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 三島由紀夫賞の受賞が決まった蓮實重彦さんの会見は、以下の通り。

 ――司会 最初に伺いますが、ご受賞が決まったお知らせを受けてのご心境をお願いします。

 「ご心境という言葉は私の中には存在しておりません。ですからお答えしません」

 ――司会 それでは質疑応答に入ります。なにかございますでしょうか。

 ――蓮實さんはどちらでお待ちになっていて、連絡を受けたときはどのような感想を持たれたでしょうか。

 「それも個人的なことなので申しあげません」

 ――今回、候補になったとき、事務局から連絡があったと思いますが、新人賞である三島賞の候補になることをお受けになったのは?

 「それもお答えいたしません」

 ――町田康さんの講評によると、さまざまな議論があった中で、「言葉で織り上げる世界が充実していて、小説としての出来は群を抜く」という評価があったと。その評価についての思いは何かありますか。

 「ありません」

 ――司会 他に質問は?

 「ないことを期待します」

 ――通常こういう場ですと、受賞が決まった方に「おめでとうございます」という言葉を投げかけてから質問するのが通例なのですが、ためらってしまう。受賞について喜んでいらっしゃるんでしょうか。

 「まったく喜んではおりません。はた迷惑なことだと思っています。80歳の人間にこのような賞を与えるという事態が起こってしまったことは、日本の文化にとって非常に嘆かわしいことだと思っております。もっともっと若い方、私は、順当であればいしいしんじさんがおとりになるべきだと思っていましたが、今回の作品が必ずしもそれにふさわしいものではないということで、選考委員の方がいわば、蓮實を選ぶという暴挙に出られたわけであり、その暴挙そのものは非常に迷惑な話であると思っています」

 ――いまの文化の状況に対して嘆かわしいとのこと。今の文学の状況に対して、何かものたりなさを感じるようなことがあり、ご自身が作品を発表される背景にもそういうお考えがあるのでしょうか。

 「いえ、それはありません」

 ――蓮實さんは早稲田文学新人賞で黒田夏子さんを選ばれて、黒田さんはのちに芥川賞をとっています。必ずしも80歳ということなのか、別の理由なのか。暴挙といわれる理由についてもう少し具体的にお答え頂ければ。

 「黒田さんは若い方ですのでいっさい問題ないと思います。文学としても若々しいものであると。従って、若者的な若々しさとは違う若々しさがあったので私は選ばせていただきました」

 ――しかし今回の作品も舞台が戦争の始まる前、映画が好きな青年が主人公でして、なにか蓮實さんの若い青春期を思い起こさせるようなのですが。

 「それは全くありません。馬鹿な質問はやめていただけますか」