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12:00
まずは変身前の「田中」を撃破!

リオ五輪、悲願の団体金メダル奪還を目指す男子体操が、大事な緒戦に勝利しました。リオが始まる前の段階で日本の前に立ちはだかった中ボスの名前、それは「田中」。「田中」は代表争いの渦中にある体操選手たちの前に立ちはだかりました。「俺を選べ」「まぁ、最終的に俺は選ぶんやろうけど」「加藤とか神本とかを落とせ」と。

その恐るべきチカラに僕は震えました。

体操の代表選手は、まず昨年の世界選手権個人総合王者の内村航平さんが代表入りを決定済み。残る枠は4月の全日本選手権と昨日のNHK杯での「内村さん以外の合計得点最上位者」が1枠、そして残りは6月の全日本種目別選手権終了後に内定済み選手との組み合わせで最高得点となるパターンなどを検討し、選考されることになっています。

つまり、「内村」+「総合力」+「先の2人の種目別弱点埋め×3」という構成になるわけです。この仕組みを把握した「田中」はまさかの奇襲を仕掛けてきました。何と「田中」は「総合力」枠を狙ってきたのです。「別に狙ってもいいじゃないか、総合得点上位で選ばれたんだから」と思うアナタは「田中」を見くびっている。

リオの団体メンバーは5人。これは日本が王座を奪還した昨年の世界選手権よりも1人少ない構成です。つまり、よりシビアなメンバー構成が要求されている。ここに種目別メダル級の選手を組み入れていくには、内村さんは当然として、もうひとり「何なら全種目出ても大ブレーキにはならない」程度の選手が欠かせません。「内村+そこそこ+各種目の王者」、こういう3人を6種目すべてに並べられてこそ、安定感のある編成ができるというもの。ここを「内村+田中+各種目の王者」とさせることで、複数種目で魔物化を果たそうというのが「田中」の恐るべき計画だったのです。

RPGだって4人パーティなら「勇者(総合)、戦士(一芸)、僧侶(一芸)、遊び人(遊び)」という将来的な転職を見越した編成もするでしょうが、枠に余裕がなかったら遊び人は外すじゃないですか。3人で「勇者(総合)、遊び人(遊び)、戦士(一芸)」だったらすぐ死にそうじゃないですか。勇者はベホイミという名の尻拭いばっかりになるじゃないですか。遊び人は楽しいですが、カバーする余裕があれば楽しく見られるというだけで、死にそうなときに遊ばれたら先にパーティアタックでブン殴りたくなるじゃないですか。まさに「田中」は「勇者、田中…」という順番でおさまろうとしてきたのです。

そ、そんな手があったのか!!

日本、危うし!!

ということで、「田中」の恐るべき計画とそれを辛くも退けた団体日本の奮闘について、5日のNHK中継による「NHK杯体操」からチェックしていきましょう。


◆「今できなければリオでもできない」VS「今できてもリオではできない」!

まず前段として、今年の全日本の結果確認から。総合1位は当然内村さんですが、総合2位につけたのは白井健三さんでした。ただし、白井さんはゆかと跳馬で全体1位を叩き出し、そのリードであん馬・つり輪のロスを埋めた格好。総合力も伸ばしてきたとは言え、6種目にエントリーさせられるかというと不安の残る選手です。

やはり期待したいのは加藤凌平さん。加藤さんは世界選手権個人総合銀の実績があり、昨年の世界選手権でも故障がありながら4種目にエントリーしたオールラウンダー。どの種目に出しても大穴にはならない貴重な総合力の持ち主です。ただし、コレといって傑出した種目はなく、強いて言えばゆか・跳馬・平行棒あたりになるのでしょうが、そこはもっと上の選手がいる激戦区でもある。「総合枠」を落とせば、代表入りは厳しくなる状況でした。「田中」はそこを日本チームの弱点と見切り、奇襲を仕掛けてきたのです…!

↓目標は完璧な演技での団体金メダルだ!

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加藤さんは最初の種目ゆかでピタリと着地まで決め、15.500点の発進。しかし、全日本でリードを築いている世界王者・白井さんは16.150点の爆点をマークし、「田中」も15.200点でピタリと追走。特に「田中」は平行棒と鉄棒で抜けたチカラがあり、全日本では2種目とも全体トップで16点台をマークしている追い上げ型。全日本ではあん馬での大過失があり、後方に沈んではいますが、加藤さんとしては「ゆかで0.3点しか離せなかった」は厳しい立ち上がり。

第2ローテはあん馬。加藤さんは大技こそないものの、安定感のある演技でキレイにまとめて15.000点。あん馬でこの堅実さ、これが日本の求める総合枠のチカラ。持ち点トップの白井さんは演技中に大きくバランスを崩し、終末技でも落下して12.950点。ここで加藤さんは白井さんを全日本との合計得点で逆転します。しかし、「田中」は苦手のあん馬を14.850点の高得点で突破。この時点で加藤さんまでの差0.800点。後半での逆転をハッキリと視界にとらえます。

