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タックスヘイブンで税金逃れをしていることが世間をにぎわしている。困った問題だ。うまい対策もなかなか見つからない。そこで、読者は尋ねるだろう。
「困ったときの Openブログといつも言っているが、さすがにタックスヘイブンの問題には、うまい対策はあるまい。金をかすめ取ろうとして悪知恵を働かせる悪党連中を、うまく懲らしめるという、そんなエンタメ小説みたいなアイデアは湧くまい」
まあ、そうです……と答えたら、私の名折れだ。 (^^);
そこで、以下では、うまい対策を示そう。
・ 会社対策
・ 個人対策
の二通りに分けて考える。いずれにしても、「本質を考える」という地点から発想する。
会社対策
タックスヘイブンで税金逃れを会社には、どう対策するか?
ここで、本質を考えよう。タックスヘイブンが税金逃れをして得た金は、どこへ行くか? 会社か? 株主か? 別の誰かか? ……ここまで考えると、次のアイデアが浮かぶ。
「タックスヘイブンで金を(パナマなどの)別会社に移転すると、本国(日本)にある本社の利益はその分、減少する。利益が減少するので、本社の株主は損をする。だから、別会社に利益を移転するという操作に対して、本社の株主はダメ出しをすることができる」
具体的に言おう。日本に本社があり、パナマに子会社がある。パナマでは無税なので、日本の本社で得た利益をすべてパナマに移転する。すると、双方の全体では、利益に対する課税がゼロになる。全体では、脱税に成功する。(ここまでは筋書き通り。)
しかし、このとき、日本の本社は利益ゼロになる。すると、本社の株を持っている株主は、配当金を受け取れない。また、株価も暴落する。(利益を上げない会社の株は、価値がろくにない。)
このとき、本社の株主が、子会社の株を持っているなら、問題ない。しかし、本社の株主が子会社の株を持っていることは、通常はありえない。(東証一部上場のような大会社ならばそうだ。)
特に問題なのは、次のことだ。
「子会社の株を、経営者の一族がこっそりと所有している」
たとえば、子会社の株の半分を本社がもっていて、子会社の株を経営者の一族が持っている。そして、本社で上げた利益である 100億円を、子会社に移転する。すると、その 100億円は無税でそのまま残るが、そのうち半分は経営者の一族に入ってしまう。残りの 50億円が本社に入るだけだ。
これはいわば、「経営者による横領」だ。それによって、本社の株をも持っている株主は、金を盗み取られたことになる。
というわけで、「タックスヘイブンを使って利益を移転する」というのは、本社の株主にとっては不利益に当たるわけだ。だから、(法律問題でなく)株主にとっての損得問題として、株主が会社に対して「タックスヘイブンを使うな。資金を明朗化せよ」と主張するべきだろう。また、政府は、そういう方向で制度を整備するべきだろう。
基本的には、株主にとっては、「タックスヘイブンを使うことのメリット」よりも、「タックスヘイブンを使うことのデメリット(巨額資金横領の危険性)」の方が大きい。比喩的に言えば、東芝や三菱の経営者みたいなのが、会社の価値を毀損ししてしまうようなものだ。いや、もっとひどい。オリンパスの経営者が会社資金を勝手に流用してしまったのと同様だ。
こういう不明朗な会計を阻止することこそが、株主にとって利益となる。(というか、不利益を排除する。)
だから、法的にタックスヘイブンを規制するよりは、「資金明朗化をめざす株主の意向に従う」という形で、資金明朗化を推進するべきだろう。
比喩的に言えば、「北風より太陽」という方針だ。「駄目だ、駄目だ」と規制するよりは、「会社の持主である株主が自発的にそうしたがる」というふうに仕向けるべきだ。
( ※ なお、「本社が子会社の株をすべて持っている」という場合も考えられる。しかしこの場合は、「子会社の利益を配当として本社がすべて吸い上げる」というふうになるから、これでは、利益を移転する意味がない。脱税にならない。元の木阿弥だ。子会社の利益を本社が得た時点で、本社には多額の課税がなされるからだ。)
個人対策
上に述べた方法は、個人の場合には適用できない。個人の場合には、本社の株も子会社の株も、すべて自分が 100%所有できるからだ。したがって、個人の場合には、「株主の意向で資金を明朗化する」という方針は取れない。
