文芸・カルチャー

「人工知能の小説は面白くなっていくのか?」気鋭の若手が白熱協議!

 今、小説の世界に激変が起きている。2010年に登場した小説投稿コミュニティ「E★エブリスタ」では、これまでに200万点以上もの作品が発表され、すでに500点以上もの作品が書籍化。映画化・コミック化など、多メディア展開される作品も多いという。
 文芸の世界に大きな変動が起きているなか、50年後の文芸界はどうなっているのか? そんな意欲的な意見交換イベントが2016年3月2日(水)、東京・下北沢の本屋B&Bにて開催された。

 『世界から猫が消えたなら』『億男』などを執筆する人気作家であり、映画プロデューサーの川村元気氏。4月21日に、理系のトップランナーとの対話集『理系に学ぶ。』、ハリウッドの巨匠たちとの空想企画会議本『超企画会議』を同時発売した同氏と、『本の逆襲』の著者で、毎日トークイベントを開催している下北沢の先端的書店「本屋B&B」共同経営者の内沼晋太郎氏、そして大躍進サイト「E★エブリスタ」取締役の芹川太郎氏が登壇したのは、「2066年の文芸 第一夜」と題されたイベント。2013年より開催されている『東京国際文芸フェスティバル』の一環として催された。それぞれ異なる立場から文芸界にかかわるお三方が熱い思いを披露した。


ネットと紙では人気の作品は違ってくる

 『世界から猫が消えたなら』(「せか猫」)は、100万部を突破、2016年5月14日(土)には実写映画公開が控えている。実はこの作品、SNSのLINEから火が付いたのである。小説の発表の場は、紙が先か、Webなどのデジタルテキストが先か。議論は、文芸を発表する媒体から始まった。

芹川太郎 川村さんのデビュー作『世界から猫が消えたなら』は、いきなりLINEで連載されたんですよね。いままでと違うメディアからスタートしているのが面白いと思いまして。LINE上の連載と紙の本とで、読者の反応や読まれ方は違いましたか?

川村元気 もともとこの作品は、書き下ろしでマガジンハウスから紙の本で出版されることが決まっていたんです。僕は、これまでに映画を20本ほど作ってきたんですけど、作家としては新人です。普通に出しても読んでもらえないと思いまして、それでマガジンハウスの編集者と宣伝の話をしていたときに、LINEに連載してはどうかと提案を受けたんです。すると、延べ50万人くらいの方が読んでくれて驚きました。

芹川 LINEで無料で読んだあとに、紙の本を買った人もいたんですか?

川村 もちろんいらっしゃったと思います。ただLINEで読んでいたのは10代20代の方たちの印象がありました。紙の本の読者のメインは、30代40代でしたね。

芹川 エブリスタでも、基本的には無料でPCやスマホから小説が読めるんですが、紙の本で人気の作品と、ネット上で人気の作品は少し違っているのが面白いと思っています。ネット上で毎日数万人が読んでいる小説が、紙ではそこまでいかないこともありますし、逆にネットではそんなに読まれていなかったのに、紙の本になると売れる作品もあります。

内沼晋太郎 「ネットではそんなに読まれていなかったのに、紙の本になると売れる作品」というのには、なにか傾向があるんですか?

芹川 ホラーや恋愛小説がネットでは読まれやすく、相対的にミステリーなどは必ずしも読者が集まりやすいジャンルではないんです。それが紙の本だと10万部、シリーズ100万部売れたりしますね。

川村 書き手からしたら、書く場所に作品は引っ張られると思うんですよね。『億男』(マガジンハウス)は雑誌「BRUTUS」の連載だったから、ああいう作風になったと思うんです。だから、もしネットで書くならネットで書く必然性のあるものを書きたいと思います。

 

制限すると逆にクリエイティブになる

 今までは当たり前のように、紙で出版することを前提として創られてきた小説。けれどWebならWeb向け、新聞なら新聞向けと、媒体特性に合わせて書くことの良さもあるのではないかと川村氏は言う。その心は?

