復興「東日本」級に 有識者会議・五百旗頭座長
熊本地震からの復興方針を話し合う熊本県の有識者会議が開かれ、東日本大震災と同じレベルの取り組みを求める提言をまとめた。座長の五百旗頭真・同県立大理事長に狙いを聞く。【岸俊光】
−−蒲島郁夫知事からいつ、どんな形で有識者会議の話があったのですか。
◆マグニチュード(M)7.3の本震翌日の4月17日には知事から協力してほしいという話があったと思う。交通機関が止まったため、兵庫県の自宅にいた私は、大学だけでなく知事とも電話で頻繁にやりとりをした。当初、知事は自衛隊の出動を要請するなど機敏に手を打っていた。だが、16日の本震で、想定を超えて荒れ狂う「大地の魔性」に不安を覚えたのではないか。被害を受け止め、県民が安心できるまとまった像を示そうと考えたのだろう。
−−地震の直後に県立大が避難所を閉鎖したことに困惑する声もありました。
◆閉鎖したわけではない。大学は300人を受け入れる用意があった。近接する病院から軽症者を受け入れる協定も結んでおり、本震後、収容能力を上回る1500人が押し寄せて、学生ボランティアが熱心にお世話をした。学内の体育館の一つは屋根が落ちる恐れも出てきた。学長とはできる限りのことをやろうと合意していたが、心配しすぎてブレーキをかけた向きもあったかもしれない。その日のうちに学長が記者会見して説明した。避難所は縮小して今も続けている。
−−地震発生から1カ月を迎えました。提言はどこに力点を置いたのですか。
◆中長期展望を持つよう委員はみな強調した。まだ水道の通らない益城町の避難所ではトイレが使いづらく、全般にはプライバシーへの配慮が問題だ。NPO(非営利組織)の力を借りるのが良い。仮設住宅については、4年前の九州北部豪雨の時に地元産の材木で住みよい仮設を作った実績がある。一方、多くの被災者が自宅近くを希望しているので、遠くにある民間借り上げのみなし仮設には思ったほど手が挙がらない。
今は避難所と車の生活だが、3カ月後に仮設住宅、3年後からは復興住宅や自宅再建という運びが目安になる。その全過程で被災者の痛みを最小限にしたい。集団移転などが必要な自治体も出てくるだろう。選択肢を広く示したうえで住民の意向を大事にしたい。
−−政府に東日本大震災と同じレベルの取り組みを求めた意味は?
◆国の省庁には、国民に増税を求めた東日本大震災は例外という考えがある。一人一人の生活再建のため国費を投入する考えが、阪神大震災では認められなかった。被災者生活再建支援法が議員立法で成立したのは3年後だ。東日本大震災ではそれに上乗せして生活再建を支えている。集団移転をはじめ復興事業は、地元の負担ゼロが多い。熊本地震に適用しないのは不健全だ。列島の各所で起こる災害のたびに被災地が国と個別取引をしなくてすむよう、東北の水準を守る。それが国民への誠実さだろう。
有識者会議は6月5日に最終提言を出す。将来に夢のある復興が欲しいものだ。政府は5月下旬の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)とオバマ米大統領の広島訪問を終え、腰の入った対処を考えてもらいたい。
有識者会議の緊急提言
・住民に寄り添い、住民と協働する
・短期的・局所的視点にとらわれず、将来を見据える
・次の地震に備え、次世代に継承する
・国・国民合意による復興