では、どうする? お手上げか? Openブログも降参か? いやいや。まだ別の案がある。
ここで本質を考えよう。タックスヘイブンへの資金の流れがあるが、タックスヘイブンに現金があるのか? もしあるのならば、その現金を調査することで、現金の動きを調べることができる。パナマ政府にはその気がないとしても、パナマの銀行がこっそり覗き見ることができる。
というのは、理屈の上では成立するが、現実にはありえない。なぜか? パナマには現金はないからだ。ケイマン諸島にもない。タックスヘイブンには現金はないのだ。
では、現金はどこにある? もちろん、スイスだ。世界中の汚れたマネーは、みんなスイスに流れ着く。(一部はシンガポールや香港にも行くが、基本的にはスイスだ。顧客の秘密保持について厳密な法律があるのは、スイスだけだからだ。)
だから、スイスの銀行の秘密保持という制度を崩せば、個人資金の流れもわかるようになり、個人の脱税も阻止できるようになる。
というわけで、「スイスの銀行の秘密保持という制度を崩せ」というのが、対策となる。これによって、個人の脱税も摘発できるようになるだろう。(資金の流れがバレれば当然だ。100億円ぐらいの出所不明な金があれば、たちまち税務署が目を付ける。)
さて。上の提案に対して、反論も来そうだ。
「スイスの銀行の秘密保持という制度を崩すことなんか、できるわけがないだろう。絵に描いた餅だ。画餅だ。実現性ゼロだ。さすがの Openブログも、ヤキが回ったな」
いやいや。それは勘違いだ。スイスの銀行の秘密保持という制度を崩すことは、可能である。というか、すでにいくらか実現済みだ。ググればすぐにわかる。
→ Google 検索
この1番目の項目から引用すると、こうだ。
《 パナマ文書で崩れるスイス銀「秘密保持」 国際社会の圧力に屈服 》
……スイスの銀行だ。世界の要人が秘密資金を保管してきたとされるが、近年は国際社会の圧力に屈服し独特の銀行制度は崩れつつある。
パナマ文書の暴露によって、UBSやクレディ・スイスといったスイスの名だたる銀行が、租税回避地の法人を使って財テクを行いたい富裕層の顧客に対し、法人設立を仲介していたことが明らかになった。
スイスの銀行には、顧客情報の秘密保持を厳しく規定した法律の下、北朝鮮の故金正日総書記ら各国要人や、経済界の大物が秘密資金を保管しているとされてきた。
しかし、2008年のリーマン・ショック以降、欧米諸国が徴税を強化し脱税摘発に力を入れ始めたことで、スイスは徐々に方針転換を余儀なくされる。13年には米国から厳しい批判を受け、銀行が顧客情報を米当局に提供することを可能にする制度導入を迫られた。
( → ZAKZAK )
こうしてスイスの銀行の扉をこじ開けることで、個人の脱税・節税にも、うまく対策が取れるわけだ。
というわけで、問題は原理的には解決可能だと示された。完全解決ではないにせよ、十分に妥当な範囲での解決となるだろう。
困ったときの Openブログ。 v(^^);
[ 付記 ]
実を言うと、本当の問題は、日本そのものがタックスヘイブン化しつつあることだ。それは「分離課税」というやつだ。超高所得者の株式売却益および配当利益に対して、たったの 15%しか所得税が課税されない。
下記に数字が書いてある。
→ 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)(国税庁)
→ 株式等の配当金にかかる税金(三井住友信託銀行)
他に住民税が5%があるとはいえ、所得税がこんなに低い税率じゃ、タックスヘイブンとたいして変わりはないようなものだ。
日本じゃ、やたらと金持ち優遇を続けているせいで、貧富の格差が近年、どんどん拡大しつつある。まったく、困ったことだ。すべては自民党政府が改正(改悪)したせいなのだが。
タックスヘイブンより、貧富の格差の拡大の方が、本丸だ。タックスヘイブンの問題は、そのうちの一部が極端に出ているだけだ。氷山のうちの、海面から出て部分だけ、みたいな。
【 関連サイト 】
貧困率では、日本は先進国で2位(1位 USA )で、貧富の格差は近年 急上昇しているというデータ。
→ http://j.mp/1URVBvM
貯蓄率低下のデータ。