川村 形式に制限されて創ったものが、面白くなる可能性もあると思うんです。制限を作って書くことがクリエイティブに繋がるみたいなのはあるなって。僕が「世界から猫が消えたなら」を書くとき「せっかく小説を書くなら、絶対に映像にはできないことをやろう」と思ったんです。端的にいうと、映像で「猫が消えた世界」を表現することはとても難しいわけです。でもテキストから想像することはできる。

内沼 読者が想像して頭の中で作り上げる領域の多いことと、読んでいる時間を自分のペースでコントロールできること。少なくともこの2つはテキストの強みとして、2066年になろうがいつになろうが、おそらく変わらないですね。映画館に行かないという人に話を聞くと、金銭的なことに加えて「映画を2時間座って見ているのがきついから」と言われます。2時間ずっと集中して、作り手のペースに乗らないといけない。

川村 基本的に映画は1秒間に24コマなので。スピードが決まっている。でも逆に僕が映画を作るときに意識しているのは、「小説にできないこと」なんですね。まず、音が流せない。小説を書きながら「ここで音楽流せればすごくいいのにな」と思ったりするんですけど、もちろんそれはできない。次に身体性ですよね、俳優の。俳優の表情だけですべて語れてしまうことがある。それは映像の魅力の一つですよね。

 小説の映画化と単純に言っても、そこには「批評関係」が生まれると、川村氏は言う。例えば、マンガ『バクマン。』を映画化する際に、マンガなので「絵」はすでにある。では映画でしか表現できないことはなにか。その結果、プロジェクションマッピングなどを使って、漫画を描くという行為を活劇として描く、映画ならではの表現が生まれた。
 文芸や映画、マンガ、各ジャンルに出来ること、出来ないことはなにか。その特性を考えることがすなわち、創作のアイディアになることもあるのでは、と川村氏は話す。


Webは「様相」を楽しむ世界

内沼 ネット以降の形式から生まれた表現というと、Webマンガには「縦スクロール」がありますね。いわゆるWeb小説にそうしたものがあるとしたら「終わらない」ことかなと思うんです。何十万字、何百万字と続くサーガに読者がついていって、それが終わらないことを薄々感じている読者も、その世界がずっと続くこと自体を楽しんで読んでいる。作者は結末に向かう物語ではなく世界そのものを書いていて、読者もその世界の参加者で、終わってほしくないし終わらなくていい。そして読者から寄せられたコメントに影響されて、そこで動いている物語は変化していく。これは従来の小説体験と違いますよね。

川村 『理系に学ぶ。』という対話集でお会いした中村勇吾さんが教えてくれたのですが、Webは時計とか、波打ち際のように、「物語」より「様相」を見せるのに向いているようなんです。小学生の頃、授業中に、時計の秒針をずーっと見てられるとか、波打ち際をボーっと見てても飽きないとか。ああいうのがWebには向いているんだと。だから「物語」に対抗する「様相」を作っていると。その終わらない話も「様相」なんでしょうね。「今日も波打ち際を見てみようかな」みたいな感覚で。それはそれで物語が生まれる可能性もあるから、面白いと思います。

内沼 ゲームも昔と違って、いまはオンラインゲームを中心に「終わらない」ものが増えましたよね。まず様相があって、ユーザーはそのうえでコミュニケーションをしている。物語はそこから生まれるように組み込まれていたりします。

川村 ジャンプマンガで言うと「こち亀」って様相じゃないですか? 両さんの在りようをただ楽しむというか。なので「これはこの人のストーリーなのか、実体験なのか分からないけど……」みたいなものが毎日更新されていくと面白いかもしれません。

内沼 小野ほりでいさんというWebで人気のライターさんがいますが、ある意味「こち亀」に近いと思っていました。掲載されているメディアが違っても基本の型は変わらなくて、だれが見ても小野さんとわかる独特のイラストで、女の子二人の会話を中心に進んでいく。わりと毒をもって世相が書かれているのですが、その女の子のイラストが毒に対するフィルターとなっていると同時に、主張をドライブするための装置にもなっていると感じます。読者は「またこの人か」という一種の安心感を得ます。

芹川 場によって、生まれるストーリーは違いますよね。

「枚挙にいとまがない」という言葉は死語になるのか。紙に印刷する必要の無い物語は、終わりもなくても良い。そんな未来の小説の萌芽を感じられる。

人工知能にヒット作は書けるか?

