やはり俺がSSを転載させるのはまちがっている。   作:まるせん

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八幡「ゴールデンウィークか」


八幡(独り言のつもりで呟いたのだが、出した声が大きかったか部室で思い思いに活動していた面々がこちらを向く。いや、活動といっても本を読んだりお喋りをしたりしているだけで、奉仕部として何かしているわけではないのだが)

結衣「え、ヒッキー何か予定あるの?」

雪乃「まさか。むしろ例年通りに一人で過ごすからもて余している暇をどう潰そうか悩んでいるに違いないわ」

小町「お二人とも。いくら本当のことでも言っていいことと言うまでもないことがありますよ。そりゃお兄ちゃんは面倒臭がって家族旅行すら参加しませんが」

大志「言っちゃいけないことはないんすか…………てか家族旅行も参加しないって」

八幡「いいんだよ、旅行なんて人混み溢れる時期しか行かねえんだから。小遣いもらって家でだらだらしてる方がずっといい」

結衣「ホントにヒッキーじゃん…………」

大志「まあ人混みが嫌ってのはわかるっすけどね。特にうちは小さいのがいてあんま目が離せないからなおさらっす」

八幡「だな。小町も小さいころは好奇心旺盛で、手を繋いどかないとすぐどこか行こうとしたもんだ」

小町「ちょっとお兄ちゃん! いきなりプライバシーを暴露しないでよ!」

八幡「いっこ前の自分のセリフを思い出してみろよ…………」

雪乃「それで、結局ゴールデンウィークがどうかしたのかしら?」

八幡「ん、ああ。確かに今んとこ予定はねえけどさ、ちょっと今年は出かけようかなって」

結衣「えっ!? ど、どこに?」

八幡「湘南の、江ノ島だ」

結衣「湘南って…………神奈川の?」

八幡「ああ。さすがの由比ヶ浜もそれくらいは知ってたか。えらいぞ」

結衣「馬鹿にしすぎだし! サザンとかが歌ってるじゃん!」

小町「基準はそこなんですね…………」

大志「でも何で江ノ島に行こうと思ったんすか? えーと、弁天様がいるんでしたっけ?」

雪乃「そうね。竹生島、宮島と並んで弁才天を祀る三大弁才天の一つよ。そして弁才天は七福神の紅一点ね。比企谷くん、いくら現実ではモテないからってアニメやゲームに飽き足らずそんなところにまで手を伸ばすなんて…………」

結衣「え、ヒッキーキモい!」

八幡「おいこら、観光地に行くだけでそこまで深読みするんじゃねえ。そもそも弁天様はどっちかと言うと縁結びに近いだろ。本人じゃなくて恋人が欲しいとかってお願いに行く感じで。江ノ島には恋人の丘ってのがあるしな」

小町「あれ? でもカップルで行くと別れるジンクスとかなかったっけ? 上野の不忍池とかも弁天様だったような」

八幡「弁天様が嫉妬するとかいうワケわからん理由でそう言われてるな。でも江ノ島の弁天様って結婚してるぞ」

平塚「何だと!? リア充だったのかあのアマ!!」ガラッ

八幡「うおっ…………いきなり何すか先生。しかも神様を罵倒して」

平塚「いや、面白そうな話をしてるなと思って立ち聞きをな。しかし仲間だと思っていたのに既婚者だったのか。嫉妬する側だと思っていたらされる側だとは…………シット!」

雪乃「仮にも国語の教師がその駄洒落はどうなのかしら…………何か御用でしたか?」

平塚「ん、ああ。今の話にも関わるが、ゴールデンウィークはどうするのかと思ってな。今年から人数も揃って正式な部活に認知されたし、部として活動するなら報告が必要なのだ」

大志「そういえば去年の夏休みはボランティア行ったんでしたっけ?」

小町「うん。小町も参加したよ。お兄ちゃんと一緒に」

八幡「思いっきり騙されてな。あんなのはもうゴメンだぞ。だいたい俺は今言ったように予定があるんだ」

大志「でも江ノ島って日帰りで行ける距離じゃないすか? 一日しか埋まらないすよね」

八幡「準備に一日、当日に一日、体力気力の回復に一日使うぞ。だからこんな機会でないと行かん」

結衣「どんだけ体力ないんだし…………あ、じゃあさじゃあさ」

八幡(おいやめろ! 良いこと思い付いたって表情でその続きを言うな! 悪い予感しかせんぞ)

結衣「せっかくだからみんなで江ノ島行ってみようよ!」

八幡(ほらやっぱり)

雪乃「…………みんなで、というのは奉仕部でということかしら?」

結衣「うん! あたしもまだゴールデンウィークの予定ないし、みんなでお出かけするのもいいかなって」

八幡(いやいや、雪ノ下はきっと予定が入ってんだろ。だからこの企画はなかったことに)

雪乃「そうね、たまにはいいかしら。小町さんと川崎くんはどうかしら?」

小町「はい、お供します! 今年はお父さん達あまりお休み取れなかったみたいなんで小町も空いてたんですよ」

八幡(ダメだったか…………そんで何その情報。俺知らないんだけど)

