熊本地震1カ月 住まいの再建が急務だ
熊本地震の「前震」から1カ月を迎えた。震度7の激震に2度襲われ、その後も広範囲の連続地震が起き、終息は見通せない。震度1以上の地震は1400回を超えた。
避難所などで避難生活を送る人はいまだ1万人を超える。実数は把握できないが、車で寝泊まりする人たちもいる。避難生活の長期化による疲れは想像以上だろう。
健康被害を生まぬよう当面の被災者の避難生活をしっかり支える体制づくりがまずは必要になる。より抜本的には安定的な住まいの確保を急ぐべきだろう。
今なお1万人の避難者
熊本県内で避難所は今も約240カ所に上る。地元自治体は避難所として活用してきた学校の再開に伴い、避難所の集約を進めている。だが、集約により避難所が自宅から遠くなったり、これまで培ってきた避難所内のコミュニティーが壊れたりすることを不安に感じる被災者が少なくないようだ。
多くの避難所は、住民同士で生活上のルールを作り、共同体として機能してきた。避難所のリーダー有志が集まり、環境改善を話し合う動きも出ていた。避難生活は長期化が予想される。地域や地区単位で避難所生活を送ってきた人たちについては、そのコミュニティーの維持に最大限留意し、避難者同士の顔の見える関係を大切にしてもらいたい。
プライバシーへの配慮から、避難所内に間仕切りを設ける対策がとられるが、一部にとどまっている。
また、毎日新聞が避難者に実施したアンケートでは4割の人が健康が悪化したと回答した。避難に伴う震災関連死をこれ以上増やしてはならない。これからは熱中症や食中毒対策など暑さへの備えも課題だろう。
「夜が怖い」と訴える子供がいる。心のケアも必要だ。スクールソーシャルワーカーの活用など手厚い支援を求めたい。
余震が長期化する中で、屋内にいられず、車で寝泊まりする被災者が相次いだのが今回の地震の特徴でもある。エコノミークラス症候群(肺塞栓(そくせん)症など)の被害者が続出した。
「車中泊は好ましくない」としてきた政府も、現実に対応するために、具体策の検討を始めた。車中泊する人は減っているとみられるが、健康を損なわないよう行政が見守り、支援していく必要がある。
自宅が壊れた被災者のために仮設住宅の確保を急がねばならない。仮設住宅は、自宅が全壊したり、大規模に壊れたりした被災者が対象になる。だが、どれだけ必要になるかの見積もりは難しい。市町村が入居に必要な罹災(りさい)証明書を発行するための調査や手続きが進まないためだ。
県によると、今回の地震で一部損壊も含めて被害を受けた住宅は約7万5000棟にも及ぶ。
2次被害防止のため自治体が実施した応急危険度判定では約1万件が余震で倒壊する恐れがある「危険」と判定された。罹災証明の終了に全力をあげるべきだ。
ただし、罹災証明の調査を待っていては、仮設住宅の整備は遅れてしまう。熊本県が主導するなどして、建設を速やかに進めるべきだ。
民間の空き家などを行政が借り上げ、仮設住宅として無償で貸与する「みなし仮設」の積極的な活用も重要だ。その場合、罹災証明書が出ない段階でも仮入居を認めるような柔軟な対応を心がけてもらいたい。
地元の要望聞き支援を
仮設住宅の建設場所によっては入居しないという被災者もいる。広々とした土地を活用し、米国で災害時などに活用されるトレーラーハウスなどを仮設住宅代わりにもっと使うべきだと提言する人もいる。
被災自治体、あるいは地域によって事情は異なるだろう。行政は被災者の心情をくみとって、住まいへの対応に生かしてほしい。
津波で市街地全体が浸水した東日本大震災と異なり、熊本地震では同じ地域でも住宅が受けた被害の程度はさまざまだ。自治会や町内会などを生かし、地域が一体感をもって、復興に取り組む体制も確立したい。
政府は復旧・復興に向け、インフラ再建や仮設住宅建設などにあてるため総額約7800億円の補正予算案を決定した。予備費と合わせ総額1兆円超の予算が確保される。
また、政府は熊本地震を「非常災害」に指定した。崩落した「阿蘇大橋」の復旧など自治体が行う事業を国が代行できる。被災地の意向を尊重した運用をすべきだ。
熊本県は復興に向け「くまもと復旧・復興有識者会議」を発足させた。五百旗頭真座長がまとめた緊急提言は「創造的復興」を掲げ、国が東日本大震災の復興で実施した財政支援のレベルを維持するよう求めた。
巨額なインフラ整備は負担率がわずかでも地元にとって大きな負担となるだけに、国は十分に地元の要望に耳を傾けてほしい。
熊本地震が発生して以来、全国から駆けつけたボランティアはすでに延べ4万人を突破した。だが、最近はそのボランティアも減少傾向にある。地震から1カ月といっても、まだ復興の緒についたばかりだ。わたしたち一人一人が、息の長い支援を続けていきたい。