冬はキタキツネたちの愛の季節です。
ここにも一組のカップルが生まれました。
雪の中、二匹のキタキツネが戯れています。
きっと、冬の終わりには可愛い子ぎつねが生まれるでしょう。
◇
冬の終わり、二匹の間に可愛い子ぎつねが四匹産まれました。
みんな可愛い子たちばかりです。お母さんが美人だからでしょうか?
ほら、お母さんが巣に声をかけると……
子ぎつねたちが巣から出てきます。
まだ生まれたばかりで産毛なので色がくすんでいますね
もう少ししたらお母さんと同じ綺麗なキツネ色がに変わります。
子ぎつねたちは、お母さんからいっぱい愛情を受けてすくすくと育っています。
今お母さんに毛づろいされている子ぎつねが兄弟喧嘩に負けてばかりの気弱な女の子レラ。気持ちよさそうに目を細めています。
◇
春が来ました。
子ぎつねたちも、だいぶ大きくなりました。
みんなお母さんのオッパイに必死に吸い付いています。
毛も生え変わってみんな綺麗なキツネ色です。
お母さんは子育ての疲れのせいか、少しやせていますが幸せそうです。
だけど、もうすぐ乳離れの季節です。お乳を飲むのをやめて、お母さんが取ってきた獲物を食べるようになります。
ある日のことです。
雨上がり、びしょ濡れのお母さんに子ぎつねのレラがおっぱいをおねだりしました。
すると……
お母さんに怒られてしまいました。
耳をぺたっとして可愛いですね。
もう、普通のご飯を食べるぐらいに成長したのだから。おっぱいじゃなくてご飯を食べなさいとお母さんは言っていたのですが、甘えん坊なレラは、おっぱいのほうが好きで、ねだってしまったのです。
そんなレラをお母さんは優しくさとします。
お母さんのお話を聞いたレラは、いつまでも子供じゃ居られないんだと悟りました。
でも、やっぱり甘えん坊なのでお母さんに甘えちゃいます。
お母さんは苦笑いしつつも、レラのキスを受け入れました。
お母さんは子供には甘いのです。
◇
キツネたちはよく引っ越しします。
子ぎつねを食べてしまうワシに目を付けられたり、巣にダニやノミが増えると、いくつか用意してある別荘に家族で大移動するのです。
今回は人間たちに巣が見つかったのが原因でした。
人間たちは可愛い、可愛いと言いながら子ぎつねたちを追いかけまわしたり、キツネたちには毒でしかないスナック菓子や甘いお菓子を与えてしまいます。
人間の食べ物に含まれる甘味料はすごく美味しいけど、キツネが食べちゃうと一日中下痢になってしまうのです。体力のない子ぎつねだと、それだけで死んでしまうこともあります。
お母さんギツネはそれが毒だと知っていますが、子供たちの食欲と好奇心は止められません。なので人間に知られていない巣に引っ越しました。
引っ越し先は、今は誰も使っていない工場の跡地です。
キツネたちは、地面を掘って巣穴をつくって暮らすことが多いですが、こうして人間たちの作ったもの用意することもあるのです。
子供たちは、新天地に目を輝かせて探検していました。
だけど、臆病なレラは、兄妹の中でも特に中の良いヌプリとくっついていないと不安でした。
好奇心よりも慣れない土地であることの不安のほうが大きかったのです。
引っ越してから数日が立ちました。
そこにキツネ達の天敵が現れます。それは……
犬です。
彼らはキツネを食べたりはしません。ただ遊びで、じゃれて小さなキツネをかみ殺すのです。
大人のキツネなら抵抗しますし、逃げられるでしょう。
ですが、子供のキツネは犬に捕まってしまうと死んでしまいます。
子ぎつねたちは小さな隙間に入り込んで、肩を寄せ合って震えながら、必死にご飯を探しに外に出ているお母さんを呼びます。
子供たちの悲鳴を聞いてお母さんが走って戻ってきました。
犬に吠えかかります。
しかし、犬が逆にお母さんに吠えかかり追いかけまわしてしまいます。
お母さんは逃げ帰ってしまいました。
少し離れたところから様子を見るお母さん。
