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【社説】

金正恩新体制 核兵器では国民守れぬ

 北朝鮮で新しい金正恩体制がスタートした。核開発と経済建設の二兎(にと)を追う「並進路線」を堅持すると宣言した。国民の負担は増すばかりではないか。

 北朝鮮の労働党大会が三十六年ぶりに開かれ、金正恩氏は新設の労働党委員長に就任した。これまで第一書記として統治してきたが、祖父の金日成主席、父の金正日総書記とは別の最高指導者ポストをつくった。

 大会では実妹の与正氏が党中央委員に選出され、祝賀行事で兄を近くで補佐する姿が報道された。若い世代が国造りに関わるという意味もあろうが、金一族が中枢を占める構造が一層明確になった。

◆独裁超えた個人崇拝

 北朝鮮では独裁のレベルを超えた個人崇拝が父子三代続く。抗日独立を指揮した金日成主席を国父とし、直系の一族が将来も統治し続けるという考えだ。

 一人の指導者の指示だけに無条件で従う「唯一思想体系」が成文化され、中学生以上のすべての国民は、簡潔にまとめられた十カ条を暗唱せねばならない。「憲法は知らないが、十大原則は誰でもすらすらと言える」という。

 金主席の銅像と石像が各地にあり、金正日総書記の発言や業績をたたえる石碑も多い。建設費、維持費は相当なものだろう。小、中学校の授業は金父子の業績を学ぶ教科が中心になる。歴史教科書で金父子の活動を詳細に学ぶが、建国以後の記述には側近や功労者の人名は見当たらない。ナンバー2の存在などありえないという考えだ。

 だが、指導者に対する国民の不平、不満はなかなか聞こえてこない。長年の教育と思想統制、収容所や処刑を含む恐怖政治のためだ。軍と公安組織が相互に監視体制を築き、クーデターや体制転換の可能性は低いとみられる。

◆経済改革が安定のかぎ

 北朝鮮が当面、国際社会が望む体制に変化することはなさそうだ。周辺国と国際社会は金正恩体制と向き合い、緊張を解く道を模索するしか、方法はないだろう。

 それでも労働党大会以後、新しい経済政策を打ち出すという観測がある。正恩氏は大会初日の業務総括報告で「経済部門はまだ相応の高さには至っていない」と述べ、民生経済の不振を認めた。

 社会主義経済を掲げるが、配給制度は機能せず、国民が自衛のために始めた市場が全国に広がった。国家も市場の活動をある程度認めて、収益を上納させるという構造が定着した。農場や工場で目標を超える生産があったときは市場に出品できるなど、個人の経済活動が一部認められている。

 一方で、労働党や軍幹部など既得権層が実利を得て、トンジュ(金持ち)と呼ばれる存在になり貧富の格差が生じている。経済と暮らしについては、国民は不満の声を上げるという。

 指導部が食料や日常生活品を増産する政策ができるか、個人の生産意欲を高める経済改革をどこまで進めるか。金正恩体制安定のかぎになるだろう。

 ここでも、核、ミサイルが障害になる。正恩氏は報告で「人民経済の各部門でうまく均衡が取れず、生産部門もけん引役ができていない」と述べたが、核実験などに対する、国連安全保障理事会決議に基づく制裁が影響している。既に、原油や原材料を国外から十分調達できず、食料が不足し物価上昇を招いているという。

 「核兵器を持つのは自衛のためだ。先制攻撃はしない」と主張するが、制裁が続く限り、核保有によって国民を守るどころか、一層苦しい生活を強いることになりかねない。外部に頼らず、動員態勢によって国内生産を増やそうと訴える自力更生にも限界がある。

 兵器の能力については、米本土に届き核を搭載できる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の技術はまだ手に入れていないが、韓国と日本を射程に入れる短、中距離ミサイルは配備済みで、核の小型化も進んでいる−というのが、米国、韓国当局のほぼ共通した分析だ。警戒を解くわけにはいかない。

◆外交通じ緊張緩和を

 党大会を終えた北朝鮮が今後、対話に臨む可能性も排除できない。党人事で外相が指導部に当たる政治局員に昇格し、対米交渉の経験がある外務次官が局員候補になったのは、対話再開に向けた布石との見方もある。

 外交では全面勝利は望めない。まず、核実験と長距離弾道ミサイル発射を凍結して緊張緩和に取り組み、さらに自国の経済発展につなげる現実的な外交が、国民の利益にかなうはずだ。

 日本を含む関係国は制裁を履行して北朝鮮の挑発行動を抑止しながら、軟化する動きを見せたら対話の場に戻す忍耐強い戦略が必要になる。

 

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