5月10日院内集会「刑事訴訟法等の改悪を許さない緊急集会」レポート

 少し遅くなりましたが、5月10日に参議院議員会館で行われた「刑事訴訟法等の改悪を許さない緊急集会」に関してのレポートです。

 平日午後5時という時間帯にもかかわらず、会館講堂には300人以上の方たちが詰めかけ、ほぼ満席。この問題への関心の高さが伺われたのはうれしいことです。

 議員会館ということもあり、福島瑞穂氏や山本太郎氏、小川元法務大臣、共産党からは 仁比聡平議員、清水忠史議員など、多くの議員の方々のスピーチもありましたが、この集会にテレビ局も入って、ニュースでの報道までが行われたのは、青木惠子さんがはじめて公開の場で話をされたということがあったでしょう。
青木さんと桜井さん
 青木さんは、大阪・東住吉冤罪事件の「被告」として、保険金殺人の犯人として、無期懲役の有罪判決を受け、20年にわたって収監されたのち、再審となったものですが、既に検察は、特別抗告を断念、有罪立証を行わないとしており、(だったら無罪論告しろよ)、裁判所も刑の執行停止を決め、再審無罪が確実視されている事件です。

 日本においての刑事裁判は、テレビドラマでも「99.9」とタイトルをつけられるほど、起訴有罪率が圧倒的に高く、しかも無実を訴え続けたとしても、再審の壁は、ほとんど絶望的と言ってよいほど高いものなのですが、この事件においては、そもそも何の物的証拠もなかったうえ、警察・検察の主張した「放火の手口」が、科学的根拠がないどころか、物理的に不可能である、ということが立証されてしまった、というのは大きいでしょう。

 それでも、そのような警察・検察による「妄想」にすぎない「放火の手口」で、虚偽の自白調書が作られてしまったがために、青木さんとその内縁の夫であった朴さんは、20年もの獄中生活を送ることになったわけです。まして、青木さんの場合は「我が子殺しの鬼母」にされてしまったわけですから、その苦痛はあまりあるものがあります。

 その青木さんが、被疑者を誘導して、自白ができあがっていく過程について、迫真の証言をされました。娘の死に激しく動揺し、自分を責める心境になっている母親が、体調が悪いときも信じてもらえずに厳しい取り調べを続けられ、さらに、刑事に「(娘を)助けられなかったということは、殺したも同様だ」などと執拗に言われて、そういう(自分が殺したも同様)という心境にさせられてしまった経緯。さらに、調書は、「3月..」「もうちょっとあとじゃないのか」「5月...」「もうちょっと前だろう」(だったら4月しかないよね)というような、誘導によって、ひとつひとつのディテールを「喋ったことにされ」、調書ができあがっていった過程。
 だからこそ、密室での取り調べはすべて録音録画されるべきだし、弁護士の立会いも必要、と涙ながらに、青木さんは訴えられました。

 この青木さんを支える形で共に壇上に上がった布川事件元被告の桜井昌司さんも、強く訴えかけます。「これだけ冤罪事件があったのに、さらに、改悪される刑事訴訟法の運用がまともにできるわけがない。日弁連が賛成しているのが信じられない」

 これと前後しますが、この青木さんのスピーチの前に、つい先日、裁判員裁判で、これまた、物証無しの自白だけで無期懲役刑を宣告された今市事件の弁護団一木明弁護士のスピーチも恐るべきものでした。
一木明弁護士
 この事件、私も、「裁判員裁判・物証無し自白だけ」という点に不自然さを感じていましたが、詳細を聞いて啞然。

 つまり、2005年に発生した事件から8年も経ってから、2013年に被疑者は逮捕されるのですが、なんと容疑は「商標法違反」。つまり、被疑者の母親が露天で売っていた品物の中に偽ブランド品があったということで、母親と、その荷物を運んだだけの被疑者を逮捕・起訴したわけですが、その「商標法違反」で逮捕したにもかかわらず、この起訴後勾留で、実質的に、殺人罪の取り調べを行ったわけです。

