これまでの放送

2015年4月19日(日)

なぜ急増?突然壊れる自転車

身近な乗り物、自転車。
走行中に突然壊れ、乗っていた人が大けがをする事故が増えています。


 

男性
「気づいたら顔中血だらけ。」

男性
「まさかボキッと、ぐにゃっと曲がってしまうってことは予想してなかったです。」 

車輪はもげ。
フレームは真っ二つに。
こんな、思いもかけない事故がなぜ増えているのか。
今日(19日)は、製品としての自転車の安全性を考えます。 

近田
「まずは、こちらからご覧ください。」

上條
「走行中に突然壊れるという事故があった実際の自転車です。
前輪と後輪をつなぐフレームの部分が真っ二つに折れています。」

近田
「毎日、自転車乗ってらっしゃるっていう方もいらっしゃるでしょうから、想像するだけ怖いですよね。」

上條
「壊れるとは思いませんもんね。
実は、自転車の製品としての安全基準を定めた法律というのは、日本にはないということを皆さんご存じでしょうか。

民間の団体が作った、BAA、SGなどの安全規格、こういったものはあるんですが、あくまでも自主基準ですので、法的な拘束力はありません。
しかも、これらを満たした自転車の数は全体の4分の1程度にとどまっています。

 

そしてこちらは、走行中に自転車が壊れて、けがをしたり、危険な目にあったという相談の数なんですが、この10年で2倍以上に増えているんです。」

近田
「自転車の安全性が揺らいでいるとも言えるこの状況。
事故の実態、そしてその背景を取材しました。」

なぜ急増?突然壊れる自転車

大阪、堺市に住む27歳の男性です。
走行中に自転車が突然壊れ、大けがを負いました。

男性
「まさかと。
そんなはずは、想定してないんで、通常起きないことなんで。」


 

自転車で自宅へ戻ろうとしていた男性。
いつもと変わらず、特に異常は感じなかったと言います。
しかし、突然、「バキッ」という音がして、地面にたたきつけられました。

男性
「起きた瞬間のことは、記憶があまりないんで、気づいたらもう自転車が折れて、顔中血だらけという状況でした。」

歯を8本、そして鼻の骨を折る大けがでした。

男性が乗っていた自転車です。
アルミ合金でできた幅10センチほどのフレームが真っ二つに折れていました。
購入から7か月後のことでした。


 

男性は、自転車をインターネットで購入。
中国製で価格はおよそ2万円でした。
同じようなタイプの自転車は店舗では5万円から6万円ほどしたため、ネットでの購入を選んだと言います。

 

この事故を調査した国民生活センターは、“亀裂はフレームの製造工程で、発生していた可能性があり、それが、走行時の負荷で破断したものと考えられる”と結論づけました。
販売した会社も、製品の欠陥は認めていますが、男性の治療費をどこまで補償するか今も争っています。
 

男性
「全ての自転車が安全で普通に乗れるものだと思っているので、すごく裏切られた気持ちでいっぱいです。」


 

実は今、国内の自転車は、9割以上が輸入品です。
平成2年に関税が撤廃されると輸入が増加し、12年には国産を上回るようになりました。
輸入製品の安全性のチェックはどうなっているのか。
店舗での販売とネットでの販売では、違いがあることがわかってきました。
まずは、店舗で販売されているケースです。
この日、大阪港に到着したのは、台湾製の自転車。

これらはすべて、メーカーの直営店で販売されるものです。
メーカーでは、港近くの事務所でフレームの強度、部品の不備などをチェック。
さらに試し乗りも行い、異常があれば、その種類全ての出荷を取りやめます。


 

自転車メーカーテクニカルマネージャー 秋吉健さん
「入念にチェックしておかないと、不良な商品がたくさん流通してしまう危険があるので、かなり厳しくチェックします。」


 

その後、店舗でも一台一台整備してから購入した人の元へ届けられます。
このように、店舗で販売される自転車は、いくつものチェックが行われる一方、ネット販売の自転車の中には、十分チェックが行われない場合もあります。
そのため欠陥品が出回るリスクが高くなるのです。

 

こちらはインターネットで売られていた、中国製の自転車です。
この自転車の強度をテストした時の映像です。



 