1班は第3ローテつり輪へ。加藤さんはひとつひとつの技を慎重にこなし、14.450点。苦手のつり輪をまずはしのいだ格好。しかし、「田中」はつり輪では加藤さんをリードするチカラの持ち主。自身の名のついた「タナカ」などの技で14.700点をマークし、加藤さんとの差を縮めてきます。前半を終えて加藤さんとの差、0.550点。また一歩、総合枠奪取へと近づいてきました。

そして勝負の跳馬へ。最後の平行棒・鉄棒は「田中」が抜けたチカラを持つ種目。ここでどれだけリードしておくかで、加藤さんと日本の命運が決まります。先に演技する「田中」はDスコア5.6点のドリッグス(伸身カサマツ跳び1回半ひねり)ではなく、やや難度の低いDスコア5.2点のアカピアン(伸身カサマツ跳び1回ひねり)で14.350点。ここで加藤さんは、昨年ケガをした原因でもあるDスコア6.0点のロペス(伸身カサマツ跳び2回ひねり)にトライし、ラインオーバーがあるものの15.000点をマーク。「田中」を引き離します。

↓加藤凌平、復活のロペス!着地後ギリギリでこらえた足!



着地で減点はあるものの0.1でこらえた!

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いよいよ勝負も佳境の第5ローテ、平行棒。ここは「田中」が強く、高い難度と美しい実施を両立させ、15.950点の高得点。加藤さんは差を守るのが目標となる種目でしたが、倒立の乱れや着地での一歩など細かなミスがあり、15.150点。最終種目鉄棒に持ち越したリードは0.400点。最終種目鉄棒は、4月の全日本では「田中」が16.000点、加藤さんが15.000点。加藤さんは全日本で出たミスを挽回し、15点半ばまで持ってこれるか。「田中」は得意の鉄棒で差を見せつけられるか、ギリギリの戦いになりました。

さぁ、最終種目鉄棒。最初の演技者として登場した「田中」は、スタンドで見守る「田中」理恵さんの応援を受け、逆転への演技。G難度カッシーナなどをまじえるさすがの演技で15.900点。しかし、本来できる演技からは少し安全策をとっての演技。全日本で出した16.000点よりも0.1点下げてきました。

この時点で「田中」はNHK杯6種目を終えて90.950点、全日本との持ち点を合わせて180.000点。加藤さんはNHK杯ここまでの5種目で75.100点で、全日本との持ち点を合わせて174.500点。15.500点で合計得点では並びますが、同点で並べばNHK杯で上位の「田中」が上になる決まり。総合枠での代表入りには15.600点が必要です。昨夏のアジア選手権では15.750点を出しているとは言え、やや厳しい、確実に出せるとは言えない得点。それを今日出せるかどうか。

もしも出せなければ、種目別でのチーム貢献度としては、比較的上位にくるゆか・跳馬で白井さんとドン被りという状況もあって、加藤さんの代表入りは厳しくなります。リオに行けるか、行けないか。それをこの鉄棒1本に懸ける。クチでハッキリとは言いませんが、団体野郎内村さんも「ここは加藤で…」と願っているであろう大事な演技。日本の金奪還へ、最初のボス戦です!

↓着地までピタリ!決めたぞ加藤、中ボス「田中」を撃破でリオ決定だ!


この大事な場面で、着地まで完璧!

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加藤さんの得点はギリギリ逆転の15.600点。着地で一歩動いただけでも加藤さんの代表入りはありませんでした。本人曰く「ここでできなければリオでもできない」と思っての開き直っての演技だったとのこと。そうだ、それだ。「ここでできる」ことではなく「リオでできる」ことが大事なのだ。その点で、加藤さんの代表入りはチームとしても大きなチカラとなるに違いありません。

今後の代表枠残り3名は6月の種目別で決まることになりますが、ゆか・跳馬のチーム貢献度で白井さん、平行棒・鉄棒のチーム貢献度で「田中」が入ることはまず間違いないでしょう。「結局、入るんかい!」というツッコミもあるでしょうが、チカラという意味では「田中」は間違いなく日本屈指の選手。「本番ではベストの0.9掛けくらいしか出せない」「0.9ならまだいいが肝心ところで魔物と化す」「えっ、ここで裏切るの!?」という仕組みのラスボスです。現時点で代表から外すことはまっとうな考えでは難しい。「たぶんダメだろう」という理由では、外すことはできないのです。

こうして団体日本の戦いは、リオへと持ち越されました。予選「田中」戦、団体つり輪「田中」戦、団体平行棒「田中」戦、団体鉄棒「田中」戦と怒涛の「田中」4連戦。すべての「田中」を撃破したその先に金メダルがある。団体野郎内村さんも27歳。東京五輪では三十路に入ります。できるかもしれないけれど、確実ではないくらいの年齢。何とかしてリオで団体金を獲りたい、獲らせてあげたい。「田中」VS内村さんの最終決戦、加藤という援軍を加え、何とか勝利してもらいたいもの。団体野郎が心底喜ぶ姿、一度くらい見てみたいですからね。

↓なお、NHK杯で優勝したのはいつも通り内村さんでした!


あぁ、順位見てなかったわ!

何かもう無意識に「永世名人」みたいな枠に入ってるから!


アテネ団体金の上書きのため、最後まで油断するなよ!「田中」に!