被告に逆転無罪 東京高裁「心神喪失状態」
弟と祖母を刺殺したとして殺人罪に問われた長野県松本市の無職の男性被告(33)に対する控訴審判決で、東京高裁は11日、懲役8年とした裁判員裁判の1審・長野地裁松本支部判決(2014年12月)を破棄し、無罪を言い渡した。大島隆明裁判長は「事件当時、被告は強い妄想の影響で心神喪失状態だった」と判断し、刑事責任能力を認めなかった。
殺人事件の控訴審で裁判員裁判による有罪判決を破棄して全面無罪としたのは、母親を殺害した大分県竹田市の男性を心神喪失状態と判断した11年10月の福岡高裁判決(確定)以来、2例目。
今回の事件の1審では検察側と弁護側の間で被告が事件当時、責任能力が限定される心神耗弱状態だったことに争いはなく、1審判決も同様に認定した。
しかし、控訴審から選任された弁護人は「心神喪失状態だった」と新たに主張した。これを受けて高裁は1審と別の医師の証人尋問などを行い、判決で「被告は『弟に殺される』『弟を育てた祖母は悪魔だ』といった妄想の圧倒的な影響下にあった。心神耗弱とした1審判決は事実誤認がある」と結論付けた。
弁護人の菅野亮弁護士は「被告には医療が必要だという主張を理解してもらった」と評価し、東京高検の堺徹次席検事は「判決を検討し適切に対処したい」とコメントした。起訴状によると、被告は14年4月、自宅で弟(当時28歳)と祖母(同89歳)をナイフで刺殺したとされた。【伊藤直孝】