パナマ文書 情報開示で国際連携を
租税回避地の実像を映す膨大な内部情報「パナマ文書」の詳細データを、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)がインターネット上に公開した。租税回避地の利用に関係した個人や法人の情報を誰でも閲覧できるようにしたものだ。これを機に、租税回避地の実態解明が加速し、効果の高い対策の実施につながることを期待する。
「所得の不平等は、現代社会が直面する最重要課題の一つだ」−−。パナマ文書を匿名でドイツの新聞に漏えいした人物が、暴露の動機などをつづった文章には、貧富の差に対する強い憤りがにじむ。
格差と税逃れの問題は特に途上国で深刻だ。今週、ロンドンで開かれる英政府主催の腐敗防止サミットを前に世界のエコノミスト300人超が首脳ら宛てに公開書簡を記した。それによると、富裕層による租税回避地利用の結果、貧しい国々が徴収しそびれている税額は年間1700億ドル(約18兆円)にも及ぶという。
租税回避地に向かった資金が各国内で適切に課税され、医療や保健関連の費用として使われれば、アフリカでは年間400万人の子どもの命が救われるとの試算もある。
租税回避地に世界から資金が集まるのは、税率の低さに加え、利用者の匿名性が尊重されるためである。パナマ文書があぶり出したのは、国際金融機関と法律事務所の助けにより租税回避地で実体のないペーパー会社が設立され、真の受益者の隠れみのとなって世界各国の不動産や金融商品に投資する構図だった。
今回、内部文書の漏えいという形で背後にいる受益者の情報が明るみに出たわけだが、こうしたペーパー会社の実質的な所有者情報を各国で一括収集・管理し、他国の税務・司法当局も自在に活用できる多国間のシステムを築くことが急務である。ICIJが指摘するように、全ての人による閲覧を可能にする仕組みも検討してみてはどうか。
租税回避地は米国や欧州にも存在する。英国の統治領も主要な回避地になっている。先進国が率先し大胆な対策を打ち出すことが肝心だ。
ICIJが公開した情報には、日本在住者や日本企業などの名前も300件以上含まれる。租税回避地の利用自体が違法行為を意味するものではないが、課税逃れや犯罪がらみのものはないか、他国の当局と連携し、追及を徹底してほしい。
租税回避地の悪用を完全になくすことは不可能かもしれない。しかし、撲滅を目指し、政府が前進を続けることが、税への信頼性を保つ上でも、貧富の差の縮小のためにも、不可欠だ。月末の主要国首脳会議もその重要な一歩とすべきである。