★実録編(上)
1970年代、映画界を席巻した“実録もの”。ヤクザの抗争劇をリアリティーたっぷりに描く作品がブームを巻き起こした。東映の元宣伝部長、福永邦昭(75)が“仁義なき”宣伝を裏側を明かす。
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福永は入社10年目で、宣伝マン冥利に尽きる映画に出会った。「仁義なき戦い」(73年)。原作は美能幸三の獄中記を飯干晃一が「週刊サンケイ」で連載した同名小説。戦後間もない広島のヤクザの抗争劇をドキュメンタリー・タッチに活写した。「脚本を読んでこれまでの東映映画の“仁義”を“なき”にした内容にイケると思った」
福永は、宣伝も徹底的に“実録”で押し通そうと広島に。だが、現地はくすぶり続けるヤクザ抗争にピリピリ。地元マスコミは「暴力追放キャンペーン」の真っ最中で映画どころではなかった。
「ツテを頼り、やっと地元紙の資料室にもぐり込み、事件の記事を見せてもらった。当時はコピー機もないからこっそり撮影。紙面は小説よりもはるかに迫力があった」
この資料は、作品のイメージを記者に伝えるため配られるなど、宣伝戦略上大いに役立った。
時期的にもはまった。前年には浅間山荘事件がテレビで中継され、マフィア映画「ゴッドファーザー」や「バラキ」の暴力シーンが話題だった。
「日本中が暴力に敏感だった。大ヒットし、計9本製作された。今でも政治やスポーツの抗争シーンでは♪ズンズンズンズン…という音楽と『仁義なき××』というフレーズが使われる。ひとつの社会現象となった」