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強くてニューサーガ 作者:阿部正行

第二章

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第二章ダイジェストその3

「さあ決着をつけよう!」
 カイルが改めて魔族達に指を突きつける。

 男魔族は顔の傷の方しっかりと痕が残っており、角も当然折れたままだ。
 女魔族の方は一歩下がった位置で少し困惑したかのような目で男魔族を見ている。

 カイルが一対一で別の場所で戦いたいと提案すると、男魔族は余裕で受ける。
 女魔族が何か言いたげだったがそれに構わず、カイルと男魔族は移動した。


   ◇◇◇


 カイル達が去り、一つため息をついた女魔族がセランの聖剣ランドを見る。
 二人に勝てたら聖剣はちゃんと差し出すと真剣な表情でセランは言うが、勿論本心は例えどんなことがあろうとも、どんな手段を使ってでも渡すつもりはないのだがそれは微塵も見せない。

 そして女魔族は聖剣の為だ、と本気で戦いに挑んだ

 女魔族の肩の筋肉が盛り上がり両腕の指先が鋭い鉤爪状に変化する。
 体重が急激に増加したかのように足下の岩にひびがはいる。
 髪の毛が逆立ち、そして目つきが、目の色そのものが茶色から燃えるような赤へと変わる。
 女魔族は肉体を変形させ肉弾戦闘向きにする、魔族の中でも特に近接戦が強いタイプでだった。

 ウルザが精霊をサラマンダーとノームの二体を召喚し操り、リーゼと抜群のコンビネーションを見せる事により何とか粘る事が出来たが地力の差か、やはり徐々に押され始める
 展開は防戦一方となっていき、まさにジリ貧の状態だった。

 追い詰められたリーゼとウルザ、だがこれも全て事前の作戦のうちで隙をうかがっていたに過ぎない。

 ケリをつけようと身を挺して庇うノームに構わずリーゼに詰め寄る女魔族。
 リーゼはウルザの指示でタイミングを計りノームの背中を蹴りつけ、切り離されたノームの胴体部分が飛び出し女魔族の腹にめり込む。
 完全に不意を突かれた一撃で、さらにリーゼが追撃しウルザもサラマンダーに命じ女魔族の身体が炎に包まれた。

 完全に事前の作戦が上手くいったリーゼとウルザは喜び合う。
 だがそれでも二人とも警戒は解いていない。
 かなりのダメージを与えたのは間違いないが、これで倒せたとは微塵も思っていないからだ。

 実際女魔族は満身創痍だが、自力で立っている。
 自分の方が強いのに何故? と荒い息で絞り出すかのような声を出す。

 これが偶然ではなく必然だったと解らせるためリーゼとウルザは、経験の差や戦いに対する覚悟などを指摘し強さは必ずしも勝利に結びつかない! とかなり上から目線で言い放つ。
 だがその言葉に女魔族は黙り込んでしまい、素直に負けを認めた。

 まだまだこれからだと意気込んでいた二人だったが拍子抜けしてしまい、降参した女魔族をどうしたものかと悩んでしまう。

 結局降参した相手をどうこうというのはできないので本人の希望通り逃亡を許すことにした。
 甘いのは解っていたが、この場はそれが正しいと思ったのだ。

 女魔族は自分の名をユーリガと名乗る。
 魔族は自分の名を人族に名乗る事は滅多にないのだが、勝った二人に敬意を表したのだ。
 リーゼとウルザも名乗り、戦い後の弛緩した空気が漂う中――完全に不意をついた形でセランが抜剣。
 ユーリガへと斬りかかった


   ◇◇◇


 カイルと男魔族は広い空間で向かい合っていた。
 リーゼ達が戦った場所から少し歩いた所にあり、余計なものが一切ない、一対一の戦いなら十分な広さだった。

 カイルはここに来るまで先行し、かなりわざとらしいまでに背中を見せていた。
 これは攻撃を誘っていて、その直前を読んで角の事をちらつかせるなりして黙らせようとしていたのだが、男魔族にはまったくその気配がなく無言で付いてきていた。
 それもカイルから一定の距離を保って、何時戦いが始まっても大丈夫なようにだ。

(随分と油断してやがるな、それこそ俺の顔を見たら激昂して襲いかかっくるんじゃないかとも思っていたが……)
 できる限り挑発してペースを乱してやろうと思っていたカイルからしてみれば調子が狂う展開だ。