→ http://j.mp/1q75AC9
金持ちの資産額が増えたが、庶民は貯金が少額というデータ。
→ http://j.mp/1TakO4P
若者は貧しいが、老人は豊かだ、という俗説があるが、実は、老人は極端に貧富の格差が大きくて、一部に超大金持ちがいる一方、大多数の老人は低所得だ、というデータ。
→ http://j.mp/1rtX4Om (元ページ)
株式等の譲渡所得の分離課税は必ずしも大富豪だけが利用しているのではありません。数万円の投資でも同じです。
所得税が累進税率であるにもかかわらず、譲渡所得税率が一定である事を問題視する見解があります。給与所得が2000万円の人が譲渡所得で200万円を得た場合と、給与所得が200万円の人が譲渡所得で同じく200万円を得た場合とで、譲渡所得税率が同じ15%+5%であるのはおかしい...という見解です。しかし、その譲渡所得を得るための資金の取得時にすでに累進課税されているわけですから、二重に累進課税する必要は無いという考え方もあります。一概に善し悪しは言えませんね。
『ふるさと納税』も実質的には『租税回避』ですね。損得勘定で納税先を選んでいるのが普通の行動なのでしょうから。これも、元々の納税額が多い人がさらに優遇されるので不公平と言えます。そのそも納税額が少ない人にはメリットはない。
タックスヘイブン問題の本質は、「普通の経済的活動が、建前上都合が悪くなる」ことなので難しいです。
税金や金融制度を簡素化することによって投資を呼び込もうとする国や地方があって、それを活用する企業や個人が存在する。これは、普通の経済行動です。しかし、徴税側にとっては、本来の税収が得られない。かといって、税率引き下げ競争は泥沼が予想される(法人税引き下げの国家間競争やふるさと納税の景品競争)のでやりたくない。少なくとも所得の流れだけは明確にして不正を防止したい。と考えるのでしょう。別々の主体の損得競争なので、本質的解決策は難しい。
今回のパナマ文書問題は、世界的な所得格差拡大を背景に、「大富豪」「不正政治家」「グローバル企業」たたきに持ち込む様相ですが、「筋が悪い」のでそのうち消滅するのではないかと思います。
「国外にお金を持ち出すこと」に税金をかける
という方法ではダメなのですか?
合法的資金移転には無力な提案です。
尤も、合法は対象外とされているならば別ですが。
タックスヘイブン対策税制などもあるんですけどね。
たぶんご存じないのでしょう。
・経済的活動を制限しても税をとる
かどうか、かと。
ただ日本だけが国ではないので税が見合わないと思われれば長期的に資金が入ってこず衰退してしまうのが難しいですね
あなた、本項を読めていないんじゃないの? 合法的資金移転を、政府が規制するのではなく、株主が阻止する。北風をピューピュー吹くことはしません。勘違いしないでほしい。
で、問題は、株主にはその情報が与えられていないことだ。会社がタックスヘイブンを使っていることを、株主は情報として開示されていない。
だから、この情報を開示するように法的に命令することができる。そうすれば、株主は資金の移転(= 会社利益の減少)を監視できる。
政府が「情報公開」を会社に法的に命令すれば、租税回避は株主の権限によって可能となる。政府は阻止しないが、株主が阻止する。この意味では、無効ではない。無力ではあるかもしれないが、もともと政府は力を発揮しない。力を発揮するのは株主だ。お間違えなく。政府自体は規制をしません。
> タックスヘイブン対策税制などもあるんですけどね。
いろいろ対策税制はあるが、それらはすべて北風政策です。それは、北風を吹かすことで、通常の経済活動をも阻害する効果(弊害)があるので、まともな効果は上がっていないのが現実です。そのことをご存じないんでしょう。
租税回避先進国(笑)のアメリカでは、タックスヘイブンを利用して(グループ全体の)実効税率を下げないと無能な経営者ということで株主からクレームがくるという状況なんですよ・・・。
開示されてます。請求してください。
応えない場合は、裁判所を使います。
>政府が「情報公開」を会社に法的に命令すれば
法で(今回遡上にあがるような)会社には、株主などへの開示義務があります。
別記事>株主代表\訴訟って、私は意味わからないんですよね。
申\し訳ないのですが、一から勉強されるとよいです。