ネットでくにおくんの話題が盛り上がっても、出来るまでの紆余曲折の話が全く出てこないどころか知らない人が多いのでここに記しておく。
「ふぁみ中 青春ファミコン劇場 激闘編 (綜合ムック)」というムック本にて、くにおくんプロデューサー岸本氏、くにおくんCGデザイナー緒形氏という元テクノスジャパンメインスタッフ両氏にインタビューした「『くにおくん』を育てた男たち」という記事から、要点だけ。
2012年のムック本だし、貴重な資料としての紹介はいいよね?
●「熱血硬派くにおくん」というタイトルはテクノスジャパン社長、瀧邦夫から。「熱血硬派」については、岸本プロデューサーが高校時代グレていた頃に仲間とよく「誰が熱血硬派なんだ!?」という会話をしていて、その言葉が頭に残っていたから。
●初期のくにおくんスタッフは少人数だが、スタッフの学生時代は不良ブームだったので全員元ヤンキー。岸本プロデューサーは眉毛が無かったし、特攻隊長だったヤツもいた。
●元ヤンキーというのはいくら歳を取っても根はヤンキーなので、いくつになっても当時を懐かしむ
●普通だったら、殴って蹴ってだけで終わるが、駅のホームでのケンカ・ヤクザに絡まれる・掴んで投げる・相手にまたがって殴るなどのリアルなケンカ描写は実体験。ケンカを知らなければ作れない。
●当時はまともな開発ツールが無いので、ゲームセンターにあるようなテーブル筐体でレバーとボタンを駆使してドット絵を描いていた。データの保存はカセットテープで、ロムを焼くまでどんな絵になるかわからなかった
●基板は国内では5400から5500個売れた。関西では、店の半分がくにおくんの筐体だったゲームセンターもあった。
●元々岸本氏はデータイーストにいたが、ケンカゲームを造りたいためにテクノスに移籍した。当時は格闘ゲームはご法度で、「人を殴ったり蹴ったりしてはいけない」というゲーム業界暗黙の掟があった。「人を殴るのはゲームではない」と叩かれた。当時のテクノスは、空手やプロレスのゲームを作っていたので、ケンカゲームの企画が通るのはテクノスしか無かった(殴るのすらタブーなのに、くにおくんは高校生が組の事務所に乗り込んだり、拳銃を撃ったりしてくる。こんなのは他のゲームメーカーじゃ企画すら通らない)
●最後にひろしを救う感じになっているのは、ただの後付け。やっぱり、ただ殴る蹴るだけのゲームではダメ
●ファミコンに移植する時はもちろん許可がとれなくて、3回プレゼンに行った。前年に「たけしの挑戦状」が発売されていて、「たけしの挑戦状は通りすがりの人を殴るシーンがあるんだから、くにおくんも良いんじゃないですか?」と強引に押し通した。たけしの挑戦状が無ければくにおくんはファミコンで出せなかった
●くにおくん第2弾は「熱血高校ドッジボール部」。最初は普通のスポーツゲームで外部からの持ち込み企画だったが、それだけだとつまらないので「くにおくん」のダメージの概念や格闘要素を入れた。デザイナーから、ドッジボールにするなら二等身がいいというアイデアが出たので採用。ファミコンの容量的にも良いし、身体をワンパターンだけ書いて、顔を換えるだけで済む。
●ドッジボールのルールを忘れていたので、作る前に経理のおばちゃんから社長まで総出で新宿中央公園でドッジボール大会をやった。テレビゲームというジャンルが確立していない時代だから、自分の身体で作っていた。
●ファミコンで一番売れたのがドッジボール。三年間くらい、何度も追加注文が来て売れ続け、最終的に90万本行った
●続編として協力プレイできるものを作っていたが、不良がモチーフだと海外で受け入れられない。「熱血硬派くにおくん」は海外では「RENEGADE」という名前でデザインを一新して発売したが、海外で売るたびグラフィック書き換えるのは効率が悪いので、それで生まれたのがダブルドラゴン。
●「RPGくにおくん」は途中まで作ったがボツ。フィールドを歩くと悪いヤツとエンカウントして、戦うときはキーを入れて攻撃する感じ。設定やキャラも全部作ったがボツ。それで「初代熱血」にはRPG要素を入れた。
●「格闘ゲームといえばテクノスジャパン」だったのに、ストリートファイター2が出て、カプコンに全部もっていかれて悔しかった。その頃には「くにおくん」を出せば売れたので、それ以外作れなくなっていた。
●時代がファミコンからスーファミに切り替わった時、テクノスは様子見が長く出遅れた。それが最大の失敗。ファミコンだったら、数人で4ヶ月もあれば一本作れるし、くにおくんを出せば最低でも20から30万本売れるので、何億円と儲かる。スーファミは製作費はファミコンの三倍、時間もかかる。それなら無理にスーファミに切り替えるより、少人数でローコストでファミコンを作ったほうが利益が出る。
●ストリートファイター2ブームの時、くにおくんの対戦格闘を作ったがボツ。ダブルドラゴンの対戦格闘はネオジオで出した。
●「熱血硬派くにおくん」を出した当初は警察やPTAから抗議の電話が来た。「こんなゲーム作っていいのか?」と言うんで、「いいんです!くにおは正義の不良なんです!」ってガチャ切り。