2016-05-12
鎖につながれたヘリコプター
経済 |
と題したProject Syndicate論説(原題は「Helicopters on a Leash」)でアデア・ターナーが、2日に紹介した浜田宏一氏の批判に反論している(H/T 本石町日記さんツイート*1)。
The only powerful argument against helicopter drops is the one that Heise and Hamada stress – the political risk of overuse. If monetary finance is no longer prohibited, politicians might use it to curry favor with political constituencies or to over-stimulate the economy ahead of an election. Hamada oddly suggests that proponents of monetary finance ignore this risk; but in my own IMF paper, and in Bernanke’s recent blog post, it is a central concern.
History provides many examples of excessive monetary finance, from Weimar Germany to the many emerging economies where governments have pressured central banks to finance large fiscal deficits, with high inflation the inevitable result. So a valid argument can be made that the dangers of excessive monetary finance are so great that it should be prohibited entirely, even if in some circumstances it would be the best policy.
But a valid argument is not necessarily a convincing one. After all, other policies to support demand growth, or a failure to implement any policy, can be equally dangerous. It was deflation, not hyperinflation, that destroyed the Weimar Republic. Hitler’s electoral breakthrough of 1932 was achieved amid rapidly falling prices.
(拙訳)
ヘリコプターマネーに対する唯一の強力な反論は、ハイゼと浜田が強調する、濫用の政治的危険性である。財政マネタイズ禁止が解かれると、政治家は有権者のご機嫌取りのため、もしくは選挙の前に経済を過剰に刺激するためにそれを使うかもしれない。浜田は奇妙にも財政マネタイズの推奨者がそうしたリスクを無視していると言うが、私のIMF論文やバーナンキの最近のブログポストでは、それが中心的な課題となっている。
ワイマールドイツから数多の新興国経済に至るまで、大規模な財政赤字をファイナンスするように政府が中銀に圧力を掛けた結果として必然的に高インフレが生じた、という過剰な財政ファイナンスの事例は歴史上数多い。従って、過剰な財政ファイナンスの危険性はあまりにも大きいので、仮にある状況下では最善の政策になるとしても、完全に禁止されるべき、という立論は有効である。
だが有効な立論が説得力を持つとは限らない。結局のところ、需要の成長を支える他の政策も、あるいは何もしないことも、同様に危険なのである。ワイマール共和国を破壊したのはデフレーションであってハイパーインフレーションではなかった。1932年のヒトラーの選挙での躍進は、物価が急速に低下する中で成し遂げられたのであった。
この後ターナーは、濫用の政治的リスクを削減するルールの一例として、インフレ目標達成に財政マネタイズが必要だと中銀が考えた場合、その上限を定める権限を中銀が持つ、というバーナンキの提案を紹介し、ブラジルのような新興国ならともかく、ECB、BOE、FRBといった独立性が高い中銀ではそれは遵守可能なのではないか、と述べている*2。そして、財政マネタイズ後にそれを巻き戻そうとした高橋是清の暗殺という浜田氏が引いた日本の事例については、デフレが続いた場合もやはり日本の立憲制度は(ドイツのように)崩壊したであろうし、また、仮に高橋がマイナス金利を導入した後にそれを巻き戻そうとした場合も彼は同じ運命を辿ったであろう、と指摘している。
ターナーは、強力な反民主主義勢力が存在する場合、財政マネタイズの禁止が民主主義や法の原則を確保することはできない半面、制御された適度の財政マネタイズはデフレと闘うことを通じて有用かもしれない、と述べている。ターナーに言わせれば、責任ある財政マネタイズの代替は財政マネタイズを行わないことではなく、遅すぎる無秩序な財政マネタイズであり、今日の日本はその危険性をよく示している、とのことである。即ち、日本はあまりにも長いこと財政マネタイズを控えた結果、公的債務はGDPの250%にも上り、事実上のマネタイズは不可避となっている。だが、仮に日本がバーナンキの2003年のアドバイスを受け入れていたならば、物価レベルは今より少し高くなっており、債務の対GDP比は低くなっていただろう、とターナーは言う*3。
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