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 がんと闘う妻を励まそうと育て始めたバラが、この春、初めて花を咲かせた。宮崎県串間市秋山の市道沿いに約1万本。野辺保雄さん(65)=同市串間=が丹精込めた花だ。妻は花を見る前に他界したが、野辺さんは「天国の妻に見て欲しい」と最後まで育て上げた。

 妻・敬子さんが卵巣がんを宣告されたのは2013年12月。野辺さんは動揺した。敬子さんがいなくなることは考えられなかった。自分が病気の時は、寝ずに看病してくれた敬子さん。阿蘇や長崎へドライブに出かける時も一緒だった。

 敬子さんが入院していた昨年4月。野辺さんは、敬子さんの好きなバラを、自分の出身地の秋山地区で育て始めた。「退院した妻に、数えきれないほどのバラの花を見せたかった」

 だが昨年5月1日、敬子さんは64歳で亡くなった。野辺さんは自宅に引きこもりがちに。それでも「このままでは、どこまでも落ち込むだけだ」と思い直し、8月ごろから再び無心でバラを育て始めた。草を刈り、棚を作って、一日中、花の世話に没頭した。

 そして今月上旬、市道沿いの花壇(長さ約80メートル)に赤や桃色のバラが咲いた。地元の人たちが年中、花を楽しめるようヒマワリやアジサイ、ダリアなどの花壇も作った。親類らの協力を得てベンチも3台設けた。

 バラを見るために市内外から人が集まり始めた。野辺さんは敬子さんの遺影を積んだ車で、毎日のようにバラの世話に通っている。

 「天国の妻も一緒にバラを見て喜んでいると思う。そして、多くの人にバラを楽しんでほしいと思っているだろう。花が好きな、本当に優しい妻だった」(稲野慎)