昨夜、Skypeで会話していた友人のジョーク「生きているのがつらい、死にたい」昨晩のテレビのニュースでは「自殺者が15年連続で3万人を超えた」こういう話を耳にするたびに僕は、潰されるような息苦しいような気持ちになる。
19の春、僕の父はうつ病になった。動機はわからなかった。前兆もなかった。突然会社に行かなくなり、言葉を発さず食事も取らなくなった。親戚が僕に「これから頑張っていきましょ」と語りかけてきたが答えを求められていないので頷くだけで返事はしなかった。「親父、いつからだったんだ?」家族と過ごしているとき、大学の話や今日バイトであった出来事を話して家族で笑っていたときに父は笑っていなかった…かもしれない、というふうに記憶は改竄されてしまう。幸せな記憶を疑いながら辿るのはとても悲しい。それから3年僕が家を出てから両親は離婚を決めたのだが。
はじめてのメンタルヘルス
紹介状を持って渋谷にあるメンタルヘルスの病院に行った。待合室で問診票を書きながら、名前を呼ばれ、白い服をお召しになられたポニーテールのおばはんお姉さんのあとについて診察室へ向かうときの台詞がまるで風俗嬢。「こういうとこ来るのはじめて?」緊張や恐怖や不安なんてないわけない、違う!ないわけがある、緊張のあまり、まるでチカラめしのバイトの中国人のような言葉遣いの僕に気を留めることなく、こちらの部屋になりますという、彼女の目は笑っていた。
メンタルヘルスと聞くと精神病棟のようなものを想像していたが、普通である。診察開始前の10時に行ったにも関わらず待合室は人でごった返していた。隅にある白っこい懺悔部屋みたいな場所に入ると問診票を見ていたメガネのオッサンから「うつ病ですね、コレ」と診断を下される。その間2700ミリ秒。厳めしい顔のメガネのオッサン、デスクのパソコンモニターを凝視している。モニターから目を外して僕をみた。「3ヶ月前くらいからこんな感じでしょ…」「はぃ…」いきなり核心。何より2週間以上の浅い睡眠、特に朝早くに不安感から汗びっしょりになり目が覚める「早朝覚醒」がうつ病の特徴を示していた。その後も問診票のデータを元にズバズバとあらゆることを的中させてくる。
そう、僕は25にしてうつ病になったのだ。
これがなんとかであれがほんたら
「ツイッターとかやってます?」「はい…」「もしかして自分の思ったことをすぐインターネットに書いたりするでしょ」「はい」「ちなみに私のツイッターアカウントは…」ツイッターのホーム画面を僕の顔面に近づけながら言う。先生のアカウントはいいんです、先生、僕はどうなるんですか…。すると、ある書籍を広げながら、これはシナプスで脳内物質が流れていく画像です、これがなんとかであれがほんたら、って説明されてもまるでわからない。そして人間にはバイオグラフのような物があって数ヶ月から長い人で数十年単位で上下すること、これが見事に今まで転職をした時期と重なっていたこと、うつ病は絶対に自然治癒なんかしないこと。色々聞いた。「比較的症状は軽いものなので問題ありませんが、元気が出る『お薬』を出しておきますので1週間ほど様子を見ましょう」といった。医師の目は笑っていた。
処方箋をもらい会社へ向かう。渋谷の街の雑踏だけが聞こえた。「よくあることです」診察した医師はなにごともなかったかのように、さらりと僕に言った。彼の患者をむやみに不安にさせまいとする気づかいと、職業経験上から生まれた言いまわしはかえって僕を不安にさせた。さらりと、何事もなかったように。
ボクがうつになりまして。
これで心置きなくメンヘラの仲間入りを果たした。そして検証が必要だ。法廷や数学のような学問で存在しないことを証明するのは難しい。敵は我が心にあり。僕はブルブル震えながら小さな紙袋から錠剤を取り出した。サインバルタだ。Wikipediaで読んだぞ〜、メンヘラというレッテルを貼られる恥をしのんで病院に赴き、正当に処方された汗と涙の向精神薬。これでうつから解放された僕は軍神となり会社で仕事を蹴散らす。男としての尊厳と自信を回復する。よし、テストだ。
飲むやいなや、冷や汗が出てくる、動悸、言いようのない不安感に襲われ、パソコンの前でメーラーを起動するのに10分掛かる。最悪である。どうにか落ち着こうとパーラメントを箱から2,3本落としながら階段の踊り場で座り込んでタバコを吸って呼吸を整えようと試みる。5分、10分、15分。頭のなかでジャーンジャーンジャーン 「げえっ 関羽」のシーンが再生される。ようやく自分の状態の悪さに気づく。
蜘蛛の糸のように頭の中の知識をたぐると思い当たる、強烈な吐き気、眠気、あくび、無尿、ありとあらゆる副作用が同時に出てくる。2時間もするとバッチリ効用が出てくるがそれでもマイナスがプラマイゼロに戻る程度でしかない。飲まないよりマシかと言われたらその通りであって、この程度の処方はバロメーターの底上げ程度にしかならないものなのだ。依存はあるかといえば有るだろうし、一生飲んでいかなければならない可能性だってある。しかも1日あたり3割負担で157円だ。家計の負担だって馬鹿にならない。日に日に自分が衰えていくのを想像して再び不安を感じた。
この先生きのこるには
人は一つでなく複数のストレス要因を抱えた時、それを弾力的に跳ね返すことが難しくなるのだそうだ。はっきりとは覚えていないが、仕事から帰宅しテレビ番組やアニメを見るときに泣いていることが多くなった思う。大人になれば涙もろくなるとはいうが、それは違うものであるとその時は気づかなかったのだ。とにかく今は会社をやめることもできないので、薬を飲むことで少しずつ快方に向かっている。会社に行くと見覚えのある同僚たちがぎこちなく声を掛けてきたが、全体としては何もなかったようにカレンダーは進んでいた。僕の席は残されてはいたが、僕の仕事を責任持って担当する別の社員が程なく配属されるだろう。
新たな環境でもう一度やり直す機会を貰ったが、同じレールをもう一度やり直すことはもはや選択肢には無い。これから先、またいつ何が起きるかはわからない。ただ言えることは、何が起きてもまた時間をかけて立て直せば良いということだ。まさか自分が「うつ」になるとは思わなかったこと、そして自らの価値観に正直に生きる、ということさえ選択できていれば、後はどうにでもなるものだ。ふざけた文体で書いたつもりだが、病人として心配してほしいわけでも、被害者ぶりたいわけでもないので、もし今苦しんでいる人たちがこれを読んでくれたなら、そう心から伝えたいと思っている。
- 作者: ゆうきゆう,ソウ
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