犬と取っ組み合いになれば勝てないこと、そして自分が死ねばまだ自分で餌が取れない子供たちがみんな死んでしまうことをお母さんは知っているので、無謀なことができないのです。
距離を取りつつ何度も、何度も犬に吠えかかります。
お母さんの頑張りのおかげで、根負けした犬は立ち去って行き、子供たちはみんな助かりました。
お母さんはまた引っ越しすることを決めました。
◇
今度の引っ越し先は小さな川を渡ったところです。
お母さんはジャンプで見事に跳び越えてみせました。
だけど、子ぎつねたちはそうはいきません。
子供たちの中でも喧嘩の強い子たちは、川幅の少ないところを選んで、えいっとジャンプします。
レラのような気が弱い子は水に怯えて動けません。
でも、川の中のゴミが気になって飛び越えずに、水の中に入ってしまっています。そうなると水への怖さなんて忘れてしまい。
心配したお母さんが迎えに来るまでずっと川で遊んでいました。
◇
引っ越してから一月ほど経ちました。今度の引っ越し先は敵が居ないしお日様がぽかぽかで、子供たちはのびのびとしています。
みんなで日向ぼっこしたり、じゃれ合ったりしていっぱい遊んでいます。
体もだいぶ大きくなってきてキツネらしい体型になってきました。
お母さんのほうは大忙しです。
この時期の子供たちの食欲はすさまじく。
朝も夜も関係なく外に出て狩りをしないといけません。
そして、梅雨の時期はキツネにとって非常に辛い時期なのです。
キツネは目があまりよくないので、鼻と耳に頼って狩りをします。
ですが、雨は獲物の匂いを洗い流し、獲物の足音を消してしまい、満足に狩りができなくなってしまいます。
みんなに行き渡るだけの獲物がないので、子供たちは母親のもってくる少ない獲物を取り合ってしまいます。
気の弱いレラはいつも餌の取りあいに負けて、泣きそうな声をあげます。恨めしそうな顔で寝そべっているのがレラです。
そんなレラにこっそりと、他の兄妹が居ないところでお母さんは自分の分の餌をあげていました。
お腹が空いたと泣きじゃくる子供たちのために自分の分までご飯を渡すので、お母さんはすっかりやせ細ってしまい、綺麗だった毛並みも見る影もありません。
でも、お母さんキツネはすくすく育つ子供たちを見て幸せそうです。
◇
そして、辛く苦しい梅雨の季節が明けてからさらに一月がたちました。
この一カ月の間、お母さんキツネは子供たちを連れまわり、ずっと狩りの方法を教えていました。夏の間は雨が少なく、獲物も多く簡単に獲物が取れるので初心者に教えるのには最適の季節です。
子供たちはお母さんの狩りをみて、自分で餌を取る術を身につけていきます。
もう体の大きさもお母さんと変わらなくなってきました。
ある秋の日、お母さんキツネは子ぎつねたちが立派な大人になったと判断して、巣から追い出しはじめました。
子ぎつねたちは、優しかったお母さんが自分達に向かって何度も吠えたり、噛みついたりしてきてパニックになってしまいます。
みんな外に出たくありません。お母さんキツネに守られて暖かくて安全な巣、そこから出たくないのです。
でも、お母さんギツネは容赦しませんでした。
子供たちが全員巣から立ち去るまで、吠えて、噛みつき続けました。
これはキツネたちが生き残るための習性です。
冬になって餌が少なくなったときに、同じエリアで餌を取り合わないように、そして近親相姦が発生しないように遺伝子に刻まれているのです。
そうやって、綿々とキツネたちは次代に命を繋いでいるのです。
秋の終わり、大人になったレラが現れました。
まだあどけなさがありますが、すっかり大人になってお母さん似のとびっきりの美人なキツネになっています。
ため息がでるほど綺麗な彼女も、いずれ、子供を産んで苦労してお母さんのようにやせ細ってしまうかもしれません。
気弱な彼女が子供を守るために必死に野良犬と戦う日が来るかもしれません。
キツネたちが生きて行くのにはたくさんの障害があります。
でも、レラのお母さんが必死に頑張って子供たちを守ったように、キツネたちは精一杯命を繋げて、今を生きて行くのです。