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ジャパンディスプレイ、「スマホ依存」のツケ

東洋経済オンライン 5月15日(日)6時0分配信

 「公表数字を守ることができなかったのは私の不徳の致すところ」――。
5月12日、日立製作所・ソニー・東芝の中小型液晶事業を統合して設立されたジャパンディスプレイの2016年3月期決算会見。本間充会長兼CEOは神妙な面持ちで反省の弁を述べた。

 ジャパンディスプレイの2016年3月期業績は、売上高が前期比29%増の9891億円へ拡大し、営業利益は同3.2倍の167億円へ躍進した。米アップルのiPhone向け販売が伸び、本間会長が就任以来進めてきた構造改革効果が寄与したためだ。

■ 好調から一転、直近四半期は赤字に転落した

 ただ昨秋以降、スマホ市場が減速したことや、中国でサムスンの有機ELパネルにシェアを奪われたことで受注が減少。第4四半期(2016年1月~3月期)は72億円の営業赤字に転落し、2月に発表していた通期売上高予想1兆0030億円、営業利益220億円には届かなかった。

 今2017年3月期の業績予想は、通期については公表せず、第1四半期(2016年4月~6月期)を、売上高が前年同期比21%減、営業利益を同55%減とした。大幅な減収減益予想だ。このため、決算発表翌日の5月13日、ジャパンディスプレイの株価は前日比6.1%減の200円と、大きく下落した。今年4月8日の上場来安値196円に迫る水準だ。

 今期は中国・深センに新設したマーケティング拠点を活用し、中国スマホメーカー向けの受注活動を強化するほか、夏以降はiPhone向け販売も回復するとしているものの、市場関係者の評価は厳しいものだった。

 ジャパンディスプレイへの不信の背景には、”スマホ依存”に対する危惧がある。ジャパンディスプレイの売上高のうち、8割以上をスマホ向けの販売が占め、4割以上をアップル向けの販売が占める。そのため、スマホ市場ないしiPhoneの販売動向に業績が大きく左右される構造になっている。

 加えて、今年に入り価格競争力で勝る中国液晶メーカーの新工場が相次いで稼働。液晶相場のさらなる下落が予想され、市場環境は厳しくなる一方だ。

 従来から問題視されていた「スマホ依存度の引き下げ」が、ジャパンディスプレイの喫緊の課題として迫っている。

 スマホ以外の将来の安定収益基盤として、ジャパンディスプレイが最も有力視しているのが車載市場だ。ヘッドアップディスプレイや電子ミラー、電子メーターなど、車の電装化が進むことによって、1台あたりのディスプレイの数は今後増加が予想される。液晶メーカーにとって車載ビジネスは数少ない有望市場といえる。

■ 韓国メーカーに引けを取らない有望市場

 また、次世代ディスプレイと目される有機ELは高温に弱く、車載向きではないとの見方もあるため、有機ELの量産化で先を行く韓国メーカーに引けを取らないのも魅力だ。

 ジャパンディスプレイは高精細で低消費電力の液晶技術「LTPS」を武器に、完成車メーカーや自動車部品メーカーに食い込む方針。2021年には車載ディスプレイ市場が1兆円規模になると見込んでおり、その中で3000億円以上の売り上げを目指す。実現すれば、スマホ依存度は50%程度まで下げられる計算だ。

 ただ、車載向けビジネスは、売り上げに計上できるまでの期間が長い。新車開発には数年を要するからだ。今期の営業活動が売り上げに寄与するのは2年半~3年後。足元の成長維持へ、並行して高精細ノートPCやタブレット向けの中型液晶事業を育成するとしているが、PCはスマホ以上に市場環境が悪化しているだけに、成長エンジンとなるかは不透明だ。

 また、近い将来iPhoneに搭載されるとみられる有機ELの量産化を2018年目標に進めており、今期は研究開発費や設備投資による減価償却費がかさむため、収益維持は容易ではない。

 液晶業界のかつての覇者・シャープは競争激化に耐えかね、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の支援を仰いだ。日立・ソニー・東芝の中小型液晶部門が統合した日の丸連合・ジャパンディスプレイはこの難局を切り抜けることができるのか。我慢の時を迎えている。

田嶌 ななみ

最終更新:5月15日(日)19時25分

東洋経済オンライン