このドレスの美しさの半分は、IBM Watsonがつくりあげた
5月2日にメトロポリタン美術館で開催されたファッションの祭典「MET Gala」で、モデルのカロリーナ・クルコヴァが纏っていた白地の美しいドレス。そのデザインは、IBM Watsonとのコラボレーションによって生まれたものだった。
TEXT BY LIZ STINSON
WIRED(US)
US版『VOGUE』が主催する、年に1度の華やかなファッションイヴェント「MET Gala」。モデルのカロリナ・クルコヴァがそこで着用したドレスは、半分は人の手で、そしてもう半分はコンピューターの手でつくられたものだった。
「コグニティヴ・ドレス」という、レッドカーペット上のファッションではおよそ目にすることのなさそうな名をもつこのドレスは、英デザインハウス・Marchesa(マルケーザ)と、IBMのコグニティヴコンピューター・Watsonの協力の産物である。
ツイートの感情を、リアルタイムで色に表す
LED接続の花が150個も縫い付けられたこの白いチュール地のガウンは、人間とコンピューターがいかにして協働し、ほかにはないもの生み出すかを示す、興味深い一例だ。
デザインを起こす際、Marchesaのデザイナーたちはまず、このドレスで表現したい5つの感情(喜び、忍耐、興奮、勇気、そして好奇心)を選んだ。そして2つのデータセットを、IBMの「Cognitive Color Tool」に与えた。このツールは、色彩心理学を利用して感情に対応する色彩を選び出すプログラムである。
データセットには、さまざまなデザイナーが手がけたランウェイドレスと、Marchesaのドレスの画像が集められていて、これによって、Watsonが選び出す色彩がMarchesaのブランドイメージに合うものに調整された。このカラーピッカーの目的は、Marchesaに指示を与えることではなく、デザイナーがLEDの花に使う色のパレットを提供することである。「基本的に、Watsonはデザイナーの案内役として機能するのです」と、IBMの研究員イン・リーは言う。
ドレスの花々に取り付けられたLEDは、Watsonの「Tone Analyzer」というAPIにつながっている。このAPIは「#MetGala」や「#CognitiveDress」のハッシュタグのついたツイートから、感情を表す内容を読み取ることができる。ツイートの雰囲気が変化すると、ワトソンは生成したパレットのなかから色を選び出し、ドレスの色をリアルタイムに変化させられるのだ。
例えば、ツイートが「喜び」の要素を多く含むとき、ドレスは鮮やかなバラ色に光る。一方、「興奮した」雰囲気が強いときには、花は水色の陰影を帯びる。薄手のチュールの布地もまた、コグニティヴプロセスを通じて選び出されたものだ。
人間の創造性を引き出すテクノロジー
このドレスはWatsonの能力をストレートに応用したものだが、それと同時に、デザイナーが自らの創造性を高めるためにテクノロジーを活用した好例でもある。これまでもイリス・ヴァン・ヘルペンのようなデザイナーが、インスピレーションの源泉として、また製作の手段としてテクノロジーを利用してきたが、今回のIBMとMarchesaのコラボレーションは、物理的な製作手段というよりはアイデアの創出にかかわるものだ。
コグニティヴラーニングを新しいレシピや食材の組みあわせの提案に利用した、「シェフ・ワトソン」のような過去のプロジェクトを見ても、Watsonが創造的な能力を発揮する場を必要としていることがわかる。それはデザイナーや、あるいはこの場合はシェフに命令を下すということではなく、むしろ彼らの思考の可能性を広げるのに貢献することである。
その意味では、MarchesaのドレスはWatsonによってデザインされたというわけではなく、Watsonの協力によってデザインされたということになる。
クリエティヴな過程のうち、アイデア出しの段階でコンピューターを導入するのはいかさまだと考えるかどうかは、人によって意見がわかれるところだろう。しかし、Watsonの戦略マネジャーであるジェフ・アーンズは、それはクリエイティヴな補助にはあたらないのだと言う。
「テクノロジーに補助的な役割を与えることには、非常に大きな意義があるとわたしたちは心から信じています。最終的に、テクノロジーでデザイナーが何をつくることになるのかは、彼らの選択によるのではないでしょうか?」
SHARE