隔離された場所で人はどう生きる?
―国という概念が消滅した世界で、子供たちはクローン技術を用いて作られ、女たちは何十人もの子供を育てる。そんな近未来が舞台の「形見」から始まる本書は、独立した短編集のようですが、読み進めるうち、滅亡に瀕した人類が、いくつかの集団に分かれて再起を目指す大きな物語であることがわかってきます。
大学で生物学を学んだので、進化について書かれた本を見つけるとつい手を伸ばしてしまいます。そのなかで、現代はグローバル化が進んで人々の交流も盛んなので遺伝子の多様性が生まれにくくなっている、進化が起きるためには個々の集団がもっと隔離されていなければならないという仮説を読みました。
それがこの物語が生まれたきっかけです。実際に隔離したら、人々はどうなるだろうと。各編でそれぞれの集団を書いているうちに、少しずつ物語が繋がっていきました。
ほかにも生物学の視点は、本書のところどころに無意識に現れているかもしれません。男性の数が極端に減った集団が出てきますが、生物学者の福岡伸一さんの言うように、生物学的には女のほうが強いという意識があるのかも。優劣をつけるわけではなく、自分の息子を見ていても、物事へのアプローチの仕方は男女で違うように感じます。
たとえば私が感覚的に処理することを、息子は二手先、三手先まで考えていたりする。直感的な判断だけではいずれ行き詰まるでしょうし、常に考え込んでいては遅すぎる場合もある。両方存在することで社会は広がっていくのだと思います。
―本書で繰り返し書かれていることの一つが「なぜ人間は自分と違うものが許せないんだろう」ということ。人類の希望とされながら疎まれる「異能者」や、三つの目を持つ種族など異質な存在が様々に登場します。
この小説には、私自身が人間の特徴をどのようにとらえているかが表出した気がします。その一つが「同調圧力」です。どちらかというとネガティブなイメージがもたれがちな言葉で、作中にも「変化しはじめると、不思議に必ず、その変化を食い止めるような矯正力が働く。それが結局は自分自身を破壊してしまう」というようなことを書きました。
でも最初は集団で行動することで進化してきた私たち人類にとって、同調することは、集団を保つためには必要なことでもあった。「村八分」と「協力体制」による安定の両方がある。逆に、異質なものが環境に適しているのなら、どんなに異質なものの個体数が少なくても疎外されずに繁栄していくでしょう。
こんなふうに、小説を書くときにはあらゆる概念を疑うことが必要だと思っています。生きていると、既存のルールや価値観をすりこまれ、あたりまえのように受け入れていることもあるけれど、本当に正しいのだろうかと自分自身に問いかけてみる。
長所は短所になりえるし、その逆もまたしかり。何か一つが必ず正しい、ということはないのだと思います。
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