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2016-05-12

「この子は本当に俺の子?」王も庶民も、過去に男が逃れられなかった疑念と悲劇〜井沢元彦「暗鬼」や豊臣秀頼の話

| 「この子は本当に俺の子?」王も庶民も、過去に男が逃れられなかった疑念と悲劇〜井沢元彦「暗鬼」や豊臣秀頼の話を含むブックマーク 「この子は本当に俺の子?」王も庶民も、過去に男が逃れられなかった疑念と悲劇〜井沢元彦「暗鬼」や豊臣秀頼の話のブックマークコメント

ベストセラー(1〜10万VIEW以上)を次々出している出版社の「gryphonjapan・togetter出版」(という「ごっこ」意識がある) http://togetter.com/id/gryphonjapan の中では超人気作ではないのですが、じわじわと読む人が増えている…のが最新のまとめ

豊臣家と狐と陰陽師…そして秀吉と淀君と、秀頼の話 - Togetterまとめ http://togetter.com/li/973692

自分は安倍晴明に代表される「陰陽師」のブームに関してかなり乗り遅れて、今でもあまり関心がないのが正直なところなんだけど、それでも「織田信長が忍者を畏れ、伊賀甲賀を弾圧した」的な意味で「秀吉vs陰陽師」という構図は、いろいろいじくれそうである。

信長vs忍者は、KOEIでなんとかっていうゲームになった。秀吉vs陰陽師もそうならないかね。


ただ、ここに関しては、もっと下世話なるテーマがある………

上のtogetterの後編部分に収録した話だ。

http://www.yamakawa.co.jp/product/detail/2090/

河原ノ者・非人・秀吉

河原ノ者・非人・秀吉

河原ノ者・非人・秀吉

価格:本体2,800円+税在庫: 在庫あり 解説:第66回 毎日出版文化賞(人文・社会部門)を受賞しました

社会の重要な役割を担いながらも,差別に耐え,誇りを持って生きてきた人びと。中世史の観点から差別の歴史を叙述。

だが、

ナニコレ…

 ↓

第十一章 秀頼の父

 一 疑い

 二 豊臣鶴松の場合

 三 拾(豊臣秀頼)の誕生

 補論一 秀吉実子説がある朝覚、石松丸、

       および養子金吾(小早川秀秋)らについて

 補論二 軍陣と側室 − 茶々の行動と名護屋

第十二章 秀吉と陰陽師

 一 声聞師陰陽師・舞々

 二 声聞師狩り、京・畿内からの追放

元ネタは、まじめな学術書。めちゃくちゃ大部の本ですぜ。

これに若手歴史学者のホープ、磯田道史氏が反応してコラムを書いているので、一度紹介した記事から再録。

http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20150409/p4

gryphonjapan@gryphonjapan

本日の読売新聞磯田道史「古今あちこち」はヒジョーに下世話で面白い話(笑)をしている。「豊臣秀頼は、秀吉の実子なのか。」

実は、歴史上いつでも通用する法則がある。「その子の誕生日の十月十日前、ご夫婦は部屋を共にされましたか?」と…。秀頼誕生は、1593年8月29日

ところが、その前年、1592年6月5日、秀吉は朝鮮出兵のため、肥前名護屋城に来てずっと滞在してるんや。いわば長期出張。簡単にいえば淀殿はこの時、名護屋に来てたのか。というか来てなきゃ、自動的に秀頼は…。

磯田氏はいう「淀が名護屋に来たならば当然、来たという記録が残っているはず。だがその記録が無い!確認できる資料は1つ、それも縁の薄い田舎侍の伝聞。太閤関連の記録係は、あの名ジャーナリスト太田牛一(「信長の忍び」にも登場)。淀殿名護屋に来たるという記録の『無い』ことで、自分(磯田氏)は「淀殿、名護屋に来なかった」説をとる。太田牛一著の「太閤様軍記の内」に記述が無いのが致命的だ。そうなると自然と、1593年8月29日生まれの豊臣秀頼豊臣秀吉の子ではない、という結論に到達する。誰の子かは、詮索しないが…(談)」 


そこで井沢元彦の傑作歴史推理「暗鬼」を紹介するのだ。

そのtogetterに着けた自己コメント

DNA鑑定の発明される前、「この子は俺の子かよ」という疑念の話は、権力者の後継争いにまつわると実に陰惨になる。井沢元彦の「暗鬼」という短編は、だれでも知ってる超有名戦国武将の、実際の歴史、行動ともうまく絡めた実に傑作でした。/そしてTの書いたAという架空歴史小説アニメにもなった)は、この実子の問題が絡んできますよね。後半になって明かされるのでイニシャルトークですが…