大志「えーと、うちは確認してみないとわかんないっすね。具体的な日程はまだ決めないんすか?」

結衣「うーん、ヒッキーが連休真ん中がいいって言ってるし、五月の四日でいいんじゃない? あ、もしよかったら沙希も呼んでみたらどうかな」

大志「え、いいんすか?」

雪乃「ええ、知らない仲ではないのだし」

八幡(出会った当初は険悪だった雪ノ下と川崎も今じゃ普通に会話をするくらいにはなったんだよな…………って、そうじゃなくて)

八幡「おい、俺は誰かと行くなんて一言も…………」

平塚「ふむ、江ノ島と言えば歴史的観光地でもあるな……よし、比企谷に川崎。新入部員としてそこで学んだことをレポートにしたまえ。そうするならばこれも部活動の一環として申請しておこう。交通費くらいなら部費から出ると思うぞ」

大志「本当ですか? なら行けたら書きます!」

小町「はい、小町も書きます。お兄ちゃんも手伝ってね」

八幡「うぐ…………」

八幡(平塚先生は俺のことなどお見通しだというようにニヤッと笑う。確かに高校生にとってあの距離の交通費が浮くというのはありがたいことだろう)

八幡「はあ……わかったよ」

平塚「決まりだな。具体的な計画ができたら報告したまえ。申請書を作成するのでな」

雪乃「わかりました」

八幡(もうすぐ会議が始まるからと平塚先生は部室を出ていった)

大志「うーん、ホントにカッコいいというか男らしいっすね平塚先生って。立ち振舞いとか態度ですけど」

八幡「だな。男らしすぎて逆に男が近寄らないまである」

大志「まあ男側の気持ちもわかりますけど…………」

雪乃「それはただ単に情けない男性が増えているだけのことではないかしら? 目が腐ってて卑屈な男性とか」

八幡「おい、目は関係ないだろ。卑屈なのは認めるが」

結衣「認めちゃうんだ…………」

大志「そんなことないっすよ! お兄さんは誤解されがちなだけで、やるときはやる凄い人なんすから!」

八幡「お、おう。ありがとな」

八幡(これである。なぜか大志はやたらと俺を持ち上げてくるのだ。しかもお世辞や社交辞令でなく、本気で)

八幡(奉仕部も小町を追っかけて、とかでなく、むしろ小町より早く入部届けを出してきた。どうも理由は俺がいるかららしい。俺、こいつに何かしたかなあ…………?)

八幡「と、とりあえず四日でいいんだな? 行ける面子決まったら計画立てようぜ」

雪乃「ええ。あまり大人数になるのも好ましくないけれど、川崎さん以外も少しくらいなら誰か誘っても構わないと思うわ」

八幡(おお。雪ノ下からこんな言葉が聞けるとは。去年だと考えられんな)

小町「そういえばお兄ちゃん。結局何で江ノ島行こうと思ったの?」

八幡「ん、ああ。昔一回行ったことはあったんだけどな、そん時岩屋洞窟が工事中で入れなかったんだ。それをふと思い出して行ってみようと思ってな。夏休みとかだともう予備校が受験スケジュールに入っちまうから余裕あるうちがいい」

結衣「岩屋洞窟?」

雪乃「確か島の裏側に波の浸食によって出来た洞窟ね。元々はその洞窟内が信仰の対象で、高名な僧侶などがそこに籠ってお祈りをしていたのよ」

八幡「詳しいな。行ったことあるのか?」

雪乃「いえ。でも何か機会があれば行ってみたいとは思っていたのよ」

大志「名前は有名ですもんね。何があるかってのはよく知らないすけど」

八幡「結構歩くし興味がなければつまらんからそこは覚悟しとけよ」

雪乃「とりあえず今日はもう遅いし、解散して計画は明日以降にしましょう」

彩加「へー、江ノ島に行くんだ」

八幡(翌日、一緒に教室で昼飯を食っている戸塚に話題を振る)

八幡「ああ。一人で行くつもりだったのになあ…………そうだ、よかったら戸塚もどうだ?」

彩加「あ、ごめん。行きたいけどその日は練習試合が入ってて…………江ノ島行ってみたいなあ…………」シュン

八幡「あ、いや、気にすんなよ。何だったらまた時間ある時に二人で行ってみようぜ」

彩加「本当!? 約束だからね!」パアア

八幡「お、おう(かわいい)」

義輝「我もその日はイベントがあるのだ。すまぬがまた別の日に……」

八幡「いや、お前は誘ってないから」

義輝「ぐふう!」

彩加「でも奉仕部がちゃんとした部活になるとは思わなかったね。小町ちゃんはともかく川崎さんの弟さん………大志くんだっけ、八幡のことを慕って入って来たんだよね?」

八幡「ああ。俺、慕われる理由なんて一切ないと思うんだがな…………誰かと勘違いしてんじゃねえか?」

姫菜「そりゃ男が男に近付くなんて理由は一つしかないじゃない」グフフフ

八幡(妖怪腐女子が現れた!)

