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ひそかブログ

アニメでするリアルの話、リアルでするアニメの話。そういうのが好きです。

『となりのトトロ』に続編があったら収益上げたろうけど。アニメビジネスの基本「版権事業」

アニメ感想・アニメ関連の話

増田弘道著「もっとわかるアニメビジネス」にこんな事が書かれていました。

― もしも「となりのトトロ」に続編があれば、と思ってしまう ―

勝手に続きの文章を予想するならば、
(莫大な利益を上げただろう)
という感じでしょうか。

そんなわけでこの記事では、「版権事業」を中心にアニメのビジネス的な話を。詳しくないのでたどたどしい部分が多々ありますがご了承ください。

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参照「もっとわかるアニメビジネス」増田弘道著

もっとわかるアニメビジネス

もっとわかるアニメビジネス

増田弘道さんは、執筆の2010年当時、マッドハウスの代表取締役だった方です)


アニメビジネスの基本「版権事業」

もしも「となりのトトロ」がディズニーやピクサー作品だったなら。
「シュレック」シリーズや「トイストーリー」シリーズのように、「となりのトトロ2」や「となりのトトロ3」を確実に作っていたことでしょうね。なぜならばまずは続編による劇場版の興行収入、円盤、関連グッズなどによる売り上げがある程度確実に見込めますから。

そしてさらに大きそうなのが版権事業(商品化の権利)による収入。
版権事業とは英語ならロイヤリティービジネス。「となりのトトロ」でいうならば、他社に「となりのトトロ」関連グッズの商品化を許可するかわりに、売り上げの数パーセントをいただくって形のビジネスになると思います。


本書の中で増田弘道さんは、
― ここ(版権事業)にアニメビジネスの基本がある ―
ということを書かれていました。

つまり人気のキャラクターを次々とグッズ化し、そのロイヤリティ収入を得るのがアニメビジネスの基本。別な言葉ではそれをキャラクターのマーチャンダイジング(MD:商品化)とも呼んでいました。MDはビジネスモデルとしてはリスキーながら、かわりに当たったときのリターンがすごいようです。ハイリスクハイリターン。一度経験するとやみつきになるんだとか。ま、ぶっちゃけギャンブルですね。


「となりのトトロ」の場合、グッズ化は最初から狙っていたわけではなくあとからそうなった、という形になりますが、著者の増田弘道さんは自身の推測としてこう書かれていました。

― 長年にわたりジブリをビジネス的に底支えして来たのはトトロじゃないだろうか ―

そういえば私も以前……
トトロの巾着を買ったことあったなぁ(o ̄▽ ̄ φ)
トトロ関連グッズを購入した事あるよ、って方けっこういらっしゃるのではないでしょうか。


アニメ版権事業の利益率

では版権事業について東映アニメーションを具体例に。
アニメ製作会社における版権事業がどんなものか、本書「もっとわかるアニメビジネス」から転載させていただきます。
下のグラフは「東映アニメーション連結決算書」(2007年~2010年)から、著者の増田弘道さんがご自身で作成されたグラフです(p.213)


東映アニメーション各事業ごとの売り上げ
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事業ごと売り上げのパーセンテージ
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各事業内容の概要です ↓

  1. 映像制作・販売事業(=劇場・テレビアニメ制作・オリジナルビデオ制作・ビデオソフト販売)
  2. 版権事業(=国内外の商品化権)
  3. 商品販売事業(=グッズ販売)
  4. イベント及び催事事業

「版権事業」は上のグラフでいくと、まあ売上の柱のひとつだなって感じですよね。版権事業が総売り上げに占めるシェアは、平均して32.4パーセントとのことです。


ところが売上の割合いではなく。
「版権事業」が総売上に占める利益割合となると、様相がガラリと変わってきます。


事業ごとの営業利益率 ↓

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(p.217より)


売上で見れば32.4%に過ぎない「版権事業」は、利益に占める割合となると73.4%に跳ね上がっていますね。
以下、本書からの引用です。

映像制作・販売事業も潜在的な付加価値は高いものの、パッケージ売り上げが減りつつある現状では売り上げの割には利益が少ない。物販がメインの商品販売事業は流通事業なので利益率は低い。
その点、版権事業はロイヤリティベースなので非常に利益率が高い。
東映アニメーションにおけるこの営業利益の構成比率は、アニメ製作においてはMDビジネスがメインに位置していることを証明している。(同じくp.217より)

版権事業の利益率の高さ。
それが本書における要点のひとつでしたし、面白かった点のひとつでした。



話をスタジオジブリに戻すと。
ジブリもトトロによって似たような傾向がでているのではないでしょうか。
増田弘道さんによる推測、
― ジブリの経営を底支えしてきたのはトトロでは? ―
そう考える根拠は、この版権事業の利益率の高さなのでしょう。

