ロマンの木曜日
2016年5月12日
数ある鉄道趣味のひとつに、列車に「乗る」ことを楽しむ趣味、いわゆる「乗り鉄」がある。そんな乗り鉄の多くが一度は夢見るのが、「JR全線乗りつぶし」だ。
人はなぜ、JRを全線乗ろうなんて思うのか。JR全線乗りつぶしを終えた筆者が、その魅力を紹介したい。 祝・北海道新幹線開業! そのころ乗り鉄はこんにちは。私はいま新青森駅にいる。なぜこんなところにいるのかというと、3月26日に新規開業した北海道新幹線を「乗りつぶす」ためである。
「新青森駅」から北海道新幹線に乗って、北の大地「新函館北斗駅」を目指す
「乗りつぶし」――それは、ただ列車に乗るのではなく、「存在する全路線に乗ってやる」という壮大な目標を持って列車に乗る人たちが使う言葉だ。
なかでも、JRを全線完乗することを目指す「JR全線乗りつぶし」という趣味がメジャーである。10年ほど前にNHKで放送されて人気番組となった『列島縦断 鉄道乗りつくしの旅 〜JR20000km全線走破〜』で、この趣味を知った方も多いかもしれない(NHK的にNGだったのかもしれないが、「乗りつくし」よりは、「乗りつぶし」という言い方が一般的だと思う)。 北海道新幹線は、乗車時間の約半分が青函トンネルの中。1時間ほどで着くこともあり、はるばる乗りに来たわりに感動は少なかった。でも満足
JR全線乗りつぶしをやっていると、今回のように新規開業路線を制覇するため、わざわざ北海道まで足を伸ばす必要が出てくる。一見苦行のようにも思える趣味だが、本人はもちろん楽しくてやってるのだ。
今回は、そんな壮大な趣味の一端をご覧に入れたい。 私の乗りつぶしプロフィールまずは、私の「JR全線乗りつぶし」プロフィールを述べておく。
電車とは縁のない地方都市に生まれ、鉄道には全く興味のなかった私だが、2003年3月(当時20歳)に、突如思い立ってJR全線乗りつぶしを開始。 「ひたすら旅に出て列車に乗る」のを繰り返した結果、7年後の2010年5月、JR西日本の草津線・柘植駅にてJR全線完乗を達成した。 完乗したときの浮かれた写真(2010年5月)。現地で知り合いに祝ってもらった
完乗には「10年」かかるという意見が多いので、私の「7年」はそこそこ早い方だと思う。
7年間でどれだけの路線に乗ったかの達成率を記録したのが次のグラフだ。主に大学の春休みと夏休みを利用して乗りまくったので、きれいな階段状になっている。 私のJR乗りつぶし達成率の記録。最後まで息切れすることなく乗りまくった(グラフがきれいな右肩上がりになっている)のが自慢
ここまで聞いて、「なんだ、そんなに大したことないんじゃない?」と思った方もいるかもしれない。いやいやいや、どれくらい大変かをちょっと説明させてもらいたい。
壮大な目標、「JR全線乗りつぶし」この趣味を志した人がまずぶち当たるのが、JR鉄道網の広大さである。市販の時刻表を見れば分かる通り、JRの路線は全国各地に張り巡らされている。
JRの全路線を書きだすと、まるで毛細血管のようになる。この赤い線は、海岸線でも河川でもなく、全て線路。全部に乗るのを想像するとめまいがしてくる(画像は「乗りつぶしオンライン」で作成)
特に難易度が高くて乗りつぶし泣かせの地域として、東北地方と中国地方があげられる。数時間に一本程度しか列車が来ない過疎路線がゴロゴロしている上に、なんといっても、あみだくじのように縦横に結ばれた路線が曲者なのだ。
例として、中国地方の山陽側(赤線)と山陰側(青線)とを結ぶ路線をグラフ的に表してみた(もちろん山陽・山陰を結ばない路線がこれ以外にある)。「巡回セールスマン問題」に見えなくもないが、どうやっても同じ場所を何度も通らないと全路線に乗るのは無理
