【連載】「告発」~東愛知新聞社義援金不正流用疑惑~/⑤社長辞任
2016/05/13
大手新聞での「告発」は不発に終わったが、ちょうどその頃、東愛知新聞社内では重大な局面を迎えていた。
疑惑発覚以降、「事務的な経理ミス」としか説明しない同社への批判は徐々に高まり、地元企業の一部には広告の掲載を取り止める動きも出ていた。社内でも藤村正人社長(当時)の対応に不信が募り、ついには社員の不満が爆発。有志社員が「社長退任の嘆願書」を藤村社長に突きつけた。「社長を追い出すことで、会社を守ろうとしたんだと思う」とAさん。
そして3月2日、「藤村社長辞任」が発表される。2週間後には、後任社長に取締役相談役の本多亮氏が決まり、東愛知新聞社本社で、新社長発表の記者会見が開かれた。それまで公の場で疑惑に対する説明をしてこなかった同社にとって、これが初めての会見。テレビ各社のクルーも詰めかけ関心の高さを示した。
報道陣からは、広告収入のうち本来寄付すべき半分がなぜ送金されなかったのか、質問が浴びせられた。本多社長は、「(寄付を)預り金として計上すべきところ、広告収入としてしまった」と釈明。記者からは「それはミスなのか、故意なのか」と繰り返し確認する質問が飛んだ。本多氏は「意図的ではなかった」として、「経理ミス」だとする藤村前社長の釈明を踏襲する説明を繰り返した。
だが、東愛知新聞社が繰り返し「経理ミス」と弁明する義援金不正流用は、本当に「ミス」なのか、それとも「故意」にやったことなのか。この疑惑の核心ともいえる点について、同社に15年間勤め社内の事情にも詳しいAさんはこう見ている。
「最初の特集の時は、ちゃんと寄付するつもりだったんだと思う」。寄付の手順は、最初に目録だけ渡し、協賛企業からの広告料の入金を確認してから、まとめて豊橋善意銀行に送金することになるという。
ところが、「経理がルーズだった」。第1回の「復興支援特集」(2011年3月)の協賛企業は214社。各社からの広告料は、複数ある新聞社の銀行口座に、各社それぞれのタイミングで1万円ずつ入金される。「口座への入金は、別の広告料のお金も混じっているので、その中から一つひとつチェックして管理するのは大変」と指摘する。
「入金チェックも寄付も行わないで、そのままずるずる…。そのうち、誰にも見つからないし、会社の利益にもなるし…、まあいいか、というふうになったのではないか」。
本多社長も経理の不透明性を認めるように、1回目の特集の時には、事務的な不手際による「故意」とは呼べない部分もある。しかし、「2回目からは確信犯だ。最初から寄付するつもりもないのに、協賛企業をだましてお金を集めてきた」と断罪するAさん。
正人氏の「寄付していないのは、先代(圭吾氏)から聞いてた」という証言からも、「故意」は2011年に死去した圭吾氏の社長時代から続いてきたとみられる。