暗鬼 (新潮文庫)

暗鬼 (新潮文庫)

ブログをやる前、過去に「暗鬼」を紹介した当方の文章が見つかったので、これも再録します

もともと彼がデビューしたのは江戸川乱歩賞受賞作「猿丸幻視空」でのミステリーの俊英としてのものである。彼は「歴史推理」「時代推理」を分けて定義している。歴史推理は史料などから、歴史の事実を探り当てる、「逆説の日本史」に繋がる作品(「忠臣蔵元禄十五念の反逆」「義経はここにいる」など)で、時代推理は歴史上の人物が探偵役となって活躍するもの(「信長推理帳」「ダビデの星暗号芥川龍之介が探偵役)」など)であるが、猿丸はその両方の合わせ技。

筆者の意見としては、歴史ミステリーは現在の事件とからめて書かねばいけないというお約束があるらしく(子供向けのSFでは、必ずロボットが出てくるようなものか?)、それで完成度が低くなりがちなことと、「逆説の」とネタが重なることが多いことが気になる(対話形で論述されて理解しやすくなることもあるが)ので、時代推理のほうを推薦したい。時代推理の良いところは、時代設定が過去なので現代を舞台にしたら科学捜査や、通信テクノロジーで解明できるるはずのトリックを、文字通り自分の頭だけで解決しなければならないところにある。

これは捕り物帳全てに共通することではあるが、時代推理の場合、探偵役は実在の有名人物だから、その人の特性や背景を謎にからめねばならない。そこが井沢はべらぼうに上手い。(信長なら、敵の多さやその権力、芥川はその古典教養を推理にからめている。その一つの頂点を極めたのが「暗鬼」(新潮文庫)だろう。これは時代推理というジャンルとは実は微妙に違う何と言うべきか、実際の歴史に沿いながらも「実は・・・だった」というジャンル――。「伝奇小説」という人もいるが……例の「影武者 徳川家康」や「帝都物語」のような、そういう小説最高傑作だ。

表題作では「信長が今川義元の大軍を奇跡的な奇襲で撃破した」「家康が自分の子供達になぜか冷たかった」「しかし信長の命で処刑した長男の信康だけは生涯惜しんだ」という歴史の「事実」を、ある一つの虚構に沿ってそのまま組み込み、ものすごく説得力のある物語を作りあげた。そのリアリティ、巧みに張られた伏線、合理的な展開、そして驚くべきどんでん返しと、それによって今までの見方が全て逆転する鮮やかさ。そして人間のどうしようもない「業」をかんじさせるこの傑作、本来の探偵vs犯人という意味ではミステリーではないが、しかしそれでもこれを日本ミステリー短編の指折りの傑作と数えて何の異論も出まい。これに勝るとも劣らないのが同じ本に収録された「賢者の復讐」である。日本で最高の金と権力を持った太閤秀吉を、死ぬまで後悔させる復讐とはなにか。これを読めばミステリーのかなめが、トリックだけにあるのではないのが

よくわかるだろう(トリック自体は単純)。

同じく人間の業を見すえた、寓話的色彩の強いこの好短編、マジで教科書に採用すべきだと思う。他も好篇ばかりだが、この2つだけでも読む価値有り。


上ではイニシャルトークにしたけど、よく考えたら二転三転するのだから、最初の「一転」は紹介してもいいと思う。

上で書いた「TのA」は、「田中芳樹アルスラーン戦記」でした。

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上のコマは

そして5巻が出てるでやんの。


アルスラーン戦記は「血統」にまつわる因縁をうまく使って、そこから「王の正統性(あるいは正当性)とは」という大きなテーマにはめ込んだ手腕も見事だったが、ストーリーとしての「実は……だった」というミステリーとしてもすごいもので、もともとミステリーデビューした作者の全盛時の手腕が縦横に発揮されている。

そしてまた、一回転して、上の話に出てきた史実、歴史研究と接点ができている…似た構図になっている、というのがね(笑)。



そして王じゃなくても庶民でも、…仮にDNA検査が可能になっても、この問題は続く。

本日「DNA親子鑑定」判決。法の発想に無かった「DNA」を科学が生んだのだから、そりゃ混乱するわ。歴史よ、科学にひれ伏せ。 - 見えない道場本舗 (id:gryphon / @gryphonjapan) http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20140717/p3

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DNA鑑定・親子関係裁判」最高裁で僅差判決…この裁判は「人類社会の常識が、科学で覆る」というSF的状況なのだ - 見えない道場本舗 (id:gryphon / @gryphonjapan) http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20140718/p3

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gryphongryphon 2016/05/12 09:13 今日は分量的にはなかなか満足に。