20代後半の男。本来ならヤリたい盛りのはず。だが、己の象徴を女性の秘所に挿入したいという欲望は限りなく薄い。
性欲が無いわけではない。ほとんど毎日、自慰を欠かさず行なっている。妙齢の女性が淫れる姿を観て興奮する性分であるから、同性愛者では無いようである。
過去に恋人が居たこともある。彼女の部屋に入り浸っておきながら、ひとたびも挿入することはなかった。人見知りの童貞と、人見知りの処女。我ながら、健全な大学生活だったと思う。シングルベッドでお互いを抱き枕のようにして眠りについていた。柔らかい身体を抱きしめているだけで幸せだった。じゃれ合うように、お互いを愛撫し合うことはあった。けれども、肉体関係はそれだけ。自分の性欲のために彼女の性器を利用することに、ひどい嫌悪感があった。彼女とは価値観の相違が明らかで、生涯の伴侶には成り得ないと互いに認識していた。政治的な立場、宗教的な思想、結婚観、全てが異なっていた。良き元恋人、良き友人ではあるが、家族にはなれない。
私は今、生涯の伴侶となる女性を求めている。最近では結婚活動などと呼ぶらしい。博士号を取って、運良く安定した職に就いた私は、結婚相手としてそれほど悪い人間ではないと思う。決して裕福とは言えないが、相手が専業主婦となることも可能な程度の稼ぎはある。社交的なほうではないが、気難しくない性格だ。私が相手を探していることを周りに告げていると、自然と出会いの機会も増えた。偶然知り合った女性から食事に誘われることもある。だが、相手との仲を進展させることがとても難しい。
世の男というのは、とにかく女性に挿れたがるものらしい。これは、書籍ならびに2ch、Twitter、はてブでの個人的な観測に基づく。挿れたいという欲求ゆえに、性格や人柄もよくわからないような女性を口説くことができるそうだ。たった3回のデートで、いったい相手の何がわかるというのだろう。男女の恋愛というのは、男から女にアプローチをかけるのが世の常だと聞いた。大して親密でもない、はっきりとした好意も自覚できていない段階で、それほど好きでもない相手に甘い言葉を囁くなど、極めて不誠実ではないか。
私のような男のことを、草食系などというらしい。だが、私は草ばかり食んでいるわけではない。生涯を共に過ごしたい相手を見極めているだけだ。
いわゆる「普通の男」というのは、一体どういう心理で女を口説くのだろう。ヤリたい一心で女性を欺くのか。それとも、私なんかよりも桁違いに女性に対して惚れやすいのか。あるいは、女性を口説いて落とすという一連の流れに報酬系が働いているのだろうか。