2016年アカデミー賞受賞作!
ボストン・グローブ新聞社は、新編集長の指示のもと、「スポットライト」と呼ばれる特集面で、教会の聖職者たちによる児童への虐待を暴く。数十年に渡り、神父らが性的暴行を繰り返し、それを教会が地元と癒着してもみ消してきた事実は、巨大なスキャンダルとして世界を揺るがした……。
堂々の作品賞を受賞した、超地味映画! キリスト教圏を激震させた聖職者による未成年者への性的暴行、そして教会による組織ぐるみの隠蔽が大々的に暴かれた大事件。それが明るみに出るまでの過程を描く。
ボストン・グローブ誌の新編集長になったリーヴ・シュライバー、取材チーム「スポットライト」班に、小さなコラム止まりの扱いだったこの虐待事件を徹底取材するように命じる。ここからすでに、「何で取り上げないの? これをやってみて」という調子でまったく威圧的でなくさらりと平時の物言い。リーダーのマイケル・キートン、内心「えっ」と思いながら、断ることはできない。常識のずれと言うか、外から来た新編集長からしてみれば、取り上げるべきことを取り上げるごく普通のことであるのだが、ボストンの人間からすると取り上げないことが普通になっている。人はそれをタブーと呼ぶ……。
下手したらここから新編集長による社内改革の話になりかねないところであるが、さすがはジャーナリスト、言われてみれば取り上げないのがおかしい話だということに気づく。さて、そうして本気で取り組んでみると、出るわ出るわ……! まずは続々とアウトな証言が飛び出し、問題の胸糞悪さとでかさが突きつけられる。
が、記事にするための裏取りと証拠固めの段階になると、対照的に急に進まなくなる。弁護士、裁判所、警官……実際に被害者たちと接触したはずの人間から証拠が出てこない。裁判になったはずの事件は実際には示談になり、裁判所に上がらないまま終わっていることが明らかになっていく。ここに至り、薄々あるなとは思っていたもの、数十年に渡り、加害者である神父たちを庇う教会の巨大なシステムと、司法の癒着が見えてくる。
そういえばリチャード・ギア主演の『真実の行方』も、まさにこの題材がサブプロットだったわけだけど、あれは1993年の小説が原作なのよね。知ってる人は知ってる話だったわけか……?
マーク・ラファロ、レイチェル・マクアダムスなど、主だったキャラクターは全て新聞記者で、映画は徹底して彼らの目線で作られている。
序盤で編集長に「ネットに負けないように」みたいなことを言われるが、まさにネット記事眺めてるだけでは絶対にたどり着けない事実に、地道にガンガン迫っていく。被害者たちと対話し、取材を重ね、一次資料を読み解いていく彼らの仕事には、ググってるだけでは永遠に追いつけない。
もちろん神ならぬ身、限界もあるのだが、映画ではその「神の視点」を、冒頭の警察のシーンを除いて決して入れ込まない。あくまで記者、ジャーナリストである彼らに与えられる情報だけで、このおぞましい事件を解き明かしていく。
なかなかこれ、実は想像力、共感力を試される映画で、例えば『トガニ』などのように少女がキモオヤジにレイプされるシーンを入れれば、簡単にその下衆さクズさは伝わる。だが、今作はそれとは正反対のアプローチで、一切現場は見せず涙を誘う場面もないままに、事件を伝聞としてのみ提示していく。
「枢機卿」と言えば『三銃士』の昔から悪役と相場が決まっているのだが、今作では自らの地位と将来の法王の座を守ろうとする男。しかし主人公たちの取材を見ながら、特別何かして邪魔をするというわけではないのだな。こちらもまた強固な「伝統」に絡め取られていて、本人には特別悪いことをしているという意識もなく、ただ慣習に従っているだけにも思える。
わかりやすい悪役が立ちはだかってくることはなく、古くからのシステムがあり、多くの人間がそれに加担している。信仰があり、それを守ることが内面化されているがゆえに、その秩序を乱す者を敵視する。性暴力の被害者も例外ではない。波風の立たない存続こそが是となり、問題点は再点検されることなく放置、温存される。
神父による児童への性暴力は、聖職者の婚姻を禁じ、性をタブー視する教会の教義が生んだどす黒い副産物であり、統計上必ず発生するものであることも語られる。が、それを隠し、見て見ぬふりをして放置し続けることは一部の「変態」の問題ではなく、組織に関わる者全てに関わることである。欧米社会におけるキリスト教、教会の問題に留まらず、自分の所属する社会、企業や共同体において大なり小なり差別や不平等な行為があった場合、いかにしてそれと対峙するか。本作の「スポットライト」班や、スタンリー・トゥッチ演ずる弁護士、そして声をあげた名もなき性被害者たちを思ってみるのも良かろう。
アカデミー賞というにはいかにも華がなく感じられるが、実直でいい映画ですよ。
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