 ポイントは、名目上は「殺人罪」での逮捕ではないので、録音も録画も行わず、国選弁護人も一人しかつけられていなかったこと。
 もうひとつは、この被疑者は、母親の仕事を手伝っていたというのも、荷物を運んだ程度。その実態は、いわゆる引きこもりに近いニートで、社会性が欠如しているタイプであったことから、長期拘禁の中での、厳しい、かつ、誘導的な取り調べによって「殺人を自白した」というものだ。
 そして、「その自白の部分」が録音録画され、裁判員に呈示されることで、有罪判決を生み出したというわけです。
 いうまでもなく、その自白も、検察官が『否認していれば死刑になる。しかし、自白すれば懲役20年ですむ』などと脅迫・利益誘導し、最初は客観的状況と食い違うことを「供述」していたのを、『それは違う。こうだったろう』と誘導してつくっていったそうですが、しかし、その場面はもちろん録画されていないのです。

 その有罪判決後に、裁判員の一人は「録音録画がなければ、判断できなかった」と述べたといいます。
 (もっとも、被告が真犯人だとすれば、その供述には矛盾があることは、法医学的に指摘されているのですが)

 本田教授は「足利事件」や「袴田事件」の再審請求でDNA型の再鑑定を担当した法医学者。これまでに出廷した栃木県警の警察官の証言などによると、女児の遺体の髪に付着した粘着テープからは女児のDNA型のほか、県警による鑑定の際に誤って混入した鑑定人2人のDNA型が検出された。被告のものは検出されなかった。

 本田教授の証言によると、裁判に検察側から証拠提出された県警の鑑定結果を、弁護側の依頼を受けて約1週間前に確認したところ、女児と鑑定人だけでは説明できないDNA型の付着物があることに気づいたという。

 被告は捜査段階で、「05年12月2日未明に茨城県常陸大宮市の山林でナイフで女児の胸部を刺し、死亡させたうえ、遺体を山林斜面に投げ入れた」と自白したとされているが、本田教授はこの供述の矛盾点も指摘。「殺害現場には1リットル以上の血液が流れたはずで、山林にほとんど血痕がないのはありえない」と述べた。胸の傷や遺体発見時の体勢などから、「あおむけの状態で殺害し、その後、ソファや車のシートで寝かせていたと考えられる」と指摘した。

 死亡推定時刻も、検察側の主張と異なる1日午後5時~2日午前0時ごろだと本田教授は説明。検察側が「スタンガンによるもの」と主張する遺体の首の傷については、「爪のひっかき傷と考えるのが妥当」と語った。
  出典:朝日新聞 2016年3月8日 http://www.asahi.com/articles/ASJ3846Y1J38UUHB010.html


 この「自白の録音の信憑性」問題は、すでに、DNA鑑定という決定的な証拠が出たことで無罪が確定した足利事件でも問題になっています。足利事件の被告菅谷さんも、検察の厳しい取り調べに耐えかねて、「泣きながら自白しているテープ」が存在するのです。弁護団ですら、「その部分だけ聞いたら、誰だって、菅谷さんが犯人だと思い込むだろう」というような録音が。
 
 つまり、「泣きながらの自白(あるいは、うなだれての自白)」が、「真犯人が観念して自白」しているのか、「真犯人ではないが、精神的に疲れ切って(あきらめて)、嘘の自白をしているのか」は、一部だけの録音録画ではわからないわけ。

 だからこそ、取り調べのすべて、もっと厳密に言えば、逮捕の瞬間から護送のパトカーの中までも含めた録音録画でないと、可視化の意味はないのです。

 それどころか、このケースは、別件逮捕を利用して、殺人の取り調べを行い、問題部分の録音録画をかわす、という「手法」が早速使われているという点で、ある意味、新刑事訴訟法が、これからどれだけ「悪用」されうるかという点で、示唆的であると言えます。

 これらのスピーチのあとで、元・日弁連事務総長の海渡雄一弁護士が、「修正案を提示していきたい」と言われ、即座に他の参加者に「廃案しかありません」とぴしゃりと言われていたこと、また、小川敏夫参議院議員(元法務大臣)が、民新党内で、執行部の判断に委ねようという風向きに抗い、廃案のためにものすごく頑張っておられるということが印象的な集会でありました。

 そうなのです。廃案しかないのです。
 一部では「ヘイトスピーチ対策法」とセットで可決などという話もあがっていますが、それとこれとは全く別の話。世界の趨勢に反するヘイトスピーチの規制は当然として、それと「セット」でこのような法案が可決されてしまっては、後世への禍根となるでしょう。 

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