【ドバイ=久門武史、ロンドン=黄田和宏】サウジアラビアが原油の増産を辞さない構えを示している。4月の産油国会合では増産凍結を拒んでおり、自らの市場シェア維持を優先する姿勢は一段と鮮明だ。石油輸出国機構(OPEC)が6月に開く総会で、原油市場の安定に向けた対応策で合意するハードルは極めて高くなっている。
「要求が何であれ、我々は応える」。国営石油会社サウジアラムコのアミン・ナセル最高経営責任者(CEO)は10日、「追加生産への要求は常にある。2016年中に生産は増えるだろう」と語った。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)などが伝えた。
低コストで原油を生産できるサウジが増産すれば、相対的に生産コストの高い産油国を圧迫する。経済制裁が解け増産を急ぐイランなど、シェアを争う競合相手をけん制する狙いも透ける。
主要産油国が増産凍結を目指した4月17日の会合の直前、サウジのムハンマド副皇太子はイラン抜きでの凍結には応じない考えを強調。サウジは土壇場で合意を拒み、生産調整は失敗に終わった。副皇太子は生産量を現状の日量1000万バレル強からすぐにでも1150万バレルに増産できるとも明らかにしていた。
副皇太子は経済政策の意思決定機関のトップを務め、父であるサルマン国王の後ろ盾を得て権限を集めた。4月25日には向こう15年の経済改革構想「ビジョン2030」を発表し、アラムコの新規株式公開(IPO)などを掲げた。原油政策でも影響力を強めているとみられる。
サウジは5月7日の内閣改造で、20年以上にわたり石油鉱物資源相を務めたヌアイミ氏を退任させ、後任にファリハ・アラムコ会長を起用した。かつて市場関係者は、ベテランのヌアイミ氏の発言に最も注目してサウジの動向を分析してきた。石油担当相の上に立つ副皇太子に権限が集まったことで、サウジの政策に予測がつきにくくなっている面がある。
世界最大の原油輸出国サウジが増産をちらつかせたことで、6月2日に開くOPEC総会で加盟国が生産調整でまとまるのは一段と難しくなりそうだ。4月に合意を先送りした増産凍結について改めて協議する見通しだが、協調の機運はしぼんでおり、議論は入り口にも達していない。
総会を前に、加盟国間のシェア争いは一段と激しさを増している。イランは高水準の生産を続けるサウジやイラクから顧客を奪うため、アジア向けの原油販売価格を値引きするなど、経済制裁下で失ったシェアの回復に躍起になっている。
ベネズエラなど一部の加盟国が総会にロシアなどの非加盟国を招待することを探る動きもあるが、加盟国間での利害対立が深まる状況では、協議が一段と難航するのは必至。長らくOPECの盟主を務めてきたサウジが増産で強硬姿勢を貫けば、増産凍結で合意できないばかりでなく、自らOPECの存続を危うくするおそれもある。