J's GOALニュース

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熊本:Jリーグ23年目の日、熊本は、ここへ帰ってきます。

2016年5月14日(土)



「あの日」からもう1ヶ月も経ったのかーー。それが正直な印象だ。というのも、実際にはいまだ渦中にあることが、そう感じる理由である。
この間、少しずつだけれども確かに状況は変わってきた。多くの店舗が営業を再開して人の流れも戻り、学校には子ども達の声が響くようにもなった。

しかし、頻度が少なくなってきたとは言え余震は続き(これを書いている間にも小さな揺れを数回感じた)、被害の大きかった益城町などでは倒壊した家屋が手つかずの状態で残ったままの地域も。1万人近い人たちがいまだに避難所での不自由な生活を強いられている。具体的な数字を伴って徐々に明らかになってくる観光業や農林業関連での被害も甚大。表面上は以前と近い状態に戻ったように見えるものの、本当の意味での復興には、まだまだ長い時間がかかる。


だからこそ、ロアッソ熊本がこれから担う役割は大きい。選手達はこの1ヶ月間、物資集めや避難所で開いたサッカー教室などを通じて、今まで以上の近さと濃さで県民と接してきた。ある日、訪れた避難所で、鈴木翔登はこんな言葉をかけられたという。
「熊本城や阿蘇、水前寺公園がダメになって、もう、『熊本が誇れるもの』はロアッソしか残っとらん」
少々、極論ではあるかもしれないが、それら「熊本の原風景」とも言える場所が小さくないダメージを受けたことで、県民のショックがいっそう大きくなったのは事実。自らも被災したなかで「いま自分たちは何をすべきか」という問いと向き合ってきた選手達は、県民の声を直接聞くことによって背中を押されたのだ。
本来の仕事であるサッカーで熊本を元気にしなくてはいけない。結果はともかく、困難な状況にあっても下を向かず、顔を上げて前を向き、勇気を持って、力を合わせて歩みを進めていく。その姿勢を見せることで、創造的復興を目指す熊本県全体を牽引する存在にならなくてはならないーー。


新たな決意のもとで臨む1ヶ月ぶりのJ2リーグ。15日の千葉戦がその第一歩だが、Jリーグが開幕した日(1993年5月15日)からちょうど23年後に復帰戦となる特別な試合を戦うことにも、巡り合わせの妙を感じざるをえない。
今回の地震で個人的に学んだのは、「想像もしなかったことが、自分の身にも起こりうる」ということ。もちろん、物事は思い描いた通りに運ばない方が多いけれど、都合良くポジティブに解釈し、信じるエネルギーに変えていきたい。

ともあれ、皆さんからのたくさんの、そして温かい支えのおかげで、私たちはここに帰ってくる事ができました。ありがとうございます。今週末からまた、どうぞよろしく。

写真、文:井芹貴志(熊本担当)

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