一度の旅行で全ての路線に乗り切るのは難しいので、何日もかけてひたすら乗りまくるか、数回の旅行で乗り切れるように綿密な計画を立てて臨む必要がある。
私の場合は、後者のやり方で乗りつぶした。くだんの中国地方をどんな経路で乗りつぶしたのかを図にしてみるとこんな感じ。 私の中国地方乗りつぶしルート。これだけ乗るのに9回旅行している
上の図を見ると分かるが、特定の区間を乗りつぶそうと思うと、そこに至るまでの路線に何度も乗らなければいけない。なので乗りつぶしが進んでくると、乗ったことのある路線に乗る時間の方が長くなってきて、だんだん難易度が上がってくる。絶妙のゲームバランスであるといえる。
乗りつぶしの辛いところ他にも辛いと思われる点をあげてみる。
・便数の少ない路線があると、そこの時刻表に合わせた旅程を立てないといけない 時刻表がスカスカの場合は、入念な計画がないとまず乗ることができない。目当ての路線に乗るために、一日の大半を費やすこともある。写真は津軽線・三厩駅のシンプルな時刻表(2006年9月撮影)
・乗継ぎが悪い場合も多く、何もない駅で1時間以上平気で待つ
乗継ぎのため完乗までに最低2回は訪れる、広島県にある「備後落合」の駅前。こういう場所に来たら、とりあえず何もせずにボーッと過ごすのが良い。待つのが好きじゃないと辛いものがある
・列車トラブルがあると、一瞬で計画が崩れる
長く列車に乗っていると、どうしてもトラブルに巻き込まれる。写真は、落石のため運行打ち切りになって降ろされた、岩手県の山田線・区界駅。何が辛いって、日を改めて再びこの駅まで来ないといけないのだ(泣きながら再訪した)。忍耐力は必須!
・そして当たり前のように、ひたすら列車に乗る
これは実際に私が2006年8月に旅した経路。山陰を旅するのかと思いきや、そのまま下関に抜けて……
九州に入ったのち、長崎・熊本・鹿児島を経由して屋久島に行った。在来線が乗り放題の「青春18きっぷ」を主に愛用しており、だいたい一日8時間を上限に乗っていた
とまぁ、人によっては苦行と感じる事柄が山ほどある。
しかし、これを楽しめるようになれば、もう乗りつぶしなしでは生きられない体になるのだ。次からは、何が楽しいのか私なりの考えをまとめてみた。 いろんな景色が見られる全く興味がない人に説明するなら、まずこの「いろんな景色が見られる」から入るのが無難だろう。乗りつぶしをしてないと一生行くことはなかっただろうなあ、という地域にも(強制的に)行ける。そして、もれなくいろんな景色が見られる。
山奥の秘境駅に行ってみたり(写真は四国山地にある秘境・坪尻駅)、
夜行列車に乗ってみたり、
車窓からサラブレッドが見られる路線(北海道の日高本線)があったり、
晴れの日もあれば、
雪の日もあり、
たまには何もない駅で降りて、意味もなく散歩してみたり、
海の見える駅でたそがれてみたり(予讃線・下灘駅)、
地平線に沈む夕日を眺めてみたり……
乗りつぶしの道中では、たっぷりすぎるくらいの時間がある。強制的に普段の生活から切り離されるため、雑事に追われることもない。ゆっくりと流れていく車窓に身を任せ、ときには考えにふけったり、ときにはうたた寝をしたりと、自由なひとときを過ごすことができる。
長期休暇のシーズンになると、絶景のローカル線を紹介したムック本が山ほど出るので、最初のうちはそういうのを見て情報を仕入れるもの良い……と、何だか普通に鉄道旅行の紹介記事みたいになってしまった。もっと踏みこんだ話をしよう。
|
|
▲デイリーポータルZトップへ |