歩道の継ぎ目の高さにあたる4センチの段差を上ろうとしたところ…。
タイヤが付け根から折れ、ハンドルを支えるフレームにも亀裂が入っていました。



 

国民生活センター 商品テスト部 三好信幸主査
「通常の自転車であれば、簡単に乗り越えられる段差であると。
一般の道路で使用するには、強度がちょっと不足しているのではないかと考えています。」


そもそもの設計や構造に問題がある自転車までインターネットで販売されていたのです。
5年前、千葉県君津市でこの自転車に乗っていて大けがをした藤井史朗さんです。


 

藤井史朗さん
「値段が非常に安いなと、ネットで見たら。
ネットで買おうと思いました。」


 

値段はおよそ6,000円。
週に1回ほどしか使わないため、できるだけ安いものを選びたかったと言います。
購入から半年後。
自宅に帰る途中で事故は起きました。
転倒して、口の周りを骨折したのです。
治療費は500万円を超え、今も病院に通っています。

藤井史朗さん
「歯ぐきが、グッとえぐれた状態になっています。
強く打ったので歯槽骨(しそうこつ)ごと無くなってしまった。」

藤井さんは、販売会社を提訴。
裁判所は、“通常有すべき安全性が欠けており、欠陥があった”として、
会社に2,300万円余りの賠償を命じました。
しかしそのとき、販売した会社は、すでに倒産していました。 
賠償金は今も支払われていません。

藤井史朗さん
「踏んだり蹴ったりという状態なんですけど、非常に理不尽に感じますし。
問題を出した業者が逃げ切っていることに非常に憤りを感じます。」

欠陥製品に詳しい専門家は、こうした事故を繰り返さないためにも国が厳格なルールを定める必要があると指摘しています。

欠陥製品に詳しい 中村雅人弁護士
「業界では、もちろん一定の任意の基準を作って守るようにしましょうと言っていますけれども、そういうことは全くお構いなしの業者は、いくらでも安く自転車を提供してるわけです。
やはり安全を守るための基準というのは、しっかり作るべきだと思います。」

突然壊れる自転車 対応策は?

近田
「取材にあたった大阪放送局の古市記者とお伝えします。
欠陥がある、危険な自転車がまず出回っていることに驚くんですけれども。」

古市記者
「インターネットで購入できる自転車のすべてが危ないというわけではありませんが、なかには安全性を十分確認せずに販売している業者もあるというのが現状です。」

上條
「これから自転車を買おうというときには、どういったところに注意すればいいんですか?」

古市記者
「自転車を販売店で買うかインターネットを通じて買うかに関わらず、まず、商品が価格に見合っているかや製造元がどこかなど、自分自身でもきちんと見極めをする必要があると思います。
また、すでにインターネットなどで自転車を購入している場合でも、整備士がいる店舗に持ち込めば、1,000円から2,000円程度で点検・整備してもらうことができます。」

近田
「今からでも安全性を確かめることはできるわけですね。
自転車の製品の安全性というのは、日本では販売業者、製造業者に任されているということでしたけれども、海外ではどうなっているんでしょうか?」

古市記者
「実は海外では国が安全基準を設けているところもあるんです。
こちらをご覧ください。
アメリカ、イギリス、フランスでは、強制力のある基準を設けて、適合していない商品の販売を禁止しています。
また、検査機関が行う検査で一定の基準を満していないことがわかると、ホームページ上にその製品と会社の名前が公表される仕組みになっています。」

上條
「確かに、こういったことがあれば安心なんですが、なんで日本には、こうした安全基準がないのでしょうか?」

古市記者
「自転車の業界団体などからは国に強制力のある基準作りを求める声も上がっています。
しかし、この強制的な基準は、自転車の実質的な輸入規制につながるという意見があり、今のところ実現には至っていないんです。
自転車の製品事故が多発している今、国は安全基準を定めることを検討する時期に来ているのではないかと思います。
そして私たちは、『自転車は絶対安全な乗り物だ』という思い込みをもたずに利用していくことが重要だと感じました。」

近田
「自転車も車両の1つだという認識が必要ですね。」