ただ同然だったガソリン、60倍まで値上げしてもただ同然

先週、約20年ぶりにベネズエラでガソリン価格が挙げられ、形の上では通貨が切り下げられたとして、日本のメディアいくつか取り上げていました。

朝日新聞はガソリンの値上げについて、

地元紙エルナシオナルなどによると、レギュラーガソリンは1リットル当たりの価格を0・07ボリバル(約1円)から1ボリバル(約17円)、ハイオクは0.097ボリバルから6ボリバルに引き上げる。

と報じましたが、さすがにこれはないでしょう。

公定レート1ドル=6.3ボリバル(つまり0.07ボリバル=約1円)改め1ドル=10ボリバルは、ほとんどのベネズエラ人にとってはファンタジーです

1ドル=10ボリバルにアクセスできるのは政府高官などごくごく一部のみ。ほとんどの国民は1ドル=1071ボリバル(2016年2月15日時点)の世界にいます。(他にもSIMADIという別の外貨制度があり、そこでは1ドル=約200ボリバルなのですが、これにアクセスするのも容易ではありません。)

実際のボリバルの市場価格(闇レートとも。ベネズエラ政府は極右の陰謀だと見ているようですが)で考えると、レギュラーガソリン1リットル当たり0.07ボリバル(約0.007円)が1ボリバル(約0.1円)に引き上げられたとみるべきでしょう。

普通車なら空のタンクを満タンにしても5円、大型SUVを空から満タンにしても10円ほど。相変わらずただ同然です。もちろん、激安なのは外貨を基準に考えるからであって、外貨にアクセスできない人々の生活には少なからず影響が出ると思われます。

ただ、この改革は公表直後からまったく効果が期待されていません。むしろ今後の本当に必要な改革の印象が悪くなるとして、やらなかった方がマシという見方さえあります。


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調整の名を汚す
Giving adjustment a bad name
2016年2月17日 Juan Cristobal Nagel

仮にもベネズエラをフォローしている人なら、今日マドゥロが経済政策を大量に発表したのをおそらく耳にしただろう。

この改革は広範囲にわたるが深さが足りない。マドゥロは、ガソリン価格から米ドル価格にいたるまであらゆる物の、劇的ではあるが全く効果のない値上げを発表した。実際のところ、この中途半端な措置は「調整」のうちに数えられるというだけで、ベネズエラ経済を現に「調整」するにはほとんど役に立たないものだ。

我々の絶望の根本的な原因となっている経済モデルは、なおもしっかりと残っている。マドゥロは、今日の宣言で、問題に関連する価格をちょこっと変えたにすぎない。

振り返ってみよう。

マドゥロはガソリンを値上げした。理論的には、これは良いことだ。実際には、これは一時的な調整に過ぎず、3000万人もの消費者に無料でガソリンを与えることで引き起こされた財政問題に立ち向かうには不十分だ。マドゥロはガソリン価格を引き上げた。だがその直後、これから新たに予算を注ぎ込む予定のものを沢山宣言した。1レアル半で七面鳥を買ったよ*…

訳注* ベネズエラで子どもが歌う童謡の一部で、1レアル半を元手にどんどん物を買っていく歌。

さらに重要なのは、この調整後もガソリン価格は統制されたままだということだ。この点は昨日までとまったく同じ。ハイパーインフレが言われる中、この値上げは数ヶ月もすれば無意味になるだろう。そして、政府は値上げを続けなければならなくなる。ガソリン価格の統制という制度を変えるのではなく、実際の価格を変えるだけで、マドゥロは現状維持に倍掛けしたわけだ。

マドゥロはまた、対ドル相場を「切り下げた」。とはいえ、これが実際の通貨切り下げだったのかは不確かだ。現存する2つの低レート(いくつかの物の購入に用いられる6.3ボリバルと、別の物のに用いられる12ボリバル)が単一レート、1ドル=10ボリバルに統一された。別の変動相場レートは現在は約200ボリバルあたりで、変動することになってはいるが、このまま据え置かれることになるだろう。これ以上詳しいことはまだわかっていない。そして、通貨を切り下げたといえるかどうかは、現在ベネズエラにあるドルが、それぞれが相対するレートで販売される割合によって決まってくるだろう。

現時点では、これが財政赤字にどれほど効果があるのかも不明だ。とはいえ、ほとんどの人は、これは通貨切り下げだと見なしている。

他の対策もあった。その中でもカギとなるのは、賃金の値上げと、エクアドルで行われている制度に似せた税制の抜本的改革だ。(これについては突っ込まないように。マドゥロ自身、自分が何について話しているのか実際にはわかっていないのだから。)

一枚でも、二枚でもない、「三枚」ものシモン・ボリバルの絵に囲まれ、マドゥロは世紀のパフォーマンスを見せた。とりとめなく、普段の会話調で、常軌を逸しており、延々と続く*、チャベス主義ベストヒットのコンピレーション・アルバムの力作みたいな演説だった。

訳注* この発表は5時間にもわたり、冗長な演説の中でところどころ重要発表があるので、関係者はひたすら耐えてメモらなければならなかったわけです。地獄!

しかも、午後に入ってからはかなり残念な内容だった。多くの対策は方向性としては正しかったが、世界一ひどいインフレや、最悪の景気後退、かなり深刻な物不足の原因となっている構造を変えるほどは突っ込んでいなかった。

ひとつ評価する点があるとすれば、マドゥロが腹を括った点だ。ウゴ・チャベスは悪いニュースを国民に伝えるとき、自分の子分を矢面に立たせたものだったが、マドゥロはすべて自分でやった。そして、マドゥロの演説での重たい口調と顔に浮かんだ恐怖の色から判断するに、彼は自分が国民を怒らせていることをわかっていた。

それにもかかわらず、マドゥロは、まったく得るもののない調整のために、あらゆる政治コストを負ったのだ。マドゥロが行ったのは、脂肪ばかりでプロテインは皆無の演説だった。マドゥロが改革に中途半端に取り組んだために、実際のところ、将来のベネズエラ経済の改革はやりやすくなったどころか、むしろより困難になった。国民は、必要な措置を多大な痛みを伴うにもかかわらずまったく得るものがないものと考えるようになるだろう。

これらの対策については、数日後にはもっとコメントすることもあるだろうが、現時点での最初のリアクションとしては、かなり懸念すべき、といったところ。ベネズエラを治めているのが狂人だということは、かなり前からわかっていた。だが、今我々が直面しているのは、それよりもっともっとひどい。ベネズエラを治めているのは、自分たちが賢明であるという妄想を信じて疑わない狂人なのだ。

 

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