 未来的といえば、人工知能の実用化も目前に迫りつつある。将来の小説はもしかして、人工知能が創ることも考え得る。話題はそこにも及んだ。

芹川 星新一の小説を分析し、人工知能にショートショートを執筆させる「作家ですのよ」というプロジェクトが、はこだて未来大学の松原仁教授を中心に行われています。将来は、読み手に合わせた物語が自動で生成されることも起こりえますね。

川村 読み手に合わせた小説ってすごく退屈そう(笑) たまにネットショップで人工知能にレコメンドを押し付けられるじゃないですか? あれがすごく的を射てて嫌なんですよね(笑)。お勧めされたものを買うと、もちろん最初は面白いのですが、それを繰り返すと飽きちゃうんです。人間ってすごい厄介な生き物で、「大体こうだろうな」と思ったことと違うことが起きたときに、感動したり笑うようにできてる生き物で。だから人工知能のリコメンドから抜けて、まったく予想外のものに触れてショックを受けたりするのが面白いと僕は思います。そういうのはなかなか数学的なことではいけないところなので。

内沼 でも2066年ともなれば、その辺も折り込み済みで、そうした予想外の面白さとしてのいい感じのエラーを生み出すところまでいく可能性もありますよね? 機械的なランダムさがちょっとした笑いを生み出したりすることはよくありますから、その精度が飛躍的に上がっていくような感じでしょうか。

川村 あとは、人工知能が人間にとって「嫌なこと」を押し付けられるかだと思うんですよね。僕はいまだにバックパーカーなんですけど、本当は汚い宿とか汚い電車とか嫌いなんですよ(笑)。なんだけど、気付いたら海外ですごい汚いトイレに座ってたりする。すごい嫌なんですけど、嫌なことして帰ると、その帰り道にすごくいいアイディアが浮かんだりするんです。だからストレスをわざと感じに行ってるのかもしれない。だから合理的な人工知能と、なるべくややこしく生きたい人間との戦いは続くんでしょうね。ルールを壊すのは人間にしかできないから、これは難しい。

芹川 小説を書くというプロセスが機械化されることで、「人間にしかできないこと」がどこに残るのかは楽しみですよね。


人間にしかできない「気づき」がヒットを生む

川村 いま「書くこと」の話しかしていないんですが、書くことじたいは人工知能にでもできるがゆえに、とても難しいことだと思うんです。なぜかというと、小説の場合、書くより前に「気付く」ことの方が大事だと思うんです。何がこの世界において、楽しいのか、恐ろしいのか、美しいのか。気付く方がはるかに難しい。面白いものを作る人は、いま自分が違和感を感じていること、気になっていることが、数年後の大衆に接続しているかどうかの勝負をいつもしている印象があります。

内沼 いくらすべてのインターネット上の営みを解析しても、そこから人工知能が「気付いて」抽出したことがそうした鋭さを持つまでには、さすがに長い年月がかかりそうだとは思います。いわゆるイケメンとされる人とそうではない人、それぞれの顔写真を数十人分集めて掛け合わせると、どちらも同じような平均的な顔になるといいますから、人工知能にいくら個々の鋭い「気付き」を理解させたところでその平均は鋭くならない。その平均や膨大な情報から、次の時代に合ったまったく違うタイプのイケメンを生み出すようなことが、果たしてできるようになるのかというところですね。

川村 人間の特徴って欠落の部分しかないと思っています。4月から週刊文春で恋愛小説の連載を始めるのですが、それにあたって二年間、女性の恋愛体験について取材してたんです。女性たちは、いい話をしてくれるんですけど、いい話ってあまり面白くないんです(笑)。だから「人生の中で思い出すだけで吐きそうなくらいつらかった一日について話して欲しい」とお願いしていました。そういう、つらいエピソードの方がオリジナリティがあるし、その人らしさが出て面白い。だから人工知能になにかを創作させるとしたら、最終的には「何を学習させるか」ということよりも「何を学習させないか」ということのほうが重要なのかもしれません。

 人工知能は、無制限に学ぶことはできる。けれど、「ないもの」を自覚することは難しい。テクノロジーやメディアの変化は大きいけれど、創作の源泉は未来も変わらないのかもしれない。50年後の文芸においても、ヒトがやるべきこと。そんなヒトの可能性について考えさせられたイベントであった。

■だれもがクリエイターに!
小説投稿コミュニティ
「E★エブリスタ」公式HP
http://estar.jp/

取材・文=武藤徉子



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