 戦いが始まりまず動いたのはカイルだ。
 自らに戦闘補助魔法をフルにかけ、カイルは斬りかかる。

 対する男魔族は――何もしなかった。所謂棒立ちだ。
 てっきり魔力弾による迎撃があるものだと思っていたカイルはさすがに不審に思うが、今更止まる事も出来ずそのまま斬りかかる。

 脳天から剣を叩き込もうとした瞬間、男魔族は左腕で剣を受ける。
 その腕ごと叩き斬ろうとカイルは力を込めたが、腕の半ばまで刃が食い込んだところで止まる。

「なに!?」
 驚愕するカイルに男魔族はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、右手に留めた魔力弾を直接カイルの脇腹に叩き込んだ。
 とっさに身体を捻り直撃をさけたが、内臓が口から飛び出るのではないかという凄まじい衝撃を受け吹き飛ぶカイル。

 この反撃方法は帝国大使館で女魔族相手に反撃した方法で、それをそっくりそのまま返されたのだ。

「舐めていたのは……俺のほうか……」
 痛む脇腹を押さえながらカイルは歯ぎしりをする。
 挑発して平常心を乱してやろうなどと上から目線で考えていたさっきまでの自分を殴り飛ばしたかった。

 その後の攻防は一方的だった。
 まともな状態ならまだ弾幕をかいくぐる事も出来ただろうが、動きの鈍ったカイルはあっという間に負傷し、追い詰められていき三日前と同じ展開となっていく。
 違うのは三日前はカイルにはある程度余裕があったのだが今回は本気で戦い追い詰められている点だ。

「……動くな!」
 追い詰められたカイルは躊躇なく懐から角を取り出し剣を突きつける。
 その角を見た瞬間流石に魔族の顔色が変わる。
 男魔族にとってこの戦いの目的はその角を取り戻す事なのだから当然だ。

 男魔族角を見て歯ぎしりをしながら卑劣な! と唸る。

「魔族に何て言われても気にはしないさ……おっと妙な真似はするな。この状態ならまだくっつけることはできるかもしれないが、砕けば流石に無理だろう?」
 ふふふ、と今度はカイルの方が性質の悪い、完全に悪役の笑みを浮かべる。

 角に剣を突きつけたままカイルが歩き出すと、その分男魔族は後退する。
 じりじりと後退していき、今度は魔族が壁を背にすることになる。
 予定の場所に追い込んだカイルは、角を宙へと放り投げると同時に斬りかかる。

 剣か角か、一瞬迷ったが命の方が大事と角を無視しカイルへと注意を向ける。

 近づかれすぎて迎撃が間に合わないが、剣そのものはギリギリのところで回避する。だがカイルの目的は剣での攻撃ではなく、体当たりそのもので身体ごと思いっきりぶつかった。
 二人はもつれ合ったまま背後の壁へとぶつかり、その壁は薄かったらしく、そろって突き抜けることになる。

 その瞬間痛みすら伴う凄まじいまでの熱気が二人を襲う。
 抜けた先は鍛冶場になっており、鍛冶に使う様々な道具が並んでいるのと、奥にはそれまでの淡い明かりではなく灼熱感をともなう赤い光を放っている場所があった。

 その正体に気付いた男魔族が一瞬固まる。
 そしてその正体を知っていたカイルが先に動き、男魔族を更に押し出すかのような蹴りを放つ。
 男魔族は叫びと共に飛ばされ背後の――溶岩が溜めてある場所へと飛ばされた。

 ミスリルは非常に頑丈で、加工するにはとてつもない高温が必要になる。
 そこで溶岩の熱を利用して溶かし加工する方法がとられるようになり、カランには地形を変形したときに意図的に作られた地下深くを流れる溶岩がむき出しになる特殊な鍛冶場があった。
 ここがその鍛冶場で、常に溶岩が溜まっている天然の溶鉱炉になっていた。
 この場所に追い込むのを思いついたのは特殊鍛冶場に籠っていたガザスを訪ねた時に、距離的に思いのほか近い事に気付いたためだ。

 そして溶岩へと叩き込もうと蹴りこんだが――ギリギリの、本当に僅かなところで何とか踏みとどまられてしまう。

「しまっ……!」
 カイルが叫ぶよりも早く、今度は男魔族の方が動く。

 魔力弾をカイルの足元へと放ち、渾身の蹴りの後でバランスを崩していたカイルは回避できず食らってしまう。
 剣も吹き飛ばされ、地面に転がされるカイル。

 足も怪我をしたのか、カイルは立つこともできずに後ずさりをしつつこちらへと歩いてくる男魔族から距離を取ろうとする。
 だがすぐに行き止まりの、今度は逆にカイルが溶岩への縁にまで追い詰められる。

