小学生の頃、どの漫画家にはまりましたか? と質問を受けたら自分はこの人ですと答える漫画家がいる。それは本宮ひろ志さんだ。
彼のデビュー作「男一匹ガキ大将」を初めて読んだ時は衝撃が走ったんだよ。小学校低学年の時、父親の実家に夏休み遊びに行った時にさ。親戚が喫茶店をやっていてね。
店内に「男一匹ガキ大将」の漫画が置いてあったんだよ。特に何も意識せずに「男一匹ガキ大将」を読み始めたら、見事なまでにはまってしまった。
それから気づけば本宮ひろ志さんの単行本を買い集める自分がいたんだ。「男一匹ガキ大将」では、主人公の戸川万吉も魅力的なんだけどさ。他の登場人物も非常に魅力的なんだよ。
例えば、日本財界の第一人者の白川宇太郎と彼の側近の仲代の出会いも凄まじい。当時、天ぷらの料理人だった仲代のところに白川宇太郎ご一行がきて、白川宇太郎が仲代に話しかける場面があるんだよ。
「おい君、天ぷら料理は何でもできるそうだね」
「お客様がお望みでしたら……」
「じゃあ、きみの指を一本天ぷらにあげてくれんかね」
「食べていただけますか?」
「食おう」
「では」
と、仲代は包丁で自分の指を切り、天ぷらにして白川宇太郎に差し出すんだけどね。それが2人の結びつきになったんだ。当時、小学生だった自分からすれば何て凄まじい世界なのかと本気で思ったよ。
天ぷら職人には絶対にならないと思ったよ。しかし、大人になるにつれて白川宇太郎の話をみんなにするたびにゲラゲラ笑われることに気づいたんだ。
本宮教の自分としては何笑っているのだ。この野郎~と本気で思ったこともあったんだけどさ。人の受け止め方や感じ方は十人十色で、その話をギャグとして受けとめられたとしてもしかたのないことだってある。
主人公の戸川万吉もすごいんだけどね。機動隊と全学連の争いをケンカだと思ってさ。ダイナマイトを投げて争いを止めようとしたりするんだよ。これ、リアルの現実でやったら確実に速報ニュースになるからね。
しかもさらに凄いのは「男一匹ガキ大将」が文庫版で発売されたんだけどさ。文庫本は7巻で突然終わってしまうんだよ。あとがきに本宮ひろ志さん本人が、
「二度と読み直す気になれない」
という理由で、全巻の半分くらいで文庫版はあっけなく終了してしまうんだよ。たしかに後半はとんでもない展開だったからなぁ。
でもね、人間って非現実的な行動力のある人物に魅力を感じる生き物なんじゃないかな。