【連載】「告発」~東愛知新聞社義援金不正流用疑惑~/④協会資格停止1年
2016/05/12
「もやもやしていた」と、Aさんは当時の心境を語る。東愛知新聞社による「義援金寄付漏れ問題」は世間に知られるところとなったが、その疑惑は「経理ミス」と片付けられた。「これではだめだ。本当のことを知ってもらいたい」。Aさんは「手紙作戦」を続けた。
12月に65歳を迎えるAさん。「もう、この会社にはいたくなかった。辞めればもっと詳しく告発できる」。退職の手続きをして、翌年1月25日付での退職を決めた。
「めどがついた」ことで、年が明けてからの手紙作戦は大胆さを増す。「9月の社長室の会話」など、さらに詳しい内容を記した「手紙」を、新聞社や出版社、地元の有力企業に再び送り続けた。その一つに、日本新聞協会が反応する。協会側と接触し、Aさんは不正を訴えた。
その情報提供がどう影響したかは不明だが、2月17日、協会は東愛知新聞社に対し「12カ月の会員資格停止」の処分を下す。「除名」に次ぐ重い処分で、協会を通じた広告収入を1年間失うのは、経営に与える打撃も小さくはない。「こんなものかと思ったが、処分が下って半分くらいは納得できた」。
その前の2月1日には、東愛知新聞社が独自の「社内処分」を発表している。藤村正人社長(当時)は「役員報酬30%減1年間」。他の幹部も「降格」や「減給」などの処分となったが、Aさんからみるとまったくの茶番。「社長1人で責任を負わないといけないのに、みんなに分散して会社全体の責任にしてしまった」。
それでも、Aさんの「告発」は社内外の処分として、少しずつ「成果」が表れてきた。ただ「真実」が明らかにされた訳ではない。もうひと息だった。
こうした中、Aさんは大手新聞の記者とも会った。記者にもすべてを話したが、記事にするには証言者がもう1人必要と言われた。
証言できるのはB局長しかいない。昨年9月にAさんと2人、社長室で藤村正人社長から「寄付していないのは、先代から聞いてたよ」という話を聞いている。
数日後、「会って話がしたい」。B局長の連絡先を記者に教えると、連絡してきたのはB局長の方からだった。既に退職から1カ月。Aさんはインターネット上でも「告発」を始めていた2月末、2人は豊川市内の喫茶店で会った。
AさんはB局長に、2人目の証言者になるよう説得するつもりだった。当たり障りのない世間話から、9月に2人で社長とした話を持ち出し、告発への協力を切り出した。「1人では難しいと思う。2人で証言すれば説得力があって、そうすれば東愛知は再出発できる」。だが、B局長はAさんの話にうなずくだけ、告発には消極的に見えた。
「この場で言ってしまうけど、自分なんですよ」。Aさんは、自分が告発者であることを告白してまで説得を続けた。しかし、2人目の証言者は口を閉ざし、真相の「告発」は幻となった。
今にして思えば、「Bは私が告発者であることを確かめに来ただけだった」。