QWERTYキーボード配列の不思議
皆さんが使っているパソコンのキーボード。数字配列の下、2段目の配列は左からQWERTYと並んでいますね。そのため、このキーボードはQWERTY(クワティー)キーボードと呼ばれています。
この文字配列はどうしてこのように並んでいるのでしょう?実は、その昔1873年に機械式タイプライターが作られたときに採用された配列が元になっています。その理由についてよく耳にするのは次の二つの説。一つ目は、「タイプバー(印字棒)がジャムる(絡まる)のを防ぐためにわざと打ちにくい配列にした」という説です。機械式タイプライターの構造を打鍵式のピアノと同じようなものだと考えるとわかりやすいと思います。もう一つは、「セールスマンが営業活動時にTYPE WRITERと打ちやすくするためにそれらを含む10文字を配列した」という説です。
いずれにしてもQWERTY配列が合理的だと考える人は少なかったのですが、1890年代に入るとこの配列がデファクトスタンダード(業界標準)としての地位を確立しました。それはタイピスト養成学校でQWERTY配列のタイプライターが使われ、タイピストがこの配列を習得したためでした。
その後1936年に、この不合理なQWERTY配列に対抗し、はるかに優れた配列だとされたDvorak(ドボラック)配列が開発されたのですが、すでに業界標準となって市場を席巻していたQWERTY配列の市場を覆すことはできませんでした。キーボード配列はQWERTY配列に「ロックイン(Lockin)」されてしまったのです。
この事例は、ブライアン・アーサーの提唱する「経路依存性(path dependence)」など複雑系経済学の世界でよく引き合いに出されます。
ビジネスの世界では、デファクトスタンダード(業界標準)を獲得することが極めて重要な戦略の一つとなってきています。
経営情報学部 五味嗣夫