 苦しそうな顔のカイルだが、男魔族がカイルを溶岩に落とそうと更に一歩踏み出した瞬間ニヤリと笑うとカイルは背後の溶岩に自らの腕を突っ込んだ。

 驚く男魔族を尻目にカイルが引っ張り出したのは鎖、溶岩の中に沈められていたものでそれを鞭のようにしならせ、魔族に叩きつける。

 鎖が鞭のように巻き付き、打ち付けられた痛みと、それを上回る熱が全身を襲い男魔族が悲鳴を上げる。
 すかさずカイルは詰めより渾身の力を込めて殴りつけ、更に鎖を巻きつかせて縛り上げ自由を奪う。
 急ぎ剣を拾うと、ピタリと喉元に突きつけた。

「気を引き締めていても、勝ちを確信した瞬間というのは油断するものだな……いつつつ、やっぱり無茶だったか」
 ほんの一瞬だったのと火と熱に強いドラゴンレザーの鎧のおかげで何とか酷い火傷ですんだが、本来なら腕そのものが無くなっていただろう。
 だがおかげで不意をつけた。

 男魔族は必死にもがくがびくともしない鎖。そして自分を拘束している鎖がミスリルでできていると気付く。

「純粋なミスリルで頑丈なやつだ。それを破るのは魔族でも無理だろう。お前用にわざわざ用意したんだぞ」
 苦労したぜとカイル。
 それもこれもただ倒すのが目的ではなく生かして、それも口のきける状態で無力化するのがカイルの狙いで、その為に魔族でも拘束できるこのミスリルの鎖をガザスに作ってもらったのだ。

「その為にえらく手間暇かけたものだ……さて、ここまで頑張ったんだ。色々と喋ってもらうぞ」
 身体を完全に拘束され、溶岩の前に転がれている上の首筋に剣を突きつけられている。
 何をするにしても、その前に一瞬で溶岩の中に落とされる状況だ。

 このような状況で尋問んだど屈辱の極みだが、奥の手のある男魔族は時間稼ぎの意味でもカイルの質問に答えていく。

 その結果魔王の命令で人族領に来ているのは二人だけ。
 現魔王は穏健派で人族をなるべく刺激しないように、というのが方針らしいと色々わかった。

「そうか……では次の質問がもっとも大事な質問だ。よく考えて答えろよ」

 これだけは他の誰かに聞かれるわけにはいかない質問。
 二人っきりの状況でどうしても聞きたかった事で、この質問の為にここまでの苦労をしたようなものだ。

「背に黒い翼が生えていて……角無し(・・・)で次の魔王になれそうなやつに心当たりはあるか?」
 男魔族は何を言っているんだ、という顔になる。

 それこそがカイルのもっとも聞きたかった情報――三年後に大侵攻をおこし、人族を滅亡一歩手前まで追い込んだ次の魔王だ。
 だがまるで心当たりはないと言う。

「そうか……心当たりはないか。もしかしたらの期待にかけて苦労して無力化したんだが……無駄だったか」
 カイルが大きくため息をつく。

 何やら訳の分からないことを呟きながら落ち込むカイルをよそに、男魔族が見ていたのはその背後、ゆっくりとカイルの背後に忍び寄る粘液状の動く物体だ。

 透明な暗殺者(インビジブルアサシン)――そう男魔族は名づけている。

 これが男魔族の奥の手で、魔力による擬似的な魔法生命を創り出してそれを命令のまま動かすことができるのだ。
 魔力の塊であるこの擬似生命の使命は自爆。生きる爆弾と言ってよく、そして何よりも恐ろしいのは透明で視認できない点だ。
 欠点は動きが遅く、動いている目標にはまず当てることはできないが、罠として配置しておいたり、奇襲を行うにはこれ以上なく、今の状況の様に背後からおそうのなら尚更だ。

 戦いが始まる直前に目立たないように放っておいたのだが、ようやくカイルの背後まで来たのだ。
 カイルの背中に張り付こうと飛んだ瞬間――カイルは振り返りもせずに背後に向かい剣を振るい、背中に取りつこうとした粘液を斬り裂いた。

