アジア > アジアニュース

文革50年、強権化する中国政治 習氏の個人崇拝進む

2016/5/14 0:44 (2016/5/14 3:30更新)
小サイズに変更
中サイズに変更
大サイズに変更
保存
印刷
リプリント
共有

 【北京=永井央紀】中国全土を10年間にわたる混乱に陥れ、多くの犠牲者を出した文化大革命が始まってから16日で50年を迎える。毛沢東氏に対する個人崇拝がもたらした惨禍だが、いまの習近平指導部では習氏への権力集中が個人崇拝の色彩を帯びて進む。言論統制の強化などで社会に萎縮した空気が広がり、経済にも影を落としている。

北京で2日開かれた音楽会に登場した毛沢東氏の絵。文革礼賛には中国でも批判が強い(ネット上の映像から)

習氏礼賛の曲がネット上で流行し、習氏の姿に「大好きです」の歌詞が重なる

 「欧州と重慶を往復する直通列車を1日1便に増やす」。内陸部の重慶市政府幹部は鉄道貨物輸送の増強計画にまい進している。ところが関係者は「実際の貨物需要は欧州経済の低迷で急減している」と明かす。採算を無視した計画の背後にちらつくのは習氏の影だ。

 「ドイツと力を合わせて経済ベルト建設を推進する」。習氏は2014年3月、重慶からの貨物輸送の終着駅、独デュイスブルク駅をわざわざ訪れ、鉄道貨物事業が中国から欧州に至る経済圏を築く新シルクロード構想「一帯一路」の柱であることを示してみせた。

 いまの中国政府内では、習氏肝煎りの事業に「縮小」や「後退」の文字はなく、とにかく「前進」「推進」させる力学が働く。政府内部でさえ「一帯一路と言えばどんな計画にも予算がつく」と、財政負担の増大を懸念する声が上がる。

 ある国有企業は昨年、幹部のパスポートを相次いで取り上げた。習氏による倹約令や情報統制に配慮して海外出張を減らすためだという。ある幹部は「目を付けられたくないので、誰も海外出張に行こうとしない。仕事に支障が出ているのだが……」とため息をつく。

 文革時代、毛沢東氏は年少の「紅衛兵」や一般大衆を巻き込み、自身への個人崇拝を進めて強権を振るった。習氏も15歳から7年間、北京を離れて陝西省の農村での生活を強いられ、辛酸をなめると同時に権力のすごみを肌身で感じた。習氏が統治する「今の社会の雰囲気は文革時代に似た不気味さがある」と北京の知識人は警戒する。

 習氏は汚職官僚を撲滅する名目で反腐敗運動を展開。政敵を次々と塀の中に追いやる一方、習氏の権威を高める「核心意識」という言葉も指導部内で使い始めた。インターネット上では習氏をたたえる歌があふれ、湖南省の農村視察を題材にした音楽ビデオでは農民に語りかける習氏の姿が大写しになる。

 習氏は劉鶴・中央財経指導小組弁公室主任ら側近で周辺を固めることで、経済運営は首相に任せるという慣習も壊した。乱造されるのは「脱貧困」「所得倍増」など大衆受けするスローガンだ。だが、強権は社会や経済の安定を意味しない。

 「トップ一人で全てを決める最大のリスクは失敗の責任を取れないことだ」と政府系シンクタンクの研究者は指摘する。絶対的な権力者には聞こえのいい情報しか入らない恐れがある。中国の名目国内総生産(GDP)は過去50年で400倍近くに膨らんだ。50年前と異なり、世界2位の経済大国の権力者が道を誤れば、災禍は世界に及ぶ。

小サイズに変更
中サイズに変更
大サイズに変更
保存
印刷
リプリント
共有

電子版トップアジアトップ

関連キーワード

習近平、経済

【PR】

NIKKEI ASIAN REVIEW

Asia300

    [PR]