演出家野田秀樹(60)が12日、都内で囲み取材に応じて、蜷川幸雄さんが亡くなる前日の11日夜、最後の対面をしていたことを明かした。
ある女優に「野田さんが会いに行った方が元気になられるんじゃないかしら」と言われ、強引に病院へ押し掛けた。「目は開けていなかったけれど『野田さんが来たわよ』という声に、ウーッとかアーッとは言っていた。僕も、こうなるとは思わず『今度会うときは目を開けてね』と言い残してきたぐらいでした」と振り返った。
「僕が悪態ばかりつかせてもらっていた」と話す。昨年の「海辺のカフカ」を見に行った時、車いすに乗った蜷川さんに「久しぶりにおもしろかったよ」と悪態をついたら「うるせぇ」と返されたという。きちんと会話をした最後は昨年12月。「僕が酔っぱらって、イタズラ半分で電話したら初めて蜷川さんの弱音を聞いた。いつものように『くたばってんじゃねぇよ』と悪態をついたら『オレ、ダメみたいなんだよなぁ』と言っていました」。野田は、さみしそうに1つずつ振り返った。
20歳年上の先輩演出家は「16歳の時に蜷川さんの作品を見て以来、僕にとってのヒーローだった。80歳までやれるなんてすごいと心から思っていました。20年後の自分が、あれだけのエネルギーでやれるかなと、いつも励みにしていた。あのパワフルさとオリジナリティーは本当にすごかった。話の通じる数少ない人だった」と。さみしそう肩を落とした。
ただ、最後まで刺激も受けた。「昨日の枕元にも、これからやる台本が3本置いてあった」。生涯現役だった大先輩に、敬意を表していた。