「視線を向けすぎだ、表情にもありありと浮かんでいる。位置も襲ってくるタイミングもまるわかりで、斬ってくれと言っているようなものだぞ」
 淡々と、それこそただの予定事項を処理したかのように語るカイル。

「恐らくこれを使い、大使館での大量虐殺を行ったのだろう? 確かに使い方次第では強力だが脆すぎるのが弱点だ。一回斬っただけで消滅だからな。確か『透明な暗殺者』(インビジブルアサシン)だっけ?」
 男魔族が驚愕する。能力までなら推測もできるだろうが、だが名称まで知っているなどありえない。

「こっちは貴様ら魔族を効率よく殺す方法を、それこそ夢の中でまで考えに考え続けていたんだ。この程度対処できなくてどうする、なあガニアス?」
 今度は、それこそ心臓が止まるのではないかというほどのショックを受ける――ガニアス。
 そしてある感情が浮かんでくる。
 人族相手に決して認めたくないだろうが、それは恐怖という感情だった。

 そんなガニアスの顔に浮かんだ恐怖を見て取り、カイルはある事を確信する。
「ああ……お前らに感じていた違和感だがようやく確信できた。お前ら強いが怖くないんだ。あの時、魔族達に対して常に感じていた得体のしれない恐怖、あれを今のお前にはまったく感じない。それも手伝って油断しちまったんだろうな……いや、それもいい訳か」
 カイルが大きくため息をつく。

 あの魔族との戦いのときに感じていたなりふり構わない……いや狂信といってもいい魔族全体から感じられた異様な負の感情を微塵も感じないのだ。
 魔族をその狂気に駆り立てたのは当然ながら魔王、カイルが討ち取った三年後に即位する新魔王に他ならない。
 その魔王についてが最も知りたかった情報だった。

「今のお前なら何かしら喋ってくれるんじゃないかと期待してたんだが……無駄だったか。これが解らなければお前にもう用はない。さようならガニアス」
 カイルは溶岩の中へとガニアスを蹴りこんだ。 
 魂の叫びとでも言うのだろうか。凄まじいまでの叫び声があがるが、それにかまわずカイルは話し続ける。

「お前には仲間を何人も殺されたがある意味感謝もしている、魔王城の場所とか色々なことを教えてくれたからな。お前がいなければあの最後の特攻は成功しなかったろう。ただ魔王本人に関してだけはいくら拷問しても吐かなかったからなあ」
 かつてカイル達はこのガニアスと戦い、多くの犠牲を出しながらも捕虜にすることに成功した。
 そしてその他の事は、それこそ自分の名前を吐かせるまで拷問したのだが、魔王に関してだけは決して喋らなかったのだ。

「そこで礼がわりと言ってはなんだがいい事を教えてやろう。ミスリルを加工するには溶岩の熱をもってしても丸一日近くかかるそうだ。それでその鎖はすでに半日以上沈めていたから……良かったな半日耐えれば助かる可能性があるぞ」
 段々と静かになってきているガニアスに感情の籠ってない声で話しかける。

「それが無理そうなら……仕方ない、せいぜい苦しんで死んでくれ」
 その声に答えたのかどうかは解らないが、最後に聞き取れない何かを叫んだあとガニアスは溶岩の中へと沈んでいった。
 間接的に仲間の仇を討ったが、その顔には喜びの表情が浮かぶことはなかった。

「断末魔は……前とたいして変わらないか」


   ◇◇◇


 目の前に迫った刃に死を覚悟し、思わず目をつぶってしまったユーリガだったが、いつまで経っても斬撃はこない。
 目を開くと、地面には斬り裂かれた粘液状の物体が地面にありそれがガニアスのインビジブルアサシンで、これが人間に角を斬られたなどと他に知られてはならないと、ユーリガを口封じするための罠だと気付いた。

 じゅくじゅくと音をたて溶けていく粘液を嫌そうに見ながら、試し切りには物足りないとセランがぼやく。
 借りができた、とユーリガがセランに向けて複雑な表情で言った後、改めて立ち去った。

 本当はあの魔族殺るつもりだったけど、妙な気配感じて思わず目標替えてしまった……
 改めて斬りかかるというのは流石にウルザやリーゼの手前躊躇われてしまい、結局試し斬りの機会を逃すセランだった。


