Autodesk Creative Design Awards 2015の授賞式が、10月29日に東京・表参道のAutodesk Gallery Pop-up Tokyoで開催された。「The Future of Making Things」 ~創造の未来~」をテーマに開催された本アワードは、デジタルプロトタイプ、BIM(Building Information Modeling)、CIM(Construction Information Modeling)、ビジュアライゼーション、コンセプトデザインの5部門から構成、未来の世の中を良くするアイデア、社会問題を解決してより良い未来を感じさせるアイデアを公募、トップクリエイターによる審査の結果、各アワードのグランプリ、学生賞が選出された。
takram design engineering 代表の田川 欣哉氏が審査員長を務めたデジタルプロトタイプ部門は、グランプリとセミグランプリを選出。グランプリには首都大学東京大学院に所属する、徳山 義介氏による「Lick」が選ばれた。「Lick」は、唾液センサーを用いてホルモンバランスとストレスを数値化、取得したデータをスマートフォンアプリで管理し、メンタルコンディションをチェックする口紅型デバイス。審査員長の田川氏は、「いよいよ新世代のデザイナーがでてきたと感じた。コンセプトからメカニズム、UIまで一人のデザイナーで完結している点は、この世代では当たり前になってくると思う。新世代を代表する作品」と評価。また、「事業としてビジネスできるレベルにある。起業したほうがいい」とエールを送った。
セミグランプリ(※グランプリが学生のため、学生賞をセミグランプリに変更)は、Ginger Design Studioによる「Starter Watch」。3Dプリンタを使って自分だけの時計を作ることができるサービスで、独自の3D CADシステムを開発して、誰でも気軽に自分だけのデザインを作り、パーソナルオーダーができるのが特徴。選考理由についても、「すでにサービスとしても展開されていて、アプリケーションやオペレーションに関しても完成度が高い。また、デザインができない人でも簡単にデザインできるように工夫されているなど、ユーザーのことをよく理解している」と受賞理由を述べた。
BIM部門は、建築家の藤本壮介氏が審査員長を務めた。グランプリに選ばれたのは、清水建設グリーンフロートワーキングによる「グリーンフロート構想の洋上建設シミュレーション」。赤道直下の太平洋上に浮かぶ「環境未来都市 GREEN FLOAT」は直径3,000m、高さ1,000mの逆円錐形状で海洋に浮かぶ超高層建物。これを実現するための洋上建設シミュレーションがグランプリとなった。藤本氏は、「圧倒的なクオリティ。コンセプトから建築する過程も含めて立体的にシームレスにシミュレーションされている。日本を代表するお手本のようなプロジェクトである。」と評した。
学生賞は、東北工業大学大学院許雷研究室の相澤那樹氏、青木信氏、子玉真也氏、鳥谷部孔明氏、兪帥氏による「棚田」。気仙沼の水産業の復興をはじめ、水産物以外の地域産業を活性化する施設を提案。「BIMの本格的な普及がこれからという段階で、学生ながら積極的にとりいれてBIMの特徴を理解して活用している点を評価した。」と語った。
CIM部門は、BIM部門と同じく建築家の藤本壮介氏が審査員長を務めた。グランプリには、佐々木高志氏による「ドローンを活用した橋梁設計」が選ばれた。同作品は、若者の土木建設業離れやCIMの普及推進を目的とし、ドローンを活用した情報取得や関連する3次元CADの導入などの若者にも興味を持ってもらえるような技術を使い紹介した事例。審査員長の藤本氏も「周辺の地理環境から橋を掛ける場所、それによる人の流れの変化、自然環境への影響などを相対的にシュミュレーションしながら行われた事例で、CIMの特徴をフルに活かしている点」を評価したと語った。
学生賞には、芝浦工業大学地域安全システム研究室による「CIMの活用による情報共有の円滑化と整備計画の深化」。東日本大震災による津波被害をうけた福島県いわき市の岩間地区に、今後の津波被害を軽減するための防災緑化を整備する計画に活用した事例だ。計画プロセスにおいて、CIMを活用した素案や検討委員による意見交換の際にも、関係者間での情報共有の円滑化と設備計画の進化に役立ったという。藤本氏も「街の人や関係者の理解を得るためにあらゆる状況をシミュレーションし、CIMを共有ツールとして活用した点を評価した」とコメントした。
ライゾマティクス代表・齋藤精一氏が審査員長を務めたコンセプト・デザイン部門。グランプリには、重村珠穂氏、Jeong Jun Song氏による「上空地を最大限に利用した未来の高層ビル」が選ばれた。高層ビルの最上階を広場にし、上方向にも人が移動することで輸送混雑を緩和することを可能にし、増築可能なデザインにするなど、ランドマークとして大木のような建築が都市の中にあるようなデザインを創造したという。作品について、齋藤氏は、「アンビルドという建築の考え方があるが、最近はテクノロジーの進歩により実現可能になってきている。この作品はコンセプチャルでもあり、実現性も議論できるレベルにある点が素晴らしい」とコメント。
また、学生賞には、丸山紗季氏、児玉隆一郎氏、寺澤佑那氏、川島穂高氏による「途上国の未来の生計の建て方」という作品が選ばれた。既存の価値ある資源が全て適用しなくなった未来を想定し、最後の手段としての「遺伝子」譲渡による歳入確保の可能性を探った作品だ。選出理由について。「コンセプト・デザイン部門ということもあり、いい意味でも悪い意味でも議論になる作品を重点的に選んだ。この作品は、生物学とテクノロジーを組み合わせて考えていて、インプラントとして、カラダのなかにテクノロジーを組み込んでいくことがどういうことなのだろう、と議論が生まれるところを評価した」と齋藤氏は述べた。
ビジュアライゼーション部門のグランプリは、重村珠穂氏、Jeong Jun Song氏による「空地を最大限に利用した未来の高層ビル」。コンセプト・デザイン部門のグランプリとのダブル受賞となった。高層ビルの抱えている問題を解決しながら既存の建物とは異なった楽しい高層ビルを考えてみたいという思いから未来の高層ビルをビジュアライズ化。
作品について、審査員長を務めたWOW アートディレクターの鹿野護氏は、「もしかしたらこういう未来が実現するかもしれないという期待感をもつことができた。この作品は、想像としてのプリビジュアライゼーションなのか、実現性をもったビジュアライゼーションなのかもわからないぐらい完成度が高い。コンセプト・デザインとのダブル受賞ということもあり、ビジュアル性も高く、コンセプトもいいという素晴らしい作品である」と選出理由について説明。なお、ビジュアライゼーション部門では学生賞は該当無しとなった。
授賞式の後半には、モデレーターにITジャーナリストの林信行氏を招き、4人の審査員長を交えたトークショーを開催。本アワードのテーマである「The Future of Making Things」 ~創造の未来~」を題材にそれぞれの考える未来について語っていただいた。
トークショーの後には、参加者との懇親会が行われ、審査員との意見交換や受賞者同士での情報交換など、貴重な機会となった。