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中電、浜岡住民組織に30億円

◆原発建設で渡す 都内で文書公開

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 中部電力が浜岡原発(御前崎市)1〜4号機を建設するのに伴い、地元の住民組織に総額三十億七千九百万円余りが渡っていたことを示す文書が見つかった。組織の代表者を務めた男性(故人)の自筆メモで、関係者から提供を受けた一連の資料とともに、立教大共生社会研究センターが十日、公開を始めた。

 電力会社が原発の立地自治体に行う寄付は、なれ合いを生むなどとして批判されてきたが、浜岡原発の場合は一住民組織にまで継続的に行われていた。こうした実態が明らかになるのは異例だ。

 男性は旧浜岡町議の鴨川源吉氏。原発の建設用地の地権者の一人でもあり、中電が1号機の受け入れを町に打診した翌年の一九六八年、地権者らの代表組織として「佐倉地区対策協議会(佐対協)」が発足すると、理事に就任した。

 その後、原子炉増設の際には佐対協の同意が不可欠となるなど原発運営に強い影響力を持つようになった。鴨川氏は3〜4号機を受け入れた七八〜九〇年には会長を務め、九九年に八十四歳で亡くなった。

 資料は「中電協力金集計表」と題され、日付は「(平成)元年8月31日現在調査」とある。

 資料によると、協力金は原子炉を増設するたびに支払われた。中でも、浜岡原発の真下を想定震源域とする東海地震説が発表(七六年)されたり、米スリーマイル島原発事故(七九年)が起きたりして、受け入れ交渉が難航した3号機増設の際には、総額の六割強に当たる十九億円余りに達した。

 旧浜岡町は従来、中電からの寄付金を人口などに応じて町内六地区に平等に分配していた。だが3号機増設の際には、中電との直接取引を指すとみられる「中電直入」の金が計十三億四千万円生じており、全体の金額を押し上げている。「中電直入」は4号機分でも五億円ある。

 鴨川氏が会長を務めた当時、幹部だった男性は資料について「知らない。知っていてもお金のことは言えないし、墓場まで持って行く話」と答えた。同時期に町長だった鴨川義郎氏(88)は「佐対協は中電と直接、補償交渉をしていた。金額までは分からないが、三十億円くらいはもらっているかもしれない」と話した。

 中電広報部は取材に「地元の振興を手伝いたいとの考えから、協力金を支払うことがある。個別の協力内容は相手方もあることから差し控える」とコメントした。

 鴨川源吉氏はこの資料のほか、佐対協の議事録や自筆メモなど大量の資料を残しており、立教大で公開されるのは、計約五百六十点に上る。

 三十億円を超える金が、浜岡原発の地元の住民組織に渡っていた。そこからうかがえるのは、地震大国・日本で原発を建設することの難しさだ。

 原発の立地、建設を円滑に進めるために電力会社は多額の寄付金を地元自治体に落としてきた。旧浜岡町も一九七〇〜八〇年代、中部電力から少なくとも百十四億円を受け取っていたことが本紙の過去の報道で明らかになっている。今回のケースではこれに加え、人口三千〜四千人規模だった一地区にまで、巨費が投じられていたことになる。

 浜岡原発は東海地震や南海トラフ地震で大きな被害が想定されるエリアにあり、「世界一危険な原発」と呼ばれる。手厚い地元対策の背景には、地震や過酷事故への住民の懸念があったはずだ。ところが、「立地交渉は、ブラックボックス。社内でも担当部署以外は事情を知らされない」(中電の元役員)というようにその実態はほとんどベールに包まれてきた。

 東日本大震災を経験し、地震や津波対策は日本中の原発に突きつけられた共通の課題になった。日本で原発を建設し、運営するにはどれだけの費用がかかるのか。そして、これまでどんな交渉が行われてきたのか。電力を消費し、電気料金を払い続ける国民にとって、今回公開された大量の資料は、現在の原発政策を考える上でも大きな示唆に富むはずだ。

(東京文化部・森本智之)

 

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