法の支配――。民主社会の背骨をつらぬくこの考えを、議員はどこまで理解しているのか、不安と不信が交差する。

 会期末が迫る国会で、民法改正案の扱いが宙に浮いている。

 女性は離婚後6カ月は再婚できないと定めた民法について、最高裁は昨年12月、100日を超える部分は不合理な差別で憲法に違反すると判断した。

 これをうけて、政府はことし3月、再婚禁止期間を100日に縮める改正案を国会に提出した。妊娠していないという医師の証明があれば、期間にかかわりなく再婚を認めることなども盛りこまれている。

 それから2カ月が過ぎたが、成立する見とおしが立っていない。衆参両院の法務委員会には審議すべき法案が他にも多く残っていて、与野党間で話し合いが整わないという。

 嘆かわしい話だ。万が一にもこのまま閉会するようなことがあったら、国会の存在意義が正面から問われかねない。

 権力をもつ者が自分勝手にふるまうのを排し、法に服させ、市民の権利や自由を守る。

 それが法の支配だ。裁判所から基本的人権を侵しているといわれた法律はすみやかに正すのが、唯一の立法機関である国会の当然の使命ではないか。

 残念ながら、その使命を怠ってきた例がある。父母や祖父母を殺した者に、死刑か無期懲役刑しか科せられなかった刑法の規定は、違憲判決から廃止まで22年を要した。一票の格差の裁判でも、政党の利害や思惑がからみ、司法の指摘にしっかり向きあわない定数是正や先送りが繰り返されている。

 再婚禁止期間の見直し自体は与野党に異論がない。それなのに混迷におちいっているのは、選択的夫婦別姓なども審議の対象にしたい野党と与党の間で、綱引きが続いているからだ。

 家族をめぐる諸課題に国会がとり組むのは歓迎だ。だがその結果、すべてご破算になっては元も子もない。結婚を認めるか否かという、重大な人権にかかわる法改正であることを思い起こし、調整を急いでほしい。

 審議する法案の順番や日程をめぐっては、各党の間で様々なかけひきや取引が行われる。長年積みあげてきた慣行もある。多数党の横暴に歯止めをかける知恵も含まれており、すべてを否定するつもりはない。

 しかし、せめぎ合いの中でも頭におくべきことがある。

 それは、法の支配という考えであり、国会がつくる法律によって、一度きりの人生を左右される多くの市民の存在である。