   ◇◇◇


 魔族との戦いから三日後、カイルはミランダに呼ばれ大使部屋を訪れてバックス都市長が亡くなったと知らされた。
「そう……ですか」
 カイルがため息をつく。

 引き渡した後、意識を取り戻したバックス都市長は全ての真相を語っていた
 ただ、それは語ると言うより問われたことを機械的に返答するかのようだったとのことで、自分がしてきたことが無駄だったと知り心が完全に折れたようだった。
 元々余命わずかなところを気力だけで持たせていたようなもので、その気力が全て無くなり急速に衰弱し死亡したとの事だ。
 何十人も罪なき者を犠牲にし、邪悪な生贄の儀式を行った狂人ではあったがその目的だけは純粋にカランを想っての事、多少なりと哀れみを覚えたのだ。

 だがこれで今回のカイル達の役目は終わった。
 元々カランにはミレーナ王女からの依頼で来たのだが、どうやら評価のほうは下げずに済んだどころか、高く評価されたようだ。
 カイルにとっても鍛冶師や魔道兵器の復元、更には魔族との戦いなど予想以上に収穫があった。

 魔族との戦いでカイルは魔族達が自分の知っている、大侵攻の時とは違うと確信していた。
(もしかしたら三百年の仮初の平和は、人族だけでなく魔族の側にも意識の変化を起こしたのかもしれない。だとしたらそんな魔族をあの大侵攻に駆り立てた魔王……やはり奴が問題だな)
 なんとかして情報を手に入れる方法は無いか、そう考えるカイルだった。

 そして次の都市長が正式にガザスに決まった事も知らされる。

「そのことに関してお話が……ここから先は個人的な話し合いといいますか。ちょっとしたお願いがあるんですが……私はガザス、ゴウ親子二人の出資者となりました。そしてミランダさん、貴女はガザスと恋人関係にありますね?」
 ずばり切り込んだ。
 動揺するかとも思ったがミランダはほんのわずかだけ眉を動かしただけで表情は崩さない。

「まあはっきり言いますが最近のゴウが金銭関係で揉めていた件、そうなるよう仕向けたのは貴女でしょう?」
 これには絶句するミランダに構わずカイルは続ける。

「今にしてみれば貴女を巻き込みたくないとの理由だったのでしょうが、ガザスから急に距離を置かれ、業を煮やした貴女は強引な手段に出ることにした。本人ではなく、出資者を探していたゴウを利用しようとした」
 この事はゴウが融資の件で相談に乗ってもらっていると言っていたのでピンと来たのだ。

「恐らく仲介は表立ってではなくその筋の連中に儲け話があると匂わせる程度だったのでしょう。で、破綻しある程度大きな問題になった後、貴女が大使という立場に顧みずゴウを助けてガザスに恩を売ろうとしていた……当たらずとも遠からずだと思うのですが?」
 推測だし証拠はない、だがカイルは確信をしていた。

 そこでカイルはニヤリと笑い、それまでの丁寧な口調からかつての仲間へのくだけた口調になる。
「いや、お前ならそれぐらいやると身をもって知っているからな」
 自信たっぷりに言うカイル。
 かつてのミランダならこれ以上の遥かにエグイ作戦の立案をしたものだ。

「何、前置きは仰々しくなったけどお願いというのは大したことじゃない。その魔道具の復元……これについての詳細を外部に漏れないようにしてほしい。外国は勿論ジルグス本国にもだ」
 その内容にミランダは拍子抜けた。
 正直どれほどの無理難題を言われるか、ジルグスに大きくマイナスになるようなことならば恋を捨てるか立場をとるかの選択を迫られるかと身構えたのだが、それぐらいならばいくらでも誤魔化しようがある。

 だがミランダもゴウが復元しようとしている魔道兵器、ゴーレムの事は多少知っているが正直眉唾ものだと思っている。
 確かにもしゴウの魔道兵器の復元が成功した場合、それが大きな戦力となるだろうから本国に知らせる義務がある。
 しかし本当に可能性のある復元なら、そもそも出資者探しに苦労することなど無いはずだ。

 怪訝そうな顔をするミランダに苦笑するカイル。

「そんな顔をしなくていい。俺は……できればお前にも笑顔でいてもらいたいからな」
 脅しておいてよく言う、と流石にむすっとした表情になるミランダにカイルは笑いかける。

「それでもあの時のただ生きているだけという顔より、今の方がましだ」

 ミランダにはカイルの言うあの時というのが何のことかわからなかったが、何となく嘘を言っていないとだけは解った。

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