでしょう。
また主題歌と内容が密接にリンクしているので、余計に印象が強く残りやすいと思います。映画も主題歌も、
甘くてほろ苦い。
ゆえに、中毒症状を引き起こす麻薬のような作品 ―
視聴後はそんな印象が強く残る作品でした。
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