2016年5月14日土曜日

理系であっても、ほとんどの人はアインシュタインの業績を知らない

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社会学者の千田有紀氏がアイドル・ソングの歌詞にマジレス芸を披露している。曰く、「アインシュタインよりディアナ・アグロン」の歌詞が女性差別的だそうだ。歌詞は論説ではないのだから普遍的な真実を主張する場所ではなく、こういう娘もいるな、こういう気分の時もあるななど、断片的な共感を誘うもので、こういう風に真面目に捉え出したら生きづらいと思うのはさておき、歌詞の中の「アインシュタインってどんな人だっけ?」と言う部分で、女子の理系進学をあれこれ議論していて噴き出してしまった。理工系に進んでも、物理学徒でもなければアインシュタインの業績を学ぶ人は限られている事を知らないらしい。

該当部分を引用しよう。

私が心配するのはこの曲では、単に女性は勉強しなくて馬鹿でいい、といっているだけではなく、わざわざアインシュタインを引いてきているところである。
アインシュタインってどんな人だっけ?
聞いたことあるけど本当はよく知らない
教科書 載っていたような
なんか偉い人だった
好きなのはディアナ・アグロン

「ディアナ・アグロン」を適当に誰かに書き換えたら、中高生どころかほとんどの人間に性別関係なく該当するであろう。大学の古典力学の教科書を見れば、アインシュタインの主要業績である相対性理論の紹介はされているであろうが、少なくとも学部1年で微分積分や線形代数を学んだ先の数学であるベクトル解析の知識は必要になる。詳しく学ぶにはリーマン幾何学にずぶずぶ踏む込む必要はある。しかし、ミンコフスキー空間やロバチェフスキー空間を説明できる人は、ざらにはいない。これは理系の人々の中でもそうだ。

アインシュタインが偉人なのは確かなのだが、その研究自体は理学・工学分野でもそうは身近ではない存在だ。名前を知っておけば十分であろう。浮気癖があったことや、原爆開発を提言した話は知らなくても良い。ゴセットやフィッシャーの方がずっと身近に感じる人が多いであろう。しかし、ゴセットやフィッシャーでさえ、中高生が名前を知っておくべきかは分からない。本格的に統計学を学ぶのは、大学に入った後だ。「ネイピアってどんな人だっけ?」と言われたらちょっと不味い感じはするが、それでもネイピア数と対数を知っているのであれば、ジョン・ネイピアの存在は知らなくても問題ないであろう。

こういう理由で歌詞の該当部分は多くの人々の共感を呼ぶ所であろうし、知名度で選んだだけだと思うが、作詞家の秋元康氏がアインシュタインをチョイスしたのは適切だと思う。磨いても光らなさそうな女の子がカラオケで歌っていたら、諦めて自活のために勉強しろって思いそうな歌詞ではあるが。なお、そう指摘すると「現実を直視したくない」と言われる。

ところで文系だから数学不要と言うのは三十年ぐらい前に終わっているはずなのだが、千田有紀氏の中ではまだつながっているらしい。それはともかく、数学を学ぶ「御利益」を見出せなかった事を周囲のせいにしていて見苦しい。

中学校以降、授業中に何度も「女子学生は空間図形が苦手」「女性は数学が苦手」と当の数学教師に言われるにつけ、「女子学生が数学できたら面倒くさいことになりそうだ。ただでさえ成績が良ければ生きにくいのに」と、勉強をやめた

女子生徒が数学が出来て困る事は無かったであろうし、数学教師がいなければ学べないと言うことでも無い気がするのだが。勉強をやめたのは、モチベーションをつくれなかった千田有紀氏自身に起因するとしか思えない。親が参考書などを買ってくれなかったと言うのであれば、話は別であろうが。

ヒュパティアさんが20世紀の中頃までに、著名女性研究者は何人も輩出されていたと言ったら、ネーターさんとコワレフスカヤさんがうんうん頷いていた。彼女たちの時代と違って、理学部がある女子大も少なくなかったはずだ。モチベーションを失うのが早過ぎたりはしなかったであろうか。

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