減税を呼び水に自治体への寄付を促す「ふるさと納税」のあるべき姿とは何か。現状を見すえ、ゆがみを正すときだ。

 自治体が寄付を募ろうとするあまり、返礼品をめぐる過剰な競争に走る動きが収まらない。

 そのうえ新たな弊害も浮上している。所得が多い人ほど恩恵が増えるため、富裕層の節税に利用されているのだ。

 「寄付を通じてふるさとなどを応援する」という本来の趣旨を見失ってはなるまい。制度を拡充してきた安倍政権は責任をもって改善すべきだ。

 制度は第1次安倍政権が打ち出して08年度に始まり、ここ数年返礼品への注目が高まった。

 寄付額は14年度に前年度の3倍近い389億円になり、15年度はさらに1300億~1400億円に達したようだ。寄付の上限額引き上げなど制度拡充の効果も大きかったとみられる。

 とりわけ、富裕層にとっては上限額が増えた分、節税策として使い勝手がよくなった。

 寄付額から2千円を引いた分だけ所得税と住民税が軽くなるのが制度の基本だ。上限は所得が多いほど高い。世帯の家族構成にもよるが、給与年収が400万円だと上限額が2万~4万円程度に対し、2500万円の人は80万円に達する。

 例えば、その人が80万円を寄付しても、79万8千円が減税されて戻ってくる。寄付先の自治体からもらえる返礼品分が得となる。その金額にもよるが、減税で返礼品の取得を助けている構図だ。

 返礼品は高価な牛肉や魚介類が話題になることが多いが、商品券や家電・電子機器などに広がり、地元との結びつきがあいまいな例も少なくない。

 そうした返礼品を控えるように、総務省は自治体に通知を出したが、強制力はなく、根本的な対策になっていない。

 安倍政権は「地方と都市部の税収格差を縮める」「寄付集めが地方創生につながる」と利点を強調する。確かにその効果もあるが、自治体同士が税金を奪い合い、結局、国と地方に入る税収の総額を減らしている。

 税収が減る都市部の自治体では、保育所整備などへの影響を心配する声も出始めている。自治体間や、国と地方の財政力の格差を縮めるには、税制や予算の仕組みを見直すのが筋だ。

 熊本地震では被災地の自治体に見返りを求めない寄付が集まっている。こうした本来のあり方をどう広げていくか。

 必要な改革から逃げず、制度の弊害を是正する。そうした真摯(しんし)な姿勢を政権に望む。