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受精卵操作 指針作りと法整備急げ

 人の受精卵に遺伝子操作を加えることは認められるのか。ゲノム編集と呼ばれる簡便な遺伝子組み換え技術が誕生したことから世界的注目を集めるようになったテーマである。

     この課題を検討していた内閣府の生命倫理専門調査会は先月、遺伝子操作した人の受精卵を子宮に戻す臨床利用は認められないとする報告をまとめた。一方で、試験管内で行う基礎研究については容認できる場合があるとの見解を示している。

     特定の遺伝子を操作するゲノム編集は従来の技術に比べ、効率がよく、精度も高いことが特徴である。それでも、ねらいとは異なる遺伝子を変化させてしまうリスクがある。生まれてくる子どもへの影響は未知数だ。望み通りの子どもを作る試みにつながることもあるだろう。世代を超えて改変遺伝子が伝わっていくことが人類に与える影響にも懸念がある。病気の治療が目的だとしても、安全性と倫理の両面から現時点で臨床利用してはならないのは当然だ。

     一方、基礎研究は受精卵が育っていく過程で遺伝子がどのように働くかの解明や、遺伝性疾患などの治療法の開発に役立つ可能性がある。調査会が扉を開いておくと判断したのはこのためだが、その場合でも一定のルールは必要だ。

     日本は人の受精卵について通常の体細胞より慎重な扱いを求めてきた。その原則にのっとり、基礎研究は受精卵以外の細胞や動物の受精卵ではできない内容に限るべきだ。それだけでなく、科学的・社会的妥当性や倫理性を総合的に評価した上で研究の可否を判断する必要がある。

     現在、日本には受精卵の遺伝子操作を規制する法律はない。遺伝子操作した受精卵を子宮に戻すことについては、遺伝子治療の行政指針で禁止されているが、基礎研究について明確な規制はない。現状では個別の研究は研究施設の倫理審査委員会が判断することになるが、判断の指針がなければ倫理委も研究者も困るだろう。どのような研究がなされるか、透明性も確保できない。

     文部科学省や厚生労働省は、関連学会や日本学術会議などと情報交換しつつ、早急にルール作りを進めてほしい。専門家だけの問題ではなく、国民的な議論も必要だ。国際的な議論に積極的に参加していくことも欠かせない。受精卵を扱う研究に最も関係が深いのは産婦人科領域であり、当面の対応策として不妊治療クリニックも含め関係者に調査会の報告を周知徹底することも大事だ。

     さらに根本的な課題として、人の受精卵を扱う生殖技術全般の法規制について検討を急ぐべきだ。個別の技術への場当たり的な対応はすでに限界にきている。

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