1億総活躍 共生の視点も忘れずに
安倍政権の掲げる「1億総活躍社会」の議論が大詰めを迎えている。同一労働同一賃金の導入、保育士や介護士の待遇改善など就労関係に焦点が当てられているが、「1億」の中には働くことが難しい人もいる。
そうした人々にとって「活躍」とは何か。どうすれば生きがいを持って暮らせるのか。経済成長の視点ばかりではない議論がもっと必要だ。
「若者も高齢者も、女性も男性も、障害や難病のある方々も、一度失敗を経験した人も、みんなが包摂され活躍できる社会」「一人ひとりが、個性と多様性を尊重され、家庭で、地域で、職場で、それぞれの希望がかない、能力を発揮でき、生きがいを感じることができる社会」
1億総活躍社会を政府はそのように定義する。
要介護・要支援の認定を受けている高齢者は約600万人、ひきこもりの若者は70万人とも言われる。病気や障害でフルタイムの就労が難しい人々も大勢いる。そうした人々も包摂して、それぞれの能力が発揮され、生きがいを感じられる社会を実現するための方策が必要だ。
議論の場である1億総活躍国民会議ではそうした問題提起がないわけではない。
北海道当別町の社会福祉法人は、障害者が働く農園や喫茶店を高齢者や子供の居場所としても活用している。介護保険には就労支援のサービスがないが、ここで農作業を始めた認知症のお年寄りが元気になり、要介護度が改善されたという。
学校になじめない発達障害の子供と高齢のがん患者が囲碁を通して交流し、双方が孤立から救われた例もある。地域の人々も活動に参加し、個性と多様性を尊重する町づくりが当別町では実践されていることが同会議で報告された。
体が弱った高齢者や軽い認知症の人がそれなりに働いている例はたくさんある。もともと第1次産業や自営業には定年がなく、経験を積んだ高齢者でないとできない仕事もある。仕事と生活が密着し、病気を持った人も障害者も何らかの役割を持って暮らしている。
高齢・障害・子供など縦割りの福祉ではなく、地域づくりの観点も取り込んだ制度設計や、総合的なスキルを持った人材育成を進めないといけない。
福祉サービスを「提供する人」と「受ける人」に分けるだけでなく、それぞれが役割を担って支え合う共生型社会への転換も考えるべきだ。
家族や近隣の自然な人間関係の中での支え合いには、プロによる保育や介護とはまた違った安心感や充足感がある。
民間の自発的な取り組みを後押しする政策が必要だ。