現代国際理解教育事典
紹介
国際理解教育の歴史と理論、学習領域、カリキュラム、学習論・方法論、代表的教育実践、関連諸教育・諸科学、諸外国の状況など、約280の項目にわたり解説。幅広い学習領域を多文化社会、グローバル社会、地球的課題、未来への選択の4つの視点からとらえる。
目次
序
1 歴史と理論
2 学習領域論
・多文化社会
グローバル社会
地球的課題
―〈開発問題〉
―〈環境問題〉
―〈平和問題〉
―〈人権問題〉
・未来への選択
3 カリキュラム論
4 学習論/方法論
5 代表的実践
6 新しい課題
7 関連諸教育
8 関連諸科学
9 諸外国・諸地域の国際理解教育
10 国際協力機関
―〈国際機関〉
―〈日本政府の海外協力機関〉
11国際協力NGO
付録
国際理解教育関連文献目録
資料
資料1-1 ノーベル平和賞受賞者(1944-1978年)
資料1-2 ノーベル平和賞受賞者(1979-2011年)
資料2 1974年ユネスコ国際教育勧告
資料3 文化的多様性に関する世界宣言(2004年、仮訳、抜粋)
資料4 国際の10年/国連国際年
あとがき
前書きなど
序(『現代国際理解教育事典』編纂委員会)
日本国際理解教育学会は、2011年に設立20周年を迎え、その記念事業の一つとして、『現代国際理解教育事典』の出版を企画し、ここに刊行の運びとなった。
本事典は、国際理解教育に携わる専門家や指導者だけでなく、関連するさまざまな研究分野の実践・研究者、広く一般の方々にも手に取って活用していただくことを願って、日本国際理解教育学会が総力を挙げて編集したものである。
さて、地球社会の現状を看るに、グローバル化の進展の中で、人・モノ・カネ、情報などが国境を超えて相互に依存しあうようになってきた。一方で、地球温暖化などの地球環境問題、民族紛争や資源・エネルギーをめぐる紛争、先進国と開発途上国との経済格差ならびに一国内での貧富の格差の増大、飢餓の蔓延など、地球的な諸課題となって顕在化し、かつ、深刻化している。人の移動による移民や難民の増加は、多文化化の進行と共生社会の課題となってあらわれている。また、観光などツーリズムによる交流人口の増大は、異文化理解や国際交流の場面を提供しているにもかかわらず、メディアを通した文化や民族に対するステレオタイプ的な言説、偏見がいまなお横行している。こうした状況を背景に、希望ある未来の担い手の育成を希求する国際理解教育の理念や実践のあり方についての問い直しが求められている。
以上の状況に対応して、国際理解教育にかかわる世界的動向としては、「持続可能な開発(発展)のための教育」(ESD)への取り組み、欧州におけるシティズンシップ教育の推進、ユネスコ協同学校の復興など、新たな教育の動きが起こっている。
日本の教育行政においては「初等中等教育における国際教育に関する推進検討会議」報告書(2005年)が出され、小学校外国語活動の創設や総合的な学習の時間の減少などの施策が実施され、基礎的・基本的な知識の習得と活用、課題の探究といった応用、実践が、各教科の学習においても求められ、総合的な学習を中心に実践がみられてきた学校現場での国際理解教育の実践に影響を与えてきている。一方で、学校外においては、地域の多文化化が進行し、地域における人権や開発(地域づくり)のあり方をめぐってNGO/NPOの国際理解教育への関心が増し、国際理解教育の実践の場は、学校だけではなく地域にも拡大してきた。
こうした状況を直視し、本学会では学会の知的資源を活用し、国際理解教育に関わる事項を多様な視点から取り上げ、専門的な解説を加えた事典を刊行することとした。そして2010年、理事会において本事典の刊行が承認され、編纂委員会の構成員として、大津和子、多田孝志(委員長)、中山京子、藤原孝章、森茂岳雄が決定された。
編纂委員会では、次の方針をたて、編纂作業を行った。
○深遠な内容を包含する国際理解教育の実践・理論に関わる項目を、最新の学問的成果を踏まえ、多様な視点からできるかぎり広く取り上げ掲載する。
○各項目についての記述は、単なるキーワードの一般的解説でなく、国際理解教育としての視点や意義を記述する。
○学問的な刊行物としての水準を保つためにも、内容の質的高さ、語句使用の的確さ等についての検討を重ねる。
○実践者が多い学会の特色を生かし、国際理解教育の代表的な実践も取り上げ、解説を加え掲載する。
○国際理解教育に関連する機関、NGO/NPOの組織や活動について紹介する。
また、執筆者については学会員に限定し、執筆活動を会員の研鑽と識見の深まりの機会にすることとした。項目リストを会員に公開し、執筆希望の項目を選んでいただいた。これらに、編纂委員会から執筆を依頼した項目とあわせて、執筆者は100名に及んでいる。
(…略…)
本書は、国際理解教育に関して、日本における本格的な事典である。これまでも用語集的な著書や実践集的な事典は散見されるが、11分野にわたる項目を270余にわたって網羅し、文献目録を加えた事典としては、初めての試みである。
国際理解教育は、単なる異文化理解や外国理解ではなく、また国際交流活動でもない。固有の目標と学習領域、基本概念をもった教育であることは、日本国際理解教育学会編『グローバル時代の国際理解教育-実践と理論をつなぐ-』(明石書店、2010年)において示したとおりである。本書はそのような理論と実践の背景をなす内容的な広がりと深まりを事典という形で示すものである。
読者諸氏には、本書をもとに国際理解教育の理論的、実践的バックグラウンドをつかんでいただければ、編纂委員会の意とするところである。
この事典が、希望ある未来を創る教育としての国際理解教育の発展に寄与することを願ってやまない。
著者プロフィール
日本国際理解教育学会(ニホンコクサイリカイキョウイクガッカイ)
日本国際理解教育学会は、「国際理解教育の研究と教育実践にたずさわる者が、研究と実践を通して、我が国の国際理解教育を促進し、その発展に寄与すること」(学会規約)を目的に、1991年に設立された。年一回の研究大会の開催、学会誌『国際理解教育』の刊行をはじめ、各種研究集会の開催、刊行物の出版、海外学会との共同研究など、国際理解教育の充実と発展をめざした活動を展開している。
『現代国際理解教育事典』編纂委員会:大津和子、多田孝志、中山京子、藤原孝章、森茂岳雄