セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長が、職を辞することを発表するに至った一連の経緯(「セブンの乱」と名付けよう)には、正直なところ驚いた。「カリスマ」とも称された名経営者で合理的な人と思われた鈴木氏が「暴走」と言うしかない挙に出たからだ。
もっとも、このセブンの乱も、同社の後の体制が概ね決まったようであり、雑誌などのメディアの背景報道も出揃って、一件落着の気配が漂ってきた。
セブンの乱には、組織の中で仕事をするビジネスパーソンが参考とすべき多くの教訓が含まれている。今回は、セブンにちなんで7つ取り上げてみた。
【教訓1】勝てる票読みのない採決をしてはならない
今回の事の経緯を見ると、鈴木会長が退任するに至った直接のきっかけは、4月7日の取締役会で、鈴木会長が提出した、井阪氏をセブン・イレブン・ジャパンの社長から外す人事案が過半数の支持を得られずに通らなかったことだ。
この人事案は、指名報酬委員会で賛成多数を得られなかったもので、鈴木氏は意見が割れたままこれを取締役会で通そうとしたわけだが、社外取締役である伊藤邦雄一橋大学大学院特任教授の要請によって無記名で行われた採決にあって、賛成7、反対6、白票2、の結果が出て、ぎりぎり過半数を得られなかった。
鈴木氏の談話によると、「反対票が社内から出るようならば、もはや信任されていないと考えた」とのことなので、鈴木氏個人の基準は過半数でなかった可能性はあるが、採決を行った結果、トップの意思が否定されたという事実は重かった。
もちろん、個々の案件について採決で負けても、「それは個々の問題だ」という建前で以前と変わらない権力を持ち続けることができるケースもあるが、普通の組織人としては、トップであっても中間管理職であっても、採決に持ち込んで負けるという事態は避けた方がいい。自分の権力があからさまに形になって否定されるからだ。
特に「負けた場合にどうなるのか?」について万全のプランがあるのでない限り、勝てる票読みのない採決をしてはならない。