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10月29日、月曜日。誘拐から丸29日が経過。
目深に被った帽子や普段は絶対に着ないボーイッシュな服、サングラス越しに見る世界に違和感を感じながら、棗さんがレンタカーを借りる手続きを終えるのを駅前で待ちました。
麻衣を誘拐したときからナンバープレートを地面に向けていたけれど、棗さんの車はお兄ちゃんとココを誘拐したときに目撃されてしまったからこれ以上足に使うのは不可能なんだそうです。
麻衣は大きな旅行鞄を抱きしめて、これじゃまるで家出少女だけど、変装したココとお兄ちゃんもいっしょだからきっと旅行者にしか見えない。寝違えた首にギブスをした巡回中の婦人警官も麻衣たちに職務質問はしませんでした。腰にささった本物の拳銃を麻衣はどきどきしながら見つめました。ミッシングに載せているでたらめな個人情報で登録した麻衣のメールアドレスに佐野友陽からメールが届いたのはゆうべ日記を書いた直後のことです。
彼はテレビのプロデューサーで、報道に携わる仕事をしているそうです。メールにあった文章を引用するなら、彼は「今年の初夏に富良野市内で起きた女児連続誘拐殺害事件の被害者遺族」であり、「悲しみは娘の遺骨を手にしそれが跡形なく崩れいくのを目の当りにした瞬間だけ」で「逆上し復讐を決意するどころか逆に自らの欲望を満たすためだけに犯罪を繰り返す人間に興味を覚えた」んだそうです。だから麻衣「と棗弘幸に関心があり」、麻衣たち「に同行し取材がしたい」し、また麻衣や棗さんが望むなら「捜査情報を提供し」てくれるそうです。彼のまだちいさかったこどもを誘拐し殺害した「警察もまだたどりつけないでいるその女児連続誘拐殺害犯と、誘拐されながらも殺害を免れ犯人と共存する女の子に会わせ」てくれると言ってくれています。
「君は君と同じように誘拐事件を生きる女の子に会いたくはないか?」
棗さんがレンタカーに乗って迎えに来ました。大きなワゴンにすればいいのに、また外国製の小さな車。
後部座席で麻衣たちはたくさんの荷物に埋もれて息もできない。
運転席と助手席では棗さんと佐野友陽が名刺を交換しています。
「これからどこへ行こうか?」
棗さんはまだそんなこと言ってる。
佐野友陽は地図を広げて北海道の北の果てを指しました。そこに地名は記されてはいません。
「枝幸に行こう」
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