マイナス金利 日銀は弊害を重く見よ
日銀がマイナス金利政策を導入し、3カ月が経過した。かつてない規模の量的緩和を約3年続けたにもかかわらず、期待した効果が表れなかったため、究極の打開策として日銀が着手した一大実験である。
「中央銀行の歴史上最強の枠組み」(黒田東彦総裁)という触れ込みだったが、今のところ物価への影響も、金融市場を安定化させる効果もはっきりしない。先月末、日銀が発表した今年度と来年度の物価と経済成長率の見通しでは、日銀自ら、1月時点より悲観的になっていることがうかがえる。
確かに金利水準は、国債から住宅ローンまで、おしなべて一段と低下した。「借りた方が得」との計算が働き、企業の設備投資や個人の住宅購入が盛んになりそうなものである。だが実際は、住宅ローンの借り換えこそ急増したものの、投資や消費への効果は不確かだ。むしろ手元に現金を置いておこうといった自己防衛の対応が広がっているようだ。
一方でマイナス金利の弊害を懸念する声が日増しに強まっている。
日銀の政策の結果、貸出金利と預金に支払う金利との差が一段と縮小している民間銀行は、今年度の利益が大幅に圧縮される見通しだ。運用している国債などの利回りが低下しているため、企業は将来の年金や退職金に備える積立金の増額を迫られ、利益の圧迫要因となっている。
運用難の中、少しでも高い利回りを確保しようと、高リスクの投資を増やす傾向が強まりはしないか心配だ。年金や退職金用の積立金で、信用力の低い社債や海外の資産を積極的に購入する。人々が将来への不安を募らせ、消費より貯蓄を選ぶようになれば、政策の狙いとは反対に、デフレの様相が強まりかねない。日本に先駆けマイナス金利政策を採用したデンマークで実際に起きていることだ。
何よりも重大な弊害は、日銀に対する信頼の低下ではないか。黒田総裁は、金利のマイナス幅を「まだまだいくらでも拡大できる」と、追加緩和の余地を強調するが、頻繁な追加策は「史上最強」の政策が効果をあげていないことの証しになり、政策への信頼は揺らぐ。
反対に、日銀が目標とする「物価上昇率2%」の予想達成時期を度々先送りしながら追加緩和を見送れば、「ちゅうちょせず追加の緩和措置をとる」という、黒田総裁のいつもの言葉は重みを失っていくことになろう。
続けるほどに、政策のほころびが明白になり、国民や市場参加者から信用されなくなる。中央銀行にとって深刻な損失だ。日銀は「効果は着実に波及していく」の一点張りではなく、謙虚に弊害を直視すべきだ。