彩加「あ、海老名さん」

姫菜「はろはろ~お三方。結衣から聞いたよヒキタニくん。慕ってくる後輩の男子とゴールデンウィークに稚児ヶ淵に行くんだって?」

八幡「情報が限定的過ぎる! 抽出の仕方がおかしいだろ…………」

彩加「稚児ヶ淵?」

八幡「あー、江ノ島にある名所の一つだ。海の景色の良いとこだよ」

彩加「へえ」

姫菜「私達のグループも誘われたけどみんな部活だったり家の都合だったりでダメだったんだよね。うう…………たいはちを堪能するチャンスが」

八幡「最初からないからな? あと俺は後輩に対しても受けなのかよ…………」

姫菜「あははっ。じゃ、お食事中にお邪魔しました。またね~」

八幡(海老名さんは手を振ってその場を離れていった。戸塚だけが律儀に手を振り返す)

八幡「嵐のような人だな本当に…………」

義輝「うむ。ところで八幡、稚児ヶ淵とは確か…………」

八幡「やめろ。戸塚の前ではシャレにならない」

義輝「であるな…………」

彩加「?」

八幡(放課後になり、図書室に寄った後に奉仕部部室に向かう)

八幡「うっす」

八幡(部室のドアを開けるとすでに俺以外の部員が揃っていた。各々に適当に挨拶する)

大志「そういえば昨日の話なんすけど」

雪乃「ゴールデンウィークのことかしら?」

大志「はい。親と姉ちゃんに確認してきたんですが、その日にやるヒーローショーの招待券が当選したらしいんすよ。で、親と弟はそれに行って、姉ちゃんは妹の面倒を見とくからって」

結衣「あー、じゃあダメなの?」

大志「でもそんな状況で俺だけ行くのもどうかって思いまして…………あの、妹も一緒に連れていってもいいっすか? 迷惑かけないようにしますんで!」

雪乃「私は構わないのだけれど、みんなはどうかしら?」

八幡(雪ノ下の言葉に由比ヶ浜も小町も頷く。ちなみに俺に発言権はない)

大志「ありがとうございます! 今日帰ったらもっかい姉ちゃんに話してみます」

八幡「ちょっと待て大志。前もって話しとくことがある。一応川崎にとって重要なことだ」

大志「え、何すか?」

八幡「江ノ島ってな、そこらに猫がいっぱいいるんだ。猫アレルギーだろあいつ。程度は知らねえけど、ひどいようなら来ない方がいいとも伝えといてくれ」

大志「あ、そうなんすか。確か密着するくらいでなければ大丈夫みたいなこと言ってましたけど…………それも含めて話してくるっす」

八幡「おう…………で、どうした雪ノ下?」

雪乃「な、何がかしら?」

八幡「猫がいるって聞いたときからソワソワしているみたいだが」

雪乃「言いがかりはよしてちょうだい。そもそも…………」

八幡「あー悪かった悪かった」

八幡(また話が長くなりそうなのでさっさと切り上げる。俺は再び大志の方に向いた)

八幡「で、川崎がどうするかわかってから予定組んだ方がいいのか?」

大志「いや、それは大丈夫じゃないすかね。どうせ姉ちゃんは組まれた予定に従うだけかと」

八幡「あいつコミュ障だもんな。話し合いに参加してくることもなさそうだし」

小町「沙希さんもお兄ちゃんにだけは言われたくないと思うよ…………」

大志「確かに姉ちゃんは人付き合い苦手ですけど…………お兄さんとはわりとまともに話してるんすよね。時々でいいんでもうちょっと話してくれると嬉しいんすけど」

小町「あ、それはこっちからもお願いしたいね。もう少しお兄ちゃんに話しかけるよう沙希さんに伝えてよ」

大志「がってんっす」

八幡「おいこら、妙な話し合いしてんじゃねえ」

結衣「も、もうちょっとあたしも沙希とお話するからさ、心配しなくていいって。ヒッキーよりあたしの方が適役でしょ?」アセアセ

八幡「おう。任せたぞコミュ力の塊の由比ヶ浜さんよ」

小町「はあ…………」

大志「はあ…………」

八幡「?」

雪乃「コホン…………とりあえず決められることは早いうちに決めてしまいましょうか。今日は依頼もないことだし」

結衣「今のところ決まってるメンバーはここにいる人だけかな? 他に誰か誘ってる?」

八幡「戸塚を誘ったけどダメだった…………ダメ、だった…………」

小町「お兄ちゃん落ち込み過ぎ…………小町は特に。奉仕部とあまり関わらない人を誘ってもどうかと思うし」

大志「俺もそんな感じっすね」

結衣「優美子や隼人くんも空いてなかったから、あとはやっぱり沙希くらいかな」

雪乃「ではもうある程度決めてしまってもいいわね。まず、江ノ島へのアクセスだけれども…………行ったことあるのは比企谷くんだけよね? 何か意見はあるかしら?」

八幡「まあ普通に東京から藤沢経由の片瀬江ノ島駅でいいだろ。一番近いし乗り換えも楽だし」


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