そういうわけで最初に書いたように、
― もしも『となりのトトロ』に続編があれば、と思ってしまう ―
となるのでしょうね。
まさに捕らぬ狸の何とかってヤツですが。


またディズニーやピクサーと違い、続編を作らなかったことに好感が持てるのも事実だったりします。ビジネスライク過ぎないというか作品が先で儲けが後とでもいうのか。「となりのトトロ」に続編があったら儲かったんだろうなぁと思いつつ、もしもつくられたならばそれはそれでビジネスの匂いがプンプンしたんだろうなぁと。
ちょっと複雑な思いを抱いたりもします。


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製作と制作の違い

ちょっと補足を。
よく「アニメーション製作」と「アニメーション制作」って目にされませんか?
作と作ってどう違うの? 字も似ているしややこしいですよね。

この違いはなんと言えばいいのだろう…… 
誤解を恐れず言えば作品の発注側(製作)と受注側(制作)、とでもいうのかなぁ。

作品の著作権、運用権を所有するのが製作会社で、制作料を得て実際にアニメをつくるのが制作会社になります。もちろん、製作も制作も両方兼ねた作品をつくっている会社もありますが、日本のアニメ会社の大多数は制作会社になると思います。作品に対する責任を負うのは製作者の方で、今は製作委員会という形を取り、数社でリスクを分散するのが主流って感じでしょうか。

だいたいこんな感じ、ぐらいでしかわからず恐縮ですが。


当事者によるトトロの話

さて。
上に書いたあたりまでの内容は、以前一度記事にしようかなぁと思ったものの、気乗りしない部分もありそのまますっかり忘れていました。しかし最近とある本を読んでいたら、今度は当事者によるトトロの収益の話が出てきました。そのことに驚きましたし、とても興味深い内容でした。

本のタイトルはスタジオジブリでプロデューサーを務める鈴木敏夫さん著作、
「仕事道楽 新版 スタジオジブリの現場」です。

仕事道楽 新版――スタジオジブリの現場 (岩波新書)

仕事道楽 新版――スタジオジブリの現場 (岩波新書)

この本読んだよってジブリファンの方、結構いらっしゃるんでしょうね。


以下少し長くなりますが、本書から中略しつつ引用させていただきます。

『となりのトトロ』と『火垂るの墓』は、興行成績は決してよくなかった(両作は二本立て公開)。ジブリ全作品のなかで、この『トトロ』と『火垂る』はいちばんお客さんの来なかった作品なんです。
話はここからです。
『トトロ』が大人気を得るのはテレビ放映からでした。
日本テレビの金曜ロードショーで放映されたときの反響はものすごかったですよ。そこで思わぬ副産物が生まれる。
トトロのぬいぐるみです。
最初から企画されていたと勘違いしている人が多いんですが、あれは映画を作ったときの商品じゃない。映画封切2年後くらいに、初めて登場するんです。

それまでジブリではキャラクター商品を考えたことはなかった。
あるぬいぐるみメーカーの人がトトロの魅力に気づいて、熱心に働きかけてくれた結果生まれたものです。この著作権使用料は大いにジブリを潤してくれました。
その結果、封切時には決して好成績といえなかった『トトロ』がいまでは、もっとも収益を上げた映画になったわけです。
いいものは作っておくものだなあ、と不思議な思いにとらわれます。

(p.83~84)


引用しつつ気づいたのですが、ジブリの収益では「トトロ」が一番だったんですね。
円盤売り上げやグッズ販売よりも、版権事業(商品化権)による収入の方がデカいってことなのでしょう。
鈴木敏夫さんの引用文でいう「著作権使用料」
増田弘道さんもおっしゃるように、「著作権使用料」(版権事業)はアニメをビジネスとしてみた時の基本のひとつ。そんなことを「仕事道楽」を読みながらあらためて痛感しました。増田弘道さんの本でも鈴木敏夫さんの本でも、同じような話が出てくるんですもんね。


最後に

アニメの売り上げと言うと、円盤売り上げや興行収入という目に見える数字に関心が行きがちだと思います。しかし版権事業(著作権使用料、キャラクターのMD:マーチャンダイジング)は取り上げられることのほとんどない数字ながら、計り知れない収益をもたらす可能性を秘めているようです。

「となりのトトロ」の場合、続編のある映画でもなく長期放送のTVシリーズものでもなく、単なる一本の劇場アニメーションでしかない。それがこうなるんだからすごいもんですね。

だからもしも続編があったら…… なんて想像をしてしまいます。
同時に、儲けのためだけに続編を作って欲しくないな、と思ったりもしますし。


なんだか堂々巡りでキリがないですが。
そんなわけで今回は、アニメのビジネス的な話でした。




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