こうしたことは、巨額の政府資金が動く案件の意思決定をするとき、参考にすべきマニュアルや最低限のガイドライン、すなわち責任追及を免れることのできる「退路」がないために起きる。
米投資ファンドのローンスターは韓国外換銀行の売却時に韓国政府の不当な措置で損害を受けたとして、韓国政府を相手取り5兆ウォン(約4700億円)規模の投資家・国家間訴訟を起こしたが、このケースでも同じようなジレンマに陥ったとされる。裁判所の仲裁を受け入れ数百億ウォン(数十億円)または数千億ウォン(数百億円)で和解することもできるが、最後まで裁判にこだわれば数兆ウォン(数千億円)を支払うことになるかもしれない。だが企画財政部の元高官は「仮に数兆ウォンを償うことになっても、わが公務員たちが和解することは絶対にない」と言い切った。「和解したせいで後になって責任を追及されたらどうしろというのか」というわけだ。
政府系銀行を担当するエリート官僚や、数百倍の競争率をくぐり抜けて「神の職場」と呼ばれる公共機関に入った職員たちは、模範解答を書くことには非常に長けている。彼らには「誰もやりたがらないことを引き受けるかどうか」という選択肢が突きつけられたとき、参考にすべき答案がある。アジア通貨危機の直後、外換銀行を売却する際に中心となって働いた揚げ句、同行を安値で売却したとして起訴された辺陽浩(ピョン・ヤンホ)元財政経済部(現在の企画財政部)局長だ。彼らのうち一部だけでも、公務員としての良心と所信を持って働いてもらうには、仕事の結果が裏目に出ても免罪符をもらうことができるという確信を持たせる必要がある。そうでなければ、誰も難しい案件に責任持